コロナ禍によるテレワークの拡大は、人々のワークライフバランスに大きな変化をもたらしました。本記事では、ニッセイ基礎研究所が2019年~21年に行った独自のアンケート調査をもとに、岩﨑敬子氏がテレワークによる「残業時間」と「時間のゆとりに対する感じ方の変化」についてみていきます。
テレワークをするようになって、残業時間が伸びた独身女性、時間のゆとりができた独身男性 (写真はイメージです/PIXTA)

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はじめに

コロナ禍のテレワークの拡大が生活時間の配分に変化をもたらしたことを実感する人は、多いのではないだろうか。

 

本稿では、ニッセイ基礎研究所が行った独自のWEBアンケート調査をもとに、テレワークの拡大によって残業時間が増えた人の傾向と、時間的なゆとりを感じるようになった人の傾向を分析した結果を紹介する。

 

結果を先取りしてお伝えすれば、テレワークを実施するようになった独身女性は残業時間が増え、テレワークを実施するようになった独身男性は時間のゆとりを感じるようになった人の割合が増えた傾向が確認された。

調査概要

本分析には、ニッセイ基礎研究所が2019年と、2020年、2021年に行った独自のWEBアンケート調査のデータを用いた
※ 2019年~2021年の「被用者の働き方と健康に関する調査」

 

各アンケート調査の回答は、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象に、全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、2015年の国勢調査の分布に合わせて収集した。

 

2019年に実施した調査の回答の回収期間は、2019年3月で回答件数は6,201件、2020年に実施した調査の回答の回収期間は2020年2月~3月で、回答件数は6,485件、2021年に実施した調査の回答の回収期間は2021年2月~3月で、回答件数は5,808件である。

 

2020年の調査では2019年の調査の回答者から優先的に回収し、2021年の調査では、2020年の調査の回答者から優先的に回収した。

テレワークによる残業時間の変化

ひと月あたりの残業時間の平均の変化

 

[図表1]は、2020年の1月~2月時点から2021年の1月~2月時点にかけた、ひと月あたりの残業時間の平均時間の変化を、男女/独身既婚者/2021年2月時点での週1回以上のテレワークの有無別に示したものである。

 

2020年から2021年の間でテレワークになった人とならなかった人を比較するため、2020年に週1日以上のテレワークを行っていた人は除外して推計した値を示している※1

 

[図表1]ひと月あたりの残業時間の平均の変化
[図表1]ひと月あたりの残業時間の平均の変化

 


まず、独身男性、既婚男性、既婚女性については、テレワークの有無にかかわらず、2020年から2021年の間で、ひと月あたりの残業時間の平均値は低下していることがわかる。

 

一方で、テレワークにならなかった独身女性の残業時間の平均値が低下したのに対して、テレワークになった独身女性の残業時間の平均値は高まった傾向が見られる。

 

テレワークになった人の残業時間の変化のトレンドが、テレワークにならなかった場合には、テレワークにならなかった人と同じであると仮定すると、この結果は、テレワークによって、独身女性の残業時間が伸びた可能性を示唆する※2

 

※1 それぞれのカテゴリーのサンプルサイズ(n)と標準偏差(sd)は以下の通り。
独身男性(テレワークになった)2020(n=162,sd=25.54)、独身男性(テレワークになった)2021(n=225,sd=21.01)、 独身男性(テレワークにならなかった)2020(n=902,sd=24.75)、独身男性(テレワークにならなかった)2021(n=1230,sd=24.36)、既婚男性(テレワークになった)2020(n=314,sd=32.52)、既婚男性(テレワークになった)2021(n=380,sd=23.36)、既婚男性(テレワークにならなかった)2020(n=1015,sd=33.28)、既婚男性(テレワークにならなかった)2021(n=1222,sd=29.20)、独身女性(テレワークになった)2020(n=189,sd=14.67)、独身女性(テレワークになった)2021(n=245,sd=37.94)、 独身女性(テレワークにならなかった)2020(n=878,sd=18.10)、独身女性(テレワークにならなかった)2021(n=1133,sd=15.29)、既婚女性(テレワークになった)2020(n=n=83,sd=14.26)、既婚女性(テレワークになった)2021(n=108,sd=20.24)、既婚女性(テレワークにならなかった)2020(n=439,sd=23.01)、既婚女性(テレワークにならなかった)2021(n=562,sd=15.28)。

※2 平行トレンドの仮定。この仮定に基づき、差分の差分法のモデルで2020年と2021年のデータを使った分析でも、独身女性の間でテレワークが有意に残業時間を増やしている傾向が確認された。一方で、残業時間については、2019年の調査項目に含まれておらず、平行トレンドの仮定を確認できていない。よって、テレワークになった独身女性がもともとテレワークにならなかった独身女性とは異なるトレンドを持っていたり、他の要因によって、残業時間が増加した可能性は否定できないことに注意が必要である。