テレワークによる時間的なゆとりの変化
前節では、テレワークによる残業時間の変化を確認したが、テレワークは時間的なゆとりの感じ方へも影響を与えているだろうか。[図表4]は、2020年1月~2月時点から2021年1月~2月時点にかけた時間的なゆとりを感じる人の割合※1の変化を、男女/独身既婚者/2021年2月時点でのテレワークの有無別に示したものである。
残業時間の分析の際と同様で、テレワークになった人とならなかった人を比較するため、2020年2月時点で週1日以上のテレワークを行っていた人は除外して推計した値を示している※2。
まず、独身女性と既婚女性については、テレワークの有無にかかわらず、2020年から2021年の間で、時間的なゆとりを感じる人の割合が増加していることがわかる。そして、独身男性の間でも、テレワークの有無にかかわらず、時間的なゆとりを感じる人の割合は増加しているが、テレワークになった人の間で特に増加傾向が大きいことがわかる。
より詳細な確認のために行った差分の差分法のモデルの推計では、独身男性がテレワークになると統計的に有意に時間的なゆとりを感じるようになる傾向が確認された。
テレワークになった人の経済的なゆとりの変化のトレンドが、テレワークにならなかった場合には、テレワークにならなかった人と同じであると仮定すると、この結果は、テレワークによって、独身男性の時間的なゆとりが増加した可能性を示唆する※3。
また、テレワークにならなかった既婚男性は、その他のカテゴリーの人々と同じように、時間のゆとりを感じる人の割合が若干増加したのに対して、テレワークになった既婚男性は、残業時間の平均値が減少した傾向が見られる。
しかし、既婚男性については、差分の差分法のモデルによる推計で、テレワークによる時間的なゆとりの変化については統計的に有意な影響は確認されなかった。
※1 時間的なゆとりは、「あなたの現在の暮らしの時間のゆとりについてお聞かせください。」という質問で訪ねている。この質問の回答の選択肢は、時間的ゆとりがない方だ、どちらかと言えば時間的ゆとりのない方だ、どちらかと言えば時間的ゆとりのある方だ、時間的ゆとりがある方だ、の4つである。図4ではこのうち、どちらかと言えば時間的ゆとりのある方だ、もしくは、時間的ゆとりがある方だと回答した人の割合を示している。
※2 それぞれのカテゴリーのサンプルサイズ(n)と標準偏差(sd)は以下の通り。
独身男性(テレワークになった)2019(n=103,sd=50.2)、独身男性(テレワークになった)2020(n=162,sd=49.5)、独身男性(テレワークになった)2021(n=225,sd=49.7)、 独身男性(テレワークにならなかった)2019(n=611,sd=49.7)、独身男性(テレワークにならなかった)2020(n=902,sd=49.5)、独身男性(テレワークにならなかった)2021(n=1230,sd=49.8)、既婚男性(テレワークになった)2019(n=239,sd=49.6)、既婚男性(テレワークになった)2020(n=314,sd=50.1)、既婚男性(テレワークになった)2021(n=380,sd=49.9)、既婚男性(テレワークにならなかった)2019(n=757,sd=48.88)、既婚男性(テレワークにならなかった)2020(n=1015,sd=49.5)、既婚男性(テレワークにならなかった)2021(n=1222,sd=49.7)、独身女性(テレワークになった)2019(n=135,sd=50.2)、独身女性(テレワークになった)2020(n=189,sd=49.8)、独身女性(テレワークになった)2021(n=245,sd=48.3)、 独身女性(テレワークにならなかった)2019(n=546,sd=50.0)、独身女性(テレワークにならなかった)2020(n=878,sd=50.0)、独身女性(テレワークにならなかった)2021(n=1133,sd=49.8)、既婚女性(テレワークになった)2019(n=59,sd=48.3)、既婚女性(テレワークになった)2020(n=83,sd=49.1)、既婚女性(テレワークになった)2021(n=296,sd=49.1)、既婚女性(テレワークにならなかった)2020(n=439,sd=49.5)、既婚女性(テレワークにならなかった)2021(n=562,sd=49.7)。
※3 平行トレンドの仮定。経済的なゆとりについては、2019年の調査にも含まれているため部分的に平行トレンドの仮定が確認できるものの、あくまでも仮定であるため、テレワークになった独身男性がもともとテレワークにならなかった独身男性とは異なるトレンドを持っていたことや、他の要因によって、経済的なゆとりをより感じるようになった可能性は否定できないことに注意が必要である。