コロナ禍によるテレワークの拡大は、人々のワークライフバランスに大きな変化をもたらしました。本記事では、ニッセイ基礎研究所が2019年~21年に行った独自のアンケート調査をもとに、岩﨑敬子氏がテレワークによる「残業時間」と「時間のゆとりに対する感じ方の変化」についてみていきます。
テレワークをするようになって、残業時間が伸びた独身女性、時間のゆとりができた独身男性 (写真はイメージです/PIXTA)

残業をした人の割合の変化

 

[図表1]に示した残業時間の平均値は、残業を全くしなかった人(つまり残業時間が0の人)を含めて計算したものである。そのため、この図だけではテレワークをするようになった独身女性の残業時間の平均値が高まったのは、残業をする独身女性が増えたからなのか、残業時間が伸びたからなのかはわからない。

 

そこでまず、テレワークをした人の割合の変化を確認したのが[図表2]である※3

 

[図表2]残業をした人の割合の変化
[図表2]残業をした人の割合の変化

 

[図表1]では他のカテゴリーと異なる傾向を示していたテレワークになった独身女性についても、[図表2]に示された残業をした人の割合については、他のカテゴリーと同じように2020年から2021年の間で低下していることがわかる。

 

この結果は、テレワークをするようになった独身女性の残業時間の平均値の高まりが、残業を行うようになった人の割合の増加によるものではなく、残業をした人の間で残業時間が伸びたことによるものであることを示唆する。

 

※3 それぞれのカテゴリーのサンプルサイズ(n)と標準偏差(sd)は以下の通り。
独身男性(テレワークになった)2020(n=162,sd=39.5)、独身男性(テレワークになった)2021(n=225,sd=43.6)、 独身男性(テレワークにならなかった)2020(n=902,sd=46.7)、独身男性(テレワークにならなかった)2021(n=1230,sd=48.2)、既婚男性(テレワークになった)2020(n=314,sd=38.1)、既婚男性(テレワークになった)2021(n=380,sd=42.2)、既婚男性(テレワークにならなかった)2020(n=1015,sd=44.1)、既婚男性(テレワークにならなかった)2021(n=1222,sd=46.0)、独身女性(テレワークになった)2020(n=189,sd=43.9)、独身女性(テレワークになった)2021(n=245,sd=48.2)、 独身女性(テレワークにならなかった)2020(n=878,sd=49.6)、独身女性(テレワークにならなかった)2021(n=1133,sd=50.0)、既婚女性(テレワークになった)2020(n=83,sd=49.5)、既婚女性(テレワークになった)2021(n=108,sd=49.7)、既婚女性(テレワークにならなかった)2020(n=439,sd=50.0)、既婚女性(テレワークにならなかった)2021(n=562,sd=49.5)。

 

残業をひと月1時間以上した人の間でのひと月あたりの残業時間の平均の変化

 

テレワークをするようになった独身女性の残業時間の平均値の増加が、残業をした人の間で残業時間が伸びたことによるものであることを確認するために、残業時間が月1時間以上あった人に限って、2020年から2021年の間の残業時間の変化を確認したのが、[図表3]である※4

 

[図表3]残業をひと月1時間以上した人の間でのひと月あたりの残業時間の平均の変化
[図表3]残業をひと月1時間以上した人の間でのひと月あたりの残業時間の平均の変化

 

[図表3]からは、独身男性と既婚男性の間では、テレワークになったかどうかにかかわらず、残業時間の平均値が下がっていることが確認できる。一方、独身女性と既婚女性の間では、テレワークにならなかった人の残業時間の平均値は低下した一方で、テレワークになった人の平均値は高まった。

 

特に独身女性ではその傾向が顕著にみられる。より詳細な確認のために行った差分の差分法のモデルの推計では、残業をひと月に1時間以上行った独身女性の残業時間は、テレワークになると統計的に有意に長くなることが確認された。

 

加えて、残業を月1時間以上行った独身女性について、テレワークになることで残業が増えることで、家事の時間や時間的なゆとりの感じ方に変化があるかどうかを確認した詳細分析を行った。

 

この結果、テレワークで残業を行うようになった独身女性の残業時間は伸びているものの、家事・育児の時間や時間的なゆとりを感じる人が少なくなる傾向は確認されなかった。

 

そのため、残業時間は家事・育児の時間や時間的なゆとりを削って配分されたものではなく、テレワークによって削減された通勤時間や身支度の時間が充てられている可能性が示唆される。

※4 それぞれのカテゴリーのサンプルサイズ(n)と標準偏差(sd)は以下の通り。
独身男性(テレワークになった)2020(n=131,sd=26.5)、独身男性(テレワークになった)2021(n=168,sd=21.8)、 独身男性(テレワークにならなかった)2020(n=613,sd=26.8)、独身男性(テレワークにならなかった)2021(n=778,sd=27.2)、既婚男性(テレワークになった)2020(n=259,sd=36.1)、既婚男性(テレワークになった)2021(n=292,sd=23.6)、既婚男性(テレワークにならなかった)2020(n=748,sd=33.28)、既婚男性(テレワークにならなかった)2021(n=851,sd=31.7)、独身女性(テレワークになった)2020(n=140,sd=15.2)、独身女性(テレワークになった)2021(n=156,sd=45.9)、 独身女性(テレワークにならなかった)2020(n=495,sd=21.7)、独身女性(テレワークにならなかった)2021(n=548,sd=19.5)、既婚女性(テレワークになった)2020(n=49,sd=14.9)、既婚女性(テレワークになった)2021(n=62,sd=24.2)、既婚女性(テレワークにならなかった)2020(n=207,sd=31.5)、既婚女性(テレワークにならなかった)2021(n=240,sd=20.7)。