桃山学院大学経済学部教授の中村勝之氏は、本記事において「学生に文字を書く習慣を付ける」ことの難しさに触れている。そこで、中村教授が使用したのが、学習到達度を示す評価基準を、観点と尺度から示した表「ルーブリック」だ。今回は、ルーブリック作成のコツについて見ていこう。
大学教授が解説…「学生の書き物」の質を高める働きかけ (※写真はイメージです/PIXTA)

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学生に「文章」を書かせる実践が増えてきたが…

大学のさまざまな講義・演習において、定期的にミニッツペーパーなどの文章を受講生に書かせる実践が増えてきた。その目的はさまざまだが、講義の終盤になるほど、受講生の書く文章量が目立って減る現象に遭遇した経験のある教員は意外と多いと思われる。

 

その要因の1つが学生の記述内容と成績が連動されていない、あるいは連動していてもそれが学生に周知されていないことである。

 

どれだけ記述しても、《書いても書かなくても成績評価は変わらない》と受講生に認知されてしまえば、一気に文章量が減るのは必然である。その意味で、「書く」活動が講義中に挿入されていても、それが内実の伴った上で持続できなければAL(アクティブ・ラーニング)とは言わないだろう。

学生に「書く癖」をつけさせるためには?

近年、教育実践を支援するさまざまな手段が精力的に開発されているが、教育活動において書くことの重要性は昔も今も変わらない。理想は学生・生徒の興味を持続させるような授業設計をし、それに寄り添うように「書く」活動を挿入できることである。

 

だが、それを1つの講義ですべて完結させるのは極めて難しい。カリキュラムの設計段階において書くことを意識させる科目群を配置し、そこで得たスキルを活かすような(上位の)科目群を配置するなどの工夫が必要であろう。

 

とはいえ、大幅なカリキュラム改革が実現しにくければ各教員が個別に実践していくしかないが、それを持続させるためには(残念ながら)記述と成績を厳格に結びつけざるを得ない。ある程度の強制力がなければ、中堅私学に通うボリュームゾーンに「書く」活動の癖をつけることは難しい。

 

それを実践する手段の1つがルーブリック評価である。

「ルーブリック」を作成するにあたり、意識すべき点

ルーブリックの文字通りの意味は、「色を付けるための赤土」「赤チョーク」といった赤を連想させるものである(教員が採点に赤ペンを用いることもその名残りかもしれない)。

 

ダネル=スティーブンスとアントニア=レヴィ(佐藤浩章ほか)※1の言葉を借りれば、教育現場におけるルーブリックとは「ある課題について、できるようになってもらいたい特定の事柄を配置するための道具」(スティーブンス・レヴィ、p.3、佐藤ほか、p.2)である。

 

とはいえ、いざルーブリックを作成するとなると、どこから手をつけたらいいのか見当もつかないだろう。そこで、スティーブンス・レヴィ(佐藤ほか)および西岡加名恵と田中耕治※2をもとに、その作成手続きをまとめてみた(図表1)※3

 

[図表1]ルーブリック作成手続き

 

なお、ルーブリック作成にあたっては、大学において作成・公開が義務づけられているシラバス(授業概要や成績評価基準などを示したもの)と連動させておくことが重要である。

 

なぜなら、シラバスの内容とルーブリックの内容がずれていたら、両者の妥当性・信頼性・説得性が失われてしまうからである。そこで、以下では図表2の(本学で使用される)シラバスのサンプルも参照しながら、図表1左側の作成手順について見てみよう。

 

[図表2]シラバスサンプル

ルーブリックを作成する際に踏むべき「4つの段階」

大学の教育現場においてはカリキュラム上の制約を守りさえすれば、個別具体的な講義設計は各教員に一任されている。その意味で、高等教育におけるルーブリックの内容なども教員ごとにさまざまなスタイルが考えられる。一般に、ルーブリックを作成する際には表にある4つの段階を踏めばいいとされる5。

 

その第1段階が振り返りである。これは、過去の講義実践などで明らかになった課題や、担当科目の位置づけなどを確認する作業である。その際、今ではどこの大学でも実施される「授業評価アンケート」の結果も参考になるかもしれない。

 

この検証結果は、主にシラバス上の【講義・演習概要】【学習目標】【授業形態】に反映されるだろう。ここが固まれば、次に学生に身につけて欲しいスキルなどを列挙する。

 

これが第2段階の学習目標リストの作成である。これは厳密にはシラバス上の【学習目標】に該当するだろうが、第1段階で固めた内容を具体的な授業実践にどう落とし込むかという観点からは【講義・演習計画】に、すなわち毎回の講義テーマに反映させた方がいいだろう。

 

第3段階は、学習目標リスト間に通底する共通項を見出してそれに命名するグループ化と見出しつけである。既に第2段階において毎回の講義テーマという形で学習目標はリスト化されている。そこから共通項を見つけてレポートなどでの評価軸とすればいい。そして、それは4~7個程度設定すると実際の採点業務上、効率的である。

 

最後の第4段階はルーブリック作成で、第3段階で設定した各評価軸に対して評価基準および点数配分を設定して表の形にまとめる。

 

その際、3~5段階に評価基準を設定すると採点業務は効率よく行えるし、得点分布もより細かくすることができる。最終的にルーブリック評価をどの程度成績評価に反映させるかを決めるといい。

 

 

※1:Stevens, D. D. and A. J. Levi, “Introduction to RUBRICS( 2nd Ed.)” Stylus Publishing, 2013.(佐藤浩章(監訳)『大学教員のためのルーブリック評価入門』玉川大学出版会、2014 年)

※2:西岡加名恵・田中耕治(編著)『「活用する力」を育てる授業と評価 パフォーマンス課題とルーブリックの提案』学事出版、2009年。

※3:西岡・田中、同上書では中学校におけるルーブリック評価およびその実践を中心に述べているが、高校の教育現場においても有用であろう。事実、2014年度よりSGHの指定を受けた高校において、成績評価にルーブリックを用いることが要請されている。

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中村 勝之

 

山口県下関市出身。大阪市立大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。桃山学院大学経済学部教授。専門は理論経済学。著書に『大学院へのミクロ経済学講義』(2009年、現代数学社)『〈新装版〉大学院へのマクロ経済学講義』(2021年、現代数学社)『シリーズ「岡山学」13 データで見る岡山』(共著による部分執筆、2016年、吉備人出版)がある。