日本では長らく「宅配便は対面での受け渡しが普通」とされてきた。ここ2年ほどで普及してきた「置き配」はユーザーにどう受け止められ、社会にどう影響を及ぼしてきたか。物流ジャーナリスト・刈屋大輔氏が解説していく。 ※本連載は、書籍『ルポ トラックドライバー』朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
「日本で置き配は御法度だった」…アマゾンが決行した〈対面受け取りの格下げ〉への反応 (※写真はイメージです/PIXTA)

〈アマゾンの一連の動き〉同業者は…「衝撃的だった」

配達スキルがさほど問われなくなる置き配が中心となれば、「アマゾンフレックス」の活用よりもコスト高となる「サービスプロバイダ」や宅配便会社の機能を必要としなくなるからだ。

 

実際、2018年11月に東京都、神奈川県の一部地域で始まった「アマゾンフレックス」はその後、関東、関西の他北海道、宮城、愛知、広島、福岡まで対象エリアを拡大した。

 

「アマゾンフレックス」の配達ドライバーたちが所属する配送拠点である「デリバリーステーション」の数は、現在20〜30ヵ所まで増加している。

 

こうしたアマゾンの一連の動きを、ネット通販の同業者や物流会社はどのように捉えているのだろうか。

 

両者に共通するのは、アマゾンの実証実験で約7割が置き配で商品を受け取ったという結果に驚嘆している点だ。

 

あるネット通販会社の物流担当者は「置き配に抵抗のない通販ユーザーがそれだけいることはまったくの予想外だった。廉価だったり、サイズの小さい商品については郵便受けや宅配ボックスへの投函を受け入れてくれるものの、高額だったり、大きい商品は対面での受け取りでないと納得してくれないと思っていた。置き配に軸足を移したアマゾンの取り組みは、当社だけでなくネット通販会社の商品配送のあり方をゼロベースで見直すきっかけとなりそうだ」と説明する。

 

実際、日用品ネット通販大手のアスクルは2020年10月から個人向け通販「ロハコ」で全国を対象にした置き配をスタートした。

 

一方、宅配便会社の経営幹部は「たとえ荷受人から指示されたとしても、後でトラブルのもとになりかねないため、置き配は御法度とされて育ってきた我々にとって、置き配を受け入れた通販ユーザーが7割に達したという実証実験のデータは衝撃的な数字だ。そこまで置き配が容認されるのであれば、今後は置き配を前提とした宅配便の新商品・新サービスを設計する必要が出てくる」と指摘する。

 

アマゾンの実証実験で置き配の支持率の高さを確認できたことが背中を押したかどうかは定かではないが、ヤマトや西濃は早々と置き配に特化した宅配便の新サービスを投入した。