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「プライベート出産(無介助分娩)」とは?
近年増加している無痛分娩は、出産が医療の管理下に行われるものであることを前提に、医療の力で陣痛の痛みを緩和させることで満足のいく出産をしたい選択です。
それに対し、プライベート出産(無介助分娩と同義:本人が意図的・計画的に医療者の立会わないプライベートな環境で出産することを決め、準備も整えて行う出産で、かつそれを当事者が自己開示する出産)は、医療の介入がない環境で出産することにより、満足のいく出産をしようとする出産方法の選択です※。
※詳細は「現代における出産…「無痛分娩」と「無介助分娩」の二極化が進む背景」(資産形成ゴールドオンライン)参照。
病院での出産に疑問を感じ、プライベート出産を選択
2015年に第4子をプライベート出産したC・Eさんは、福島県で2005年と2009年に第1子、第2子を病院で出産し、2011年の東日本大震災の後、原発の放射能汚染から身を守るため北海道に移住し、2013年に第3子を病院で出産しました。
ところが、第1子はフルコースの出産で、第3子は子どもの立会いが禁止され、病院での出産に疑問を感じていました。C・Eさんの言うフルコースの出産とは、剃毛、浣腸、分娩誘発、会陰切開、クリステレル胎児圧出法、吸引分娩と経腟分娩の際に行われるすべての医療介入を受けたことを指しています。
そして第4子を妊娠し、今度は出産できる病院は地域に1か所あるものの、入院すると上の子を預かってもらう人がいないこともあり、自宅出産したいと考えました。
しかし、この地域に立会いが可能な開業助産師はいません。自宅出産するならプライベート出産するしかないため、妊婦健診を受けている病院の医師、助産師に相談しましたが、理解が得られないどころか酷い対応をされ、後に保健師も来ました。それらのやり取りと、プライベート出産を決めるまでの心の動きをこのように話されました。
「“危険だからやめなさい”と脅されて…」
「助産師さんに相談したら、“危険だからやめなさい”と脅されました。先生(医師)は、“巻き込まないでください。うちに来ないでください。安易に考えているようですが……”と言って、(車で1時間半程度かかる)助産院へ紹介状持たされたんです。
保健師さんが来て“風変わりなこと”って言われたりもして、自宅出産するという選択はないんだな、でもしちゃいけないの?と思ったんですよね。
(紹介状を持って)助産院に行ったけど、今度は先(診察の前)にプライベートと言っちゃってたんで、“健診できない”と言われたんですよ。
(略)
それでどうしようかと悩んでいたら、知り合いの人から、娘さんの出産で“陣痛がきて救急車で運ばれている最中に車の中で生まれちゃって、(子どもの祖母にあたるその女性が)自分で取り上げた”と聞いて、自分でもできる(医師・助産師がいなくても出産できる)かもという気がしてきたんです」
医療者、行政に対しての信頼を失ってしまい…
C・Eさんは、最初からプライベート出産をしようと決めていたのではなく、自宅で出産をするために専門家である医師、助産師に相談し、どのようにすればより安心・安全に出産できるかアドバイスをもらおうとしたのです。
ところがその相談は、受診拒否という形で跳ね返ってきました。C・Eさんにとってそれはまさかの対応でかなりのショックな出来事でした。
医師は開業助産師に相談させるべく紹介状を書きましたが、C・Eさんは助産所でも相談できず不快な思いをし、さらに保健師にも理解が得られず、医療者に対しても行政に対しても信頼を失ってしまいました。その後、自宅から1時間半以上かかる場所に自宅出産専門の助産所があるので念のため相談したものの、引き受けてもらうことはできませんでした。
開業助産師が出産を扱う場合には『助産業務ガイドライン』を遵守しなければなりません。このガイドラインでは、助産師には原則として自宅出産は移動に1時間以上かかる場合は取り扱ってはいけないことが定められています。そして知人が救急車の中でお孫さんを取り上げたという事実を知ったことが決定打となっていました。プライベート出産の選択には医療者の対応が影響します。
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市川 きみえ
助産師
清泉女学院大学大学院看護学研究科・助産学専攻科・看護学部看護学科 准教授
1984年大阪市立助産婦学院卒業。大阪市立母子センター勤務の後、医療法人正木産婦人科にて自然出産・母乳育児推進に取り組み、2011 年より助産師教育・看護師教育に携わっている。2010年立命館大学大学院応用人間科学研究科修士課程修了 修士(人間科学)。2018年奈良女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程修了 博士(社会科学)。2021年より現職。
著書に『いのちのむすび─愛を育む豊かな出産』(晃洋書房)がある。