「就業意欲の喪失者」は増加…なぜ失業率は低下したか
こうした韓国の雇用の特徴に注目して、Hansen他(2019)は「韓国のこれまでの失業率統計は労働市場における余剰労働を不完全にしかとらえていない。多くの労働者は自分を失業者として登録するよりも、非自発的なパートにつくか、労働力を保留するかのどちらかを選んでいる」として、就業意欲を喪失した労働者(discouraged workers)の数を推定した。
就業意欲を喪失した労働者とは、長い期間、職探しをし、何回面接しても採用されないため、就職活動をやめてしまった労働者である。
この就業意欲を喪失した労働者を失業者に加えた広義の失業率は、2001年から17年の間、5%の周辺で変動し、その変動は韓国が発表している失業率(公式統計)の変動よりも大きい。とくに、広義失業率はリーマン・ショック後のような景気が悪化したときに、公式統計よりもかなり高くなる。
公式統計では、2001年から17年の平均失業率は3.5%であるから、広義の失業率はこれよりも1.5ポイント高い。
韓国の若年層の失業率はリーマン・ショック前の2007年は8.7%だったが、その後、上昇し続け、16年には10.7%まで上昇し、その後やや低下したが、19年でも10.4%と10%台である。こうした公式統計でも10%台の失業率が12年間も続くと、就業意欲を喪失した若者が増えると予想される。
就業意欲を喪失した若者の中には、韓国の公式統計では失業者には含まれない自営業に属して、家族として給与を得ず、家の手伝いをしている人も少なくないと思われる。
このように考えると、2018年と19年の最低賃金の大幅引き上げのために失業した人のうちの少なからずの人が、就業意欲を喪失して失業者として登録しなくなったために、一時的に上昇した失業率が低下したと考えるのが妥当であると思われる。
川口・森(2009)、OECD(2015)、そしてアトキンソン(2018)が「最低賃金の引き上げは世界の常識」であることを立証したとして引用しているRand研究所の研究(Hafner他[2017])も、最低賃金の引き上げは若年層やパートの雇用を減少させる可能性があると述べている。
これは、若年層やパートは労働生産性が低いため、最低賃金を引き上げると、その賃金が彼ら・彼女らの生産性(厳密には限界生産性)を上回ってしまうため、雇う側に損失が発生するからであろう。