物価が安く、気候が温暖なフィリピンでセカンドライフを送る年金生活者は少なくない。彼らの間には、知らない者はいないといっても過言ではない、草分け的存在の女性が存在する。退職者の海外移住が日本で話題となり始め、彼女が移住した当時について、ノンフィクションライターの水谷竹秀氏が解説する。 ※本連載は、書籍『脱出老人 フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち』(小学館)より一部を抜粋・再編集したものです。
「老人の輸出か!」といわれた移住だが…フィリピンでの年金生活「先駆者」の実に贅沢な暮らし (マニラ湾に沈む夕日は「東洋の真珠」とも呼ばれるほど 撮影:水谷竹秀氏)

2017年時点で3500人…年金生活者に「多大な影響」

1988年には日本人5人が退職者ビザを取得しており、その後は毎年数十人単位で増え続け、2000年に初めて年間100人を突破した。2006年には200人を超え、2017年時点で、退職者ビザを取得した日本人の総数は約3500に上っている。

 

年金生活者の移住先が欧米からアジアへと徐々にシフトしたことで、アジアへの移住を勧める書籍もいくつか出版されるようになった。

 

いずれも各国で暮らす日本人たちが紹介される内容だが、前述の小松崎さんが出版した本は、自身の生い立ちやフィリピンとの関わり、現地の生活情報などが丁寧に描かれ、そして何よりも年金生活者の小松崎さん自身が著者だったことが、読者に親近感と現実感を持たせた。

 

「彼女の本は何冊か買い、フィリピンの事情を説明するために兄弟に配りました。私はその本を読んで高齢者施設の存在を知り、ネットで調べてこちらに来ました。小松崎さんの家にも泊めてもらいましたよ。もし彼女がいなかったら、私はフィリピンに来ていなかったかもしれないですね」(フィリピン在住歴13年の日本人男性、82歳)

 

 

水谷 竹秀

ノンフィクションライター

1975年三重県生まれ。上智大学外国語学部卒業後、カメラマン、新聞記者などを経てフリーに。

2011年『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』(集英社)で開高健ノンフィクション賞受賞。他に『だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人』(集英社)など。

10年超のフィリピン滞在歴をもとに、「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材している。