物価が安く、気候が温暖な東南アジアでのセカンドライフを目指す高齢者は多い。若い現地人妻・温かい家族と豪邸で暮らす人も少なくはないが、言語や環境に適応できず、女性にも捨てられて無一文で暮らす人がいるのも事実である。それでも日本で老後を送るよりは…と海外移住を決意した人々には、それぞれ語られるべきドラマがあった。ここでは、フィリピンで長く取材を続けたノンフィクションライターの水谷竹秀氏が、マニラで暮らす日本人男性・小林さんと、妻・エレンさんのこれまでを紹介する。 ※本連載は、書籍『脱出老人 フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち』(小学館)より一部を抜粋・再編集したものです。
元警官男性「マニラで年金暮らし」24歳下フィリピン人妻との仲睦まじさに“正直驚いた”ワケ (小林夫妻 撮影:水谷竹秀氏)

「日本人男性が“銃撃”」パブで働く女性との結婚の大半は…

小林さんの妻はフィリピンパブで働いた経験を持つ女性だ。偏見と思われるかもしれないが、特に、パブで働いていた若い女性と中高年の日本人男性が結婚した場合、言葉の壁や金銭トラブルなどから生じる問題が積み重なり、離婚に至ることが多い。

 

私の取材経験からも、この組み合わせの夫婦が長続きしているという例を聞いたことがあまりなかった。特に妻の家族や親戚から無心された時の対応をめぐって諍い事に発展する場合があるようだ。

 

厚生労働省の人口動態統計によると、夫「日本」、妻「フィリピン」の婚姻件数は、2013年が3108件で、離婚件数は3547件だった。結婚した年に離婚しない場合も多いため、単純に離婚率を算出するのは難しい。しかし、婚姻件数を上回る勢いで離婚届が出されていることは事実である。

 

ちなみに、同年の夫「日本」、妻「中国」の婚姻件数は6253件で、離婚は4573件、妻「韓国・朝鮮」は婚姻が2734件、離婚1724件となっており、妻「フィリピン」の離婚が必ずしも多いわけではないようだ。

 

また、パブで出会ったフィリピン人妻との諍いをめぐっては、悲劇に陥ることもある。日刊まにら新聞ではこんな事件も報道されていた。

 

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首都圏マリキナ市周辺で2012年7月、別れたフィリピン人妻(35歳)の親戚らを銃撃、殺害したとして、福岡県出身の日本人男性(56歳)が殺人容疑で逮捕された。この事件では前妻の弟ら6人が死傷した。

 

男性が妻と出会ったのは福岡県のフィリピンパブで、事件から5年前に結婚。日本の家や資産はすべて売り払い、フィリピンへ移住したが、それまでの送金は妻や親戚に使い込まれ、総額300万ペソ(約810万円)をだまし取られたとして、怒りくるって犯行に及んだのだという。

 

※現地の物価は本書が刊行された約6年前のもので、フィリピンペソの日本円換算レートは2015年7月現在(1ペソ=約2.7円)のレートで計算しています。

 

(記事を要約)

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もちろん、これは極めてまれなケースである。

 

フィリピンパブで働く女性たちは、経済的な事情を抱えていることが大半だ。富裕層の家庭に生まれながらもパブで働いている女性に私は出会ったことはない。つまり彼女たちが男性に求めるのは経済力であり、一方で中高年の日本人男性は若さを求めるという利害関係が成立している。

 

特にパブで働いている女性たちは、日本人男性との経験も豊富なため、交際や結婚後の生活は一筋縄ではいかないことが多い。最初は利害関係だけでやっていけるかもしれないが、やがて子供が生まれ、人生をともに歩むとなると、よほどの信頼関係がない限り続かないだろう。

 

このような背景を少しは理解しているつもりだったから、小林さん夫妻の関係に、正直、驚いたのだ。しかも小林さんは英語もタガログ語もほとんどできない。たとえエレンさんが日本のフィリピンパブで長年働いていたからといって、日本語だけでの生活には不便も感じるだろう。それでも今尚(いまなお)、幸せそうに暮らしているのだった。