新卒時に職に就けなかった人、不本意ながら非正規雇用に就いた人が多い就職氷河期世代。同世代より若い世代も不遇を味わってはいるが、アベノミクス始動後には賃金が上昇した。一方、就職氷河期世代の賃金は対照的に減少。それはなぜか…。そして、なかには働くことをあきらめる人も…。 日本総合研究所・主任研究員の下田裕介氏が解説していく。 ※本記事は、書籍『就職氷河期世代の行く先』(日本経済新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
非正規だけでなくニートも…氷河期世代の生活が「今なお厳しい」ワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

若年層を中心とした「人材獲得・賃金引き上げ」に対し…

第2に、その後の少子化の一段の進展を受けた若年層での人手不足である。これについては、日本総合研究所が実施したアンケート調査からもみてとれる。

 

2019年1〜2月にかけて実施した「人手不足と外国人採用に関するアンケート」のなかで、現在の人手不足の状況を尋ねたところ、約3割がほぼ全年齢層で人手不足としているが、それを上回る46%では若手・中堅では不足の一方、中高年層ではむしろ余っていると回答している。

 

アベノミクス始動後、しばらくの間、景気回復が続いたこともあり、若い労働力の需要は高まった。そうしたなかで、企業は若手人材の確保、定着を図るべく、若年層を中心とした雇用環境の改善、転職市場での人材獲得、大卒初任給や賃金の引き上げに動いたのである。

 

彼ら/彼女らのなかには、リーマン・ショックの影響を受けた人もいたが、その後の恩恵も相対的にみれば大きかったといえる。

労働市場から退出して「ニート」となる氷河期世代も

新卒採用に挑みながらも失敗し、不本意ながら非正規雇用に就かざるを得なかった就職氷河期世代は、上の世代と比べてその割合が高い。彼ら/彼女らはその後も、第2新卒や転職市場などでの再チャレンジの機会がいまより少なかったこともあり、正規雇用に新たに就いたり、転換したりするのが困難であった。

 

非正規雇用が続くなかではスキルを積むことが難しい面もあり、ますます正規雇用に就くことができなくなる。そしてついには、仕事を辞め、働くことそのものをあきらめて労働市場から退出する人が出てくる。

 

こうした状況にある人たちを「ニート」と呼ぶこともあり、いまや多くの人がその呼び名を知っているであろう。

 

もともと英国において「就学・就労をせず、また職業訓練も受けていない=not in education,employment or training」の頭文字をとった造語が始まりとされる。

 

わが国においては、2004年に、経済学者の玄田有史氏(東京大学教授)とジャーナリストの曲沼美恵氏による共著『ニート――フリーターでもなく失業者でもなく』で、統計やインタビューを用いつつ実態が描き出されたことで話題になった。

 

また、2003年に民放テレビの情報番組でニートの特集が放送された際に、街中でインタビューされた若い男性が「働いたら負けかなと思ってる」といった場面を、当時の映像なり、その後のネット上での話題なりで記憶している人も多いのではないだろうか。

 

ちなみに、その彼はインタビュー当時24歳、まさに就職氷河期世代である。