新卒時に職に就けなかった人、不本意ながら非正規雇用に就いた人が多い就職氷河期世代。「アベノミクス下における氷河期世代の雇用環境の変化」、「女性の就業増」について、日本総合研究所・主任研究員の下田裕介氏が解説していく。 ※本記事は、書籍『就職氷河期世代の行く先』(日本経済新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
「将来が不安で…」夫婦やひとり親で家計を支える“就職氷河期世代” (※写真はイメージです/PIXTA)

女性の就業増には「前向きではない社会進出」も

もっとも、厳しい一面も指摘できる。例えば、女性の就業増の背景には、景気拡大や人手不足の高まりに伴う労働需要の増大に加えて、社会進出が進んだことが指摘できるが、これは働きたい女性が働ける前向きな社会進出がある一方で、子どもを持つ女性がパートやアルバイトなどの職に就くことで家計を支える必要が生じたなど、必ずしも前向きな自由意志とはいいがたい社会進出も少なくない。

 

これは、就職氷河期世代に限った話ではないが、連載第7回(『「勝ち組になれない」氷河期世代…正社員の間でみられる“世代間格差”』)でも指摘したように、同世代は上の世代と比べて世帯収入が脆弱であることから、より厳しい実情が考えられる。

 

共働きで女性が必死で家計を支える一方で、悩みを抱えたこんなエピソードがある。

 

「小学4年生の長男と小学2年生の長女のそれぞれの夢はパイロットと薬剤師。受験に向けた塾通いなどで、学費はこれから膨らんでいく。

 

(中略)

 

60歳までの住宅ローン返済を抱えるなか、旅行や遊園地に遊びにも行かず、夫婦の月収から、毎月、やっと2万円の貯金を残している。年金などの老後の生活に不安があり共働きをしている、自分の就職難の経験から子どもの教育費にはできる限りお金をかけてあげる」

 

(読売新聞、2017年6月27日朝刊、「いのちの値段 支える家族 我が子とるか親をとるか」)。

 

就職氷河期世代のなかでもこの母親と思いが重なる女性も多いだろう。

 

また、婚姻状態を継続しないケース(離婚)によるひとり親(シングルマザー)の増加も、女性の就業増の背景の一つだ。次の事例で示すように、シングルマザーが子どものために働く環境はより過酷である。

 

「福岡県に住む45歳の女性は、11歳の息子を一人で育てる有期契約社員である。毎月、11万円弱の給料と4万円弱の児童扶養手当で暮らす。家賃や教育費がかさみ、テレビは持たず自分の服や化粧品はほぼ買わない。保険も費用が安いものしか入れないため、体を壊すのが怖い。

 

『すぐ決まる仕事はずっと非正規だけで、正社員の話は出産や育児で断るしかなかった。これから子どもにお金がかかるけど、収入を増やすのはもう難しい』」

 

(西日本新聞、2020年2月11日朝刊、「折り重なる不安 氷河期世代 非正規のシングルマザーは『育児のため正社員は断った』広がる格差、職歴も積めず」)。

 

生活に苦しみながらもわが子のために働く女性の不安が強く伝わってくる。

 

 

下田 裕介

株式会社日本総合研究所 調査部 主任研究員