「忘れ去られた若者たち」とも呼ばれた就職氷河期世代。新卒時に無職、または非正規雇用となった後、現在でも新たな正規雇用や正規への雇用転換を果たせていない人が少なくない。ここでは雇用と賃金からみる就職氷河期世代の実情について、日本総合研究所・主任研究員の下田裕介氏が解説していく。 ※本記事は、書籍『就職氷河期世代の行く先』(日本経済新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
老後の不安は増すばかり…「新卒から非正規のまま」氷河期世代の実態 (※写真はイメージです/PIXTA)

50代で賃金「正規雇用の半分程度」…非正規雇用の実態

次に賃金面については、就職氷河期世代のなかで増加した非正規雇用の賃金水準の低さを指摘できる。

 

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から、2019年の大学・大学院卒の所定内給与の平均を雇用形態別にみると、就職氷河期世代に限った話ではないが男性では正規雇用が40.9万円に対し、非正規雇用が28.8万円、女性は正規雇用が30.5万円に対し、非正規雇用は22.7万円と、非正規雇用者の賃金は正規雇用の7割程度にとどまっている。

 

また、非正規雇用の賃金が年齢を重ねてもほとんど増えない点も問題だ。正規雇用においては、企業に入社して以降、段階的に収入が増えていく年功序列システムが、見直す企業も出てきたとはいえ、なお多く存在するのに対して、非正規雇用にはそういったものがない。

 

実際に、年齢階級別の賃金、いわゆる賃金カーブをみると、2019年には男性・正規雇用の場合、入社後間もない20代前半では23.0万円、その後、順調に賃金が上昇し、50代前半に54.1万円とピークを迎える([図表2])。

 

資料:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
[図表2]雇用形態別賃金カーブ(2019年、大学・大学院卒、所定内給与) 資料:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

 

一方、男性非正規雇用については、20代前半が19.9万円、その後も賃金の伸びは非常に限られ、30万円程度までしか上昇しない。

 

正規雇用と非正規雇用の賃金の格差について、20代前半では非正規雇用の賃金は正規雇用の9割弱となっているが、その後、年齢が上がるにつれて両者の格差は広がり、就職氷河期世代の年長者である団塊ジュニア世代の多くがまもなくさしかかる50代前半では56.7%と、正規雇用の賃金の半分程度になってしまう。

 

このような傾向は女性の賃金カーブにおいても同様である。

 

こうした状況に加えて、非正規雇用者はボーナスも退職金もないケースが多い。非正規雇用が続けば現在の不安、そして将来・老後の不安は増すばかりなのである。

 

 

下田 裕介

株式会社日本総合研究所 調査部 主任研究員