高齢貧困のため「生活保護を受給する」となると…
就職氷河期世代の親の介護に伴う生活不安定者の増加や、自身の高齢化による高齢貧困者の増加は、すでに厳しい状況にあるわが国の財政運営においてもさらに大きな重石となる。
そこで、歳出と歳入のそれぞれの面から、これらの問題の顕在化により生じる恐れのある影響をみてみよう。
まず、財政運営上の歳入面では、少子高齢化に歯止めがかからないなか、就職氷河期世代を取り巻く環境の厳しさを背景に、担税力(実際に税金を負担する能力)が低下することが懸念される。
かつてと比べて働く女性が増え、税金を納める人、すなわち「量」の面ではプラスの側面も出ていると考えられる一方、非正規雇用者の増加や賃金の伸び鈍化など「質」の面で悪化したことから、仮に今後も所得税率や所得控除制度が現行のまま据え置かれるとすれば、所得税収は減ってしまう恐れがある。
将来、親の介護などでこれまで続けていた仕事を辞めざるを得ない人が増えることになれば、歳入減の圧力はさらに高まることになる。
一方、財政運営上の歳出面では、就職氷河期世代が貧困に陥れば、団塊ジュニア世代なども含む人口ボリュームの影響から生活保護受給者が増加し、社会保障支出の増大圧力が高まる恐れがある。
大まかなイメージとして、例えば、先に試算した団塊ジュニア世代の将来的に高齢貧困に陥りかねない人が、65歳から生活保護を受給した場合(受給額の最も高い都市部などを想定し、月額75000円と仮定)、国全体としての年間の所要額は約3700億円にのぼる。
これは、生活保護費負担金(2016年度、事業費ベース)における、食費・被服費・光熱費など日常生活に必要な費用を対象とした「生活扶助」の3割強に相当する規模である。
また、団塊ジュニア世代が、現在の65歳の平均余命(男性:19.57歳、女性:24.43歳)と同等まで存命し、生活保護を受給し続けたとすると、トータルの所要額は8.4兆円に達すると推計される。これを就職氷河期世代全体に広げて考えると、生活保護における所要額は、年間で1.2兆円、トータルでは27.5兆円になる。
ここで留意すべき点は、これらの所要額はあくまで生活保護における「生活扶助」という一部分にすぎないことである。
医療サービスの費用を対象とし、全体の約半分を占める「医療扶助」は就職氷河期世代の高齢化により、また、生活の基礎である住まいの家賃に関する「住宅扶助」も、同世代の持ち家比率が上の世代と比べて低下しているなか、歳出の膨張圧力は相対的に増大する可能性が高い。