業界内での信頼もとても厚く、「理想の上司ランキング」では5年連続1位に輝いているお笑い芸人の内村光良さん。同じくお笑い芸人のいとうあさこさんが語ったエピソードなどから内村さんが面白い芸人をライバル視しない理由を見ていきます。※本記事は、博報堂のクリエイティブディレクターである畑中翔太氏の著書『チームが自ずと動き出す 内村光良リーダー論』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・編集したものです。
芸能界は競争社会でも…内村光良が「面白い芸人をライバル視しない」ワケ (※画像はイメージです/PIXTA)

他人の長所を「言葉にする」ことで生まれる効果

さらに内村は、本人も気づいていない他者の長所や特長、よさを見出し、言語化する能力にも長けている。そもそも、他人のことは長所も短所も目に留まりやすいが、自分自身のこととなると、これが却ってよくわからないもの。内村は他者の長所に気づくと、その強みや美点を特段の意識なく言葉にする傾向がある。実際、彼の言葉が、周囲の人間が「自身の長所」に気づきを得るきっかけになっているケースもあるという。

 

内村と長く番組を共にするお笑い芸人・いとうあさこ氏もそんな経験をした一人。

 

今でこそテレビで見ない日はないほどの活躍を見せている彼女だが、まだ世に出る前から、同性のお笑い芸人の活躍に嫉妬や焦りをまったくといっていいほど感じたことがなかったという。

 

当時はまだ「女芸人」と呼ばれる仲間たちの人数も少なく、いとう氏よりずっと後輩で、テレビに出ずっぱりの者もいた。切磋琢磨が求められる業界だが、彼女は「みんなおもしろいなぁ」とその活躍を心から応援していた。

 

それから何年も経ち、『イッテQ!』で、「女芸人」回の収録があったときのこと。12人の女芸人がスタジオに一堂に会した際、内村がカメラが回っていない時にみんなを見て、「すげーな、誰もかぶんねぇな」とボソッと口にした。それをたまたま近くで耳にしたいとう氏は、人知れず大興奮したそう。

 

「あー、そういうことだったんだな、と自分の深層心理を言葉にしてくれたように感じました。そうか、みんな、かぶってないから焦ってなかったんだ、と。もちろん似ている部分はあります。でも似て非なるもの、というか。それぞれがそれぞれで。だから別に誰が選ばれ、自分は選ばれなかったとか一つの仕事で慌てなくていいし、みんな違うんだから、それでいいんだよね……もうウッチャンそれそれ!って(笑)」

 

内村にしてみれば、見て感じたことをシンプルに口にしただけなのだろう。だが内村が率直に言語化してくれたことにより、いとう氏は、これまでどおり自分らしく頑張ればいいのだと、エールを贈られた気持ちになったそうだ。

「他人に素直」であれば、良き才能に気付きやすい

そしてもう一つ、他人のパフォーマンスに素直でいられる内村は、才能を持ったおもしろい人間を見つけるのも圧倒的に早い。事実、内村の番組出演をきっかけにそのおもしろさを世間へと知らしめることになった共演者も多くいる。

 

「内村さんは“おもしろい”ことに素直で、それが本当におもしろくて笑っているのがわかるから、視聴者にもあ、これはおもしろいんだなと伝わりやすいんじゃないでしょうか。だからか、早くからいい芸人さん、才能を見つけますよね」(フジテレビ・木月氏)

 

内村としてはただただ「おもしろさ」に敏感なだけなのだと思うが、内村による発見がきっかけとなり、チャンスを掴んでいく芸人やタレントが少なくないというのが、テレビ業界のもっぱらの定説である。

 

企業にとって「人事」は最重要課題。大きな予算をつけて毎年、新入社員の採用活動を行うのもそのために他ならない。良き才能との出会いは、リーダーにとって、チームにとって、企業にとって、自分たちの未来の展望に直結する事項だ。

 

いかに素早く部下の持つ能力に気づき、素直な賞賛の言葉によってそれをさらに引き出すかで、あなたのチームのパフォーマンスは大きく左右される。

 

そのためにはまずリーダーであるあなたが、くだらないライバル意識を葬り去り、部下たちの才能やパフォーマンスに徹底的に素直になることで、彼らの個性や能力の差異により敏感になることが重要なのだ。

 

 

畑中 翔太

博報堂ケトルクリエイティブディレクター/プロデューサー

 

なぜ内村光良氏が5年連続「理想の上司」1位なのか
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