飛行機代、宿代、食事代…旅にかかる費用すべてを含めて「12万円」で世界を歩く。下川裕治氏の著書『12万円で世界を歩くリターンズ タイ・北極圏・長江・サハリン編』(朝日新聞出版)では、その仰天企画の全貌が明かされている。本連載で紹介するのは北極圏編。30年ぶり2度目の大自然にはなにが待ち受けているのか!?
「予算12万円で北極圏へ」日本ではあり得ない…橋を架けない川の秘密 (※写真はイメージです/PIXTA)

カナダ先住民の暮らす、ツンドラ地帯に突入

雲のなかで州境を越えた。山の頂がユーコンテリトリーとノースウェストテリトリーズのボーダーになっていた。そこにグウィッチン族の居住区が示されていた。グウィッチンはインディアンの一部族で、この周辺に約7000人が暮らしているという。

 

カナダ先住民の彼らは、ユーコンテリトリーにも暮らしていたが、最北の州に入ると彼らの割合が多くなる。どこか先住民世界に入っていくような気になる。この先にはイヌイットも暮らしていた。ユーコン川水系とマッケンジー川水系の分水嶺が北極圏気候に入り込む入口だったような気がする。

 

そしてこの州境が、北の民族の世界と南に広がるカナダを分けているようにも映る。デンプスター・ハイウェーには、目に見えない、いくつかのボーダーが潜んでいた。

 

坂道を一気にくだった。そして道がぬかるみはじめた。マッケンジー川のデルタ地帯に入ってきた。ツンドラらしい地形が眼前に広がっていた。最初にピール川を越える。川幅は広くない。ツンドラ地帯は、夏になると表面が解ける。そんな地質では橋をつくることはなかなか大変らしい。

 

同じ話を中国の青蔵(シーザン)鉄道で聞いた。この鉄道は、標高5000メートルを超えるチベット高原を走る。この一帯の地面も凍っている。1年中、凍っていてくれれば、鉄道を敷くことはそれほど難しくはないらしい。しかし、夏、表面が解けてしまうと始末が悪い。そのため、杭を深く打ち、地面の温度があがらない工夫を施さなくてはならないという。

 

フェリーを待ちながら、その運行スケジュールを眺めていた。このフェリーが動くのは、6月から10月中旬までだった。11月下旬から4月30日までは氷の橋を渡ると記されている。

 

氷の橋? たぶん川が全面結氷(けっぴょう)し、その上を車が通るのでフェリーの必要はなくなるということのようだった。つまり、橋をつくっても、そこを車が使うのは5ヵ月と少しだけなのだ。橋などつくらなくてもなんとかなる、という発想なのかもしれなかった。

 

「でも、10月中旬から11月下旬、それと5月。そこが抜けている」

 

阿部カメラマンに声をかけた。

 

「その間は、車が渡れるほど氷は厚くないけど、フェリーが運航するには氷が張って……ということでしょうか」

 

阿部カメラマンも首を傾げる。