飛行機代、宿代、食事代…旅にかかる費用すべてを含めて「12万円」で世界を歩く。下川裕治氏の著書『12万円で世界を歩くリターンズ タイ・北極圏・長江・サハリン編』(朝日新聞出版)では、その仰天企画の全貌が明かされている。本連載で紹介するのは北極圏編。30年ぶり2度目の大自然、予想だにしないアクシデントが待っていた!
予算12万円で「北極圏への旅」人口3万人弱の街・スーパーでショック カナダ・ホワイトホース市内(※写真はイメージです/PIXTA)

ホワイトホースに到着。「北極圏への道」の中心地のはずだが…

日本から飛行機を乗り継ぎ、ホワイトホースに着いたとき、夜の10時をまわっていた。北緯60度43分。9月の中旬だから、白夜の名残りのように日没は遅いはずだった。しかし10時をすぎるとさすがに暗い。そしてだいぶ冷えていた。急いでセーターを着込む。

 

空港でレンタカーを借り、夜のホワイトホースの街を走りはじめた。運転は阿部カメラマンである。僕は生まれてこのかた、車の運転をしたことがないという人間である。運転免許をもっていないのだ。車社会に反発するような大義はなく、学生時代、長い休みにはアジアを歩いているうちに、免許をとる機会を逃してしまっただけだった。

 

いつもの旅と違い、カメラマンに運転という負担がかかってしまう旅である。申し訳なさもあり、30年前はナビ役を務めた。しかし今回、借りたレンタカーにはカーナビがついていた。スマホで見ることができるグーグルマップもカーナビ代わりになる。僕の役割はなにもなかった。

 

カナダの北極圏への旅は、このホワイトホースが基点になる。車を借り、食料の買いだし……などをすませなくてはならない。北極圏への道は、ユーコンテリトリーとノースウェストテリトリーズを通っている。ユーコンテリトリーの中心がホワイトホースだ。ユーコンテリトリーの人口の75パーセントが、このホワイトホースに集まっているというが、ウィキペディアで、その人口を見たとき、思わず、

 

「少なッ」

 

と声に出しそうになってしまった。2011年の統計だが、2万3276人だけなのだ。その後、人口が増えたとしても、3万人には達していないだろう。そういうエリアに僕らはやってきたわけだ。

 

ホテルで、夕食をとれる店を訊いてみた。フロントの男性は、壁の時計を眺めながら、2ブロック先の中華料理店が一軒、開いているかも……と頼りない口調で教えてくれた。暗く寒い夜道を歩いたが、やはり閉まっていた。

 

深呼吸をしたくなるような朝だった。冷えた空気が、太陽の光でしだいに暖められていく。

 

予算12万円の旅が待っていた。30年前、北極圏への旅は別の財布だったが、この区間だけで12万円ぐらいはかかっている。今回はホワイトホースを出発してから12万円……これが目標だった。

 

おそらく、レストランで食事ができるのは一回ぐらいになる。アメリカでのグレイハウンドのバス旅と同じように、僕らが向かう先は、まずスーパーだった。

 

「これしか売っていないの?」

 

道沿いのスーパーに入り、急に寂しくなってきた。その店の品ぞろえは、さすが人口が3万人にも達しない街の貧相さだったのだ。ぐるりとまわり、かごに入れたのは食パン、チーズ、ディップ、水だけだった。

 

「朝からこれか……」

 

阿部カメラマンと顔を見合わせた。

 

「スタートの朝ぐらいマックに行くか」