飛行機代、宿代、食事代…旅にかかる費用すべてを含めて「12万円」で世界を歩く。下川裕治氏の著書『12万円で世界を歩くリターンズ タイ・北極圏・長江・サハリン編』(朝日新聞出版)では、その仰天企画の全貌が明かされている。本連載で紹介するのは北極圏編。一行はカナダ・トゥクトヤクトゥクを目指す。ピール川・マッケンジー川をフェリーで越え、そこからさらに車を走らせて北極圏の街・イヌビクへ到着した。
北極圏の寂しい街と自然を行く…「12万円の旅」永久凍土の世界へ (※写真はイメージです/PIXTA)

カナダ北極圏の街イヌビク「寂しい朝食とスーパー内」

イヌビクの入口で、スマホを眺めていた。ドーソン・シティを出発して以来、ようやくスマホが電波を拾った。モバイルWi-Fiルーターをレンタルしていたが、朝からなんの反応もなかった。

 

ホテルを検索してみた。3軒のホテルが出てきた。1軒のホテルに、ツインで1万5千円ほどの部屋があったが、すでに満室だった。一応、ホテルのフロントに訊いてみたが、やはり部屋はなかった。軒並みあたるしかなかった。といっても3軒である。イヌビクはそれほど大きな街ではない。

 

3軒目のマッケンジーホテルで、ようやく部屋がみつかったが、ツインが1泊240.45カナダドルもした。日本円で約2万3324円である。30年前は、ツイン1泊が110カナダドルだった。2倍以上に値あがりしていた。欧米のホテルは、しっかりとインフレの波に乗っている。

 

イヌビクのホテルが特別に高いわけではなかったが、12万円という予算のなかではかなり響いた。しかしほかに選択肢はなかった。

 

イヌビクの街に2軒ある雑貨屋のような小さなスーパーの店先にある手すりが、僕らの朝食のテーブルだった。1.5カナダドル、約146円のコーヒー。やはり1.5カナダドルの激甘クッキー。これが2日続いた僕らの朝食だった。

 

店員は皆、先住民系だった。客も大半が先住民だった。朝から酔っぱらっている老人もいたが、大半が蛍光ラインテープがついたジャケットを着ていた。

 

ときおり、白人もやってきたが、やはり同じジャケットで、靴は泥で汚れていた。この店の客のほとんどは現場仕事組だった。道路工事や建築業だろうか。やってくる若い女性も蛍光ラインテープ組がいる。この街には、そんな仕事しかないのかもしれなかった。

 

1泊ツインで2万円を超える部屋にチェックインした時点で、レストランでの食事は、北極海から吹きつける風に飛ばされるように消えてしまった。そもそも、イヌビクには、レストランがほとんどなかった。ホテル内で見ただけだった。

 

大型スーパーが1軒あったが、イヌビクに着いたとき、すでに閉まっていた。頼みはこの小さなスーパーだけだった。そこで冷凍ピザを買い、パンと野菜を買った。幸い、ホテルには電子レンジがあった。

 

「せっかくここまで来たんだけどな。サケぐらい、1回は食べたいよな」

 

そう思って、小さなスーパーのなかを歩く。といっても30秒でまわり終えてしまう店では、北極圏のにおいのするものがなにもなかった。

 

翌日、トゥクトヤクトゥクから戻り、大型スーパーに入ってみたが、いくら探しても、サケはもちろん、魚介類はまったくなかった。肉類ばかりなのだ。30年前、大型スーパーはなかったが、魚はあった。先住民たちが小さな店を構えて売っていた。

 

「なぜ魚がないんだろう」

 

その謎は、ホワイトホースへの帰り道、先住民の村で知ることになるのだが。