【関連記事】「理想の上司ランキング」5年連続1位…内村光良から学ぶ「自発的に動く」チームの作り方
「技量と責任感を持ってこそ」のリーダー
内村は、現場が目指すべき「旗」を立てつつ、チームを自由に「放牧」する。そのおかげで番組や舞台をともにする後輩芸人や出演者はのびのびとパフォーマンスすることができる。
一方でこの自由すぎる放牧は「旗」があってなお、収拾がつかなくなる危険をはらんでいる。とくに「お笑い」というものには“型”があり、芸人同士でパスを出し合い、ボールをゴールに持っていくチーム戦特有の「試合運び」のような側面がある。
しかし内村の現場では、このお笑いのルールに従う必要はない。目指すべき位置に旗は掲げられるが、その試合運びに関しては、やはり自由に放牧してくれる。
この放牧型のアプローチで、それぞれの番組がしっかり成り立っている背景には、たとえ現場でどんなことが起きても、最終的にリーダーである内村が「背負ってくれる」ということが大きく寄与している。
日本テレビ『イッテQ』の総合演出の古立善之氏は内村を「最後は落とせる人」だと表現する。
「なんで内村さんがそんなに若手を自由にさせられるかというと、内村さん自身で最後は“落とせる”からなんです。その場でどんなことが起きても、変な空気になっても自分がボールをもらったら、ゴールを決める……すなわち100%落とせるんです。パスしてくれれば俺はいくらでも、この現場を終わらせられるからっていうね。そこは後輩芸人にとっても安心できるし、演出サイドとしても安心して見ていられますよね」
内村が仕切る現場に流れるその「安心感」が、実際に後輩たちのパフォーマンスを最大限引き出している。
「こちらが台本にないことまでふざけすぎると、普通は最後に出てきて締める内村さんが大変になっちゃうんですが、僕らのそのふざけよりもより大きくして返してくれるんです。最後は自分が引き取るから自由にやってくれ、というスタンスです」(塚地武雅氏)
「チームを自由に放牧する」というリーダーシップが、この「最後は背負う」という姿勢があってこそ成り立つことが分かるエピソードだ。
すなわち、チームの自由なパフォーマンスは、裏を返せば、そのアウトプットを最後はリーダーが成果へと変えてくれるという「安心感」があって初めて成立する。
例えば、部下に新しい商品のマーケティング戦略を任せたとしても、それで上がってきたアウトプットを最終的には成果を出せるプランとしてリーダーが“昇華させる”必要がある。
任せていた作業の進捗が芳しくなければ、納期に間に合わせるための代替案を用意するなど、生じた問題を解決する手立てをリーダーとして提示しなければならない。その技量と責任を持って初めて、「チームを自由に放牧する」というマネジメントが成り立つ。
逆に言えば、リーダーと呼ばれる者が、他の者より金銭、待遇、名声などで恵まれているのは、それを果たせるという実績・能力の裏付けがあってこそ。