「家賃を滞納してからでないと…」本末転倒の対応にげんなり
現場から行政にいいたいこと。もう一つは「代位納付」です。
代位納付とは、家の借主の代わりに、役所が家賃を貸主に直接払うことのできる制度です。代理納付とも呼ばれています。
役所はこれができるはずなのに、やってくれない。おそらく、面倒くさいからでしょう。
代理納付ができると、どのような「よいこと」があるのか。実例を挙げてご説明しましょう。
ある生活保護受給者の家賃の支払いが、遅れがちになっていました。
理由は、生活保護費をもらうとすぐ、アイドルグループ関連のグッズにお金を使ってしまうからです。
本人も、お金の使い方に問題があることは重々自覚しているのですが、なかなか直りません。
そこで本人は、私に助けを求めてきました。
「おれ、お金持ったらすぐ使っちゃうねん。でもそれだと家賃を滞納してしまう。だからALLさん、おれの通帳預かっといてくれませんか?」
さすがに、個人の通帳を預かるのは気が進みません。
とはいえ、本人にお金の管理を任せていたら、家賃を滞納してばかりで、いずれ家を追い出されるのはわかりきっています。
住居は大事。住むところは確保し続けなければなりません。そこで選択肢はひとつ。「代位納付」です。
この場合、代位納付さえできれば、本人も大家さんもウィンウィンというわけです。
私は家賃だけでも代位納付してもらおうと、役所に掛け合いました。
しかし返事はNO。
「代位納付というシステムはあるが、代位納付が使えるのは、実際に家賃を滞納した人だけ」
なんとも本末転倒な話です。こちらは「家賃を滞納しないように、代位納付をしてほしい」とお願いしているのに、役所は「家賃を滞納しないと、代位納付は使えない」というのですから。
「家賃を滞納する」という状態はもう、家を追い出される寸前です。そうなってから代位納付できるようになっても意味がない。論理として完全に破綻しています。
私はつい、「アホちゃう?」とこぼしてしまいました。すると担当の人もそれに反応し、「おっしゃっていることはごもっともなんですけど、できないんです」と言います。どうやら相手も、自分の言っていることのおかしさはよくわかりつつも、「役所の方針としてそれはできない」と伝えるつらさを感じているようでした。
代位納付ができるようになれば、家賃滞納に悩む大家さんは減り、生活困窮者の受け入れは進むのではと考えられます。
坂本 慎治
NPO法人生活支援機構ALL 代表理事
大阪居住支援ネットワーク協議会 代表理事
株式会社ロキ 代表取締役
※本連載で紹介している事例はすべて、個人が特定されないよう変更されており、名前は仮名となっています。