株の短期売買手法は「偶然に左右されやすい」
業績が良かったり、将来の成長が見込めたりする、いわゆる「良い会社」の株は、それを織り込んで高くなります。
たとえば毎年1,000億円の利益を出している会社の時価総額(株価×発行済み株式数)が、100億円といういうことはないでしょう。1兆円以上になることが一般的ですし、さらに成長が見込めるならば、2兆円や3兆円になっていることもあります。
一方、毎年の利益がその100分の1である10億円の会社ならば、その時価総額が同じように「兆」の単位になることは考えられません。
いわゆる「良い会社」は、長い年月をかけて業績を向上させています。決算ごとにハイレベルな数字を叩き出し、そのつど市場の評価を得て株価が上昇しています。そして、この会社の「良さ」に賭けて長期に株を保持していた投資家は、その恩恵を受けているのです。
ところが、たとえそんな「良い会社」でも、今日一日で株価が上がるかどうかというのは、読み切れない部分があります。
長期ならば、良い会社の株を適切または割安な価格で買えれば、いずれ上昇していくことが期待できます。「良い会社であること」と「価格が適切または割安であること」を読み取り、「上昇するのを辛抱強く待てるか」が、投資家の腕なのです。
ところが、たとえ良い会社の株を適切または割安な価格で買えたとしても、今日一日でそれがどうなるかは、ちょっとわからない面があります。市場の参加者は様々な思惑を持ち、様々な判断で価格を決めて株を売買していますので、そんな株であっても、その日の動向はやはり不明瞭になるからです。
したがって、短期売買手法の特徴としてまず、「偶然に左右されやすい」を挙げることができるでしょう。
株の短期売買手法は「ローリスク・ローリターン」
では次に、株の短期売買手法がローリスク・ローリターンであることを、ごく簡単な数学モデルで考えてみましょう。
ここに、株価1,000円の銘柄があるとします。そしてこの株は、まったくの偶然によって、1営業日ごとに10円上下するとします。上がる確率と下がる確率は、それぞれ1/2です。さて、1営業日経つと、株価は1,010円になっているか、990円になっているか、のどちらかです。そしてその確率はそれぞれ、やはり1/2です。
ところが3営業日経つと、どうなるでしょうか? 下記[図表]に、考えられる株価の推移を示してみます。
上がる確率と下がる確率がそれぞれ1/2ですから、やはり大体、株価は990円から1,010円の範囲に収まります。その確率は6/8です(全部で8パターン中、6パターン)。
ところがこの場合、1,030円になる確率と970円になる確率がそれぞれ1/8ずつ生じてきました。これは、1営業日経っただけの時には、生じていませんでした。
このように、上がる確率と下がる確率が等しくても、時間が経てば確率的に、株価の変動幅は広がっていくのです。
ですから、「長期投資ほど確率的に、株価変動の幅は大きくなる」といえ、逆にいえば、「短期投資ほど確率的に、株価変動の幅は小さくなる」すなわち「ローリスク・ローリターン」だといえるのです。
なお、このモデルでは1営業日ごとの上がる確率と下がる確率は等しいと仮定しましたが、仮に上がる確率の方が高い銘柄を買った場合、全体的に株価が上昇する確率が高まりますし、時間が経てば経つほど大きく値上がりする確率が生まれてきます。
一方、下がる確率の方が高い銘柄を買った場合は、全体的に株価が下落する確率が高まりますし、時間が経てば経つほど大きく値下がりする確率が生じてきます。それを考えても、短期売買ほどローリスク・ローリターンだといえます。