オードリー・タンの母、李雅卿氏が創設した学校「種子学苑」。子どもたちは、何を学び、いつ休むかを自分で決め、「ほんとうに学びたいこと」を探すのですが…。 ※本連載は書籍『子どもを伸ばす接し方』(KADOKAWA)より一部を抜粋・編集したものです。種子学苑に集う子どもや親、先生から寄せられた質問に、同氏が一つ一つ答えていきます。
台湾・天才IT相の母が語る「宿題をしない子ども」への注意の仕方 ※画像はイメージです/PIXTA

種子学苑の子どもたちが「自分の人生の主人公」でいられるワケ

あなたは「子どもが時間を無駄にしたらどうするんです?」と尋ねました。

 

私は「あなたが時間を無駄にしたらどうするんです?」と聞き返しました。するとあなたの表情がさっと曇ったので、きっと不愉快な思いをさせたのだと思います。でもこれは本当のことです。子どもも大人も一日は二十四時間しかないのに、子どもだけが時間を無駄にしているなんて言えないでしょう?

 

あなたは子どもを叩かない母親なので、子どもを叩く親以上に不安を覚えるのだと思います。なぜなら、目標を達成させるために子どもを叩く親は、少なくとも子どもが怖がってすぐに言うことを聞く姿を見ているからです。

 

でも暴力をふるえば将来必ず子どもの人格形成や親子関係が犠牲になると分かっているから、あなたは子どもを叩きません。かといって自分の望み通りに子どもを育てる方法を知っているわけではないから、心配で不安になるのですよね。

 

近代になって、他者主導型学習の研究者は、面白いことに気づきました。子どもは、心から喜んで学ばないと、知識が身につかないばかりか、心の中に葛藤が生まれてしまうというのです。

 

そこで学習者が進んで学ぶよう、様々なメソッドが考えられました。例えば周囲の環境を整える、集団心理に働きかけるといった方法です。こうすれば、確かに子どもは喜んで学ぶかもしれません。「優秀な」働き手を生み出すこともできるでしょう。こうしたメソッドが書かれた本はいくらでも見つかります。

 

しかし、これは私が良いと思う教育方法ではありません。なぜなら他者主導型の教育を受けた子どもには、「自分が本当に学びたいことを発見し、自分の能力で何かを達成した経験と自信」がないからです。

 

自主学習では、大人が子どもをサポートし、子どもと意見を交わすことで、子どもは小さい頃からいつも自分で選択し、挑戦し、対応し、変化してきたという自信と勇気を持つことができます。これらは、やがてこの世を生きるための自分だけの知恵になります。結果的に社会に振り回されることなく、自分らしくいることができます。

 

子育てと学校作りに格闘した教育者が自らも悩んだ数々の質問に答えます!

どちらの学習方法でも、協調性や社交性、愛情、魅力などを身につけ、社会に認められるようにはなると思います。しかし、社会は知らず知らずのうちに人々を道具や物のように扱って、支配しようとします。それに対抗できる力は、自主学習でしか育ちません。だから私は他者主導型ではなく、自主学習を主張するのです。

 

教育の専門家は子どもを持つ親に対して、よく「スタート時点で負けが確定してしまいますよ」と脅したり、「道を踏み外さないよう、お子さんのそばにいてあげて」と忠告したり、「成功した親になりましょう」と言ったりします。この言葉に従って「成功」した親たちは、子どもにも同じように成功してほしいと望みます。

 

しかし自主学習では、自分の子どもがスタート地点やゴール地点で負けたらどうしようと思うことも、子どもに世間のいう成功を収めてほしいと願うこともありません。

 

親が子どもに望むのは、常にはっきりした考えを持ち、自分の人生の主人公でいることだけなのです。

 

 

李 雅卿(リー・ヤーチン)

種子学苑 創立者