大企業こそ陥ってしまう…「新規事業の魔の展開」とは
マッキンゼーからのアドバイスは、非常に的を射たものだった。当時、マッキンゼーが教えてくれたことは、
■本業で培った強みをもとに飛び地に展開しろ。
■ミスミには「勝ち方の型」がある。
■「勝ち方の型」は、非効率が散在していて、その非効率を集約できて、そこに経済原則が働いていたら、カタログ通販で参入する。
だった。これは非常に価値ある指摘だった。なぜならば、「飛び地OK」ということは、「(今まで接点のなかった業界・領域など)何でもOK」ということでもあるからだ。
当時の僕は知るよしもなかったが、世の中の大企業は判で押したかのような「新規事業の魔の展開」を繰り返している。
どういうことかというと、新年度になり事業開発室という部署ができる。そのタイミングで動かせる人を集めた混成チームには、年度内に「何か」を生み出せと指示が飛ぶ。「何か」とはまさしく「何か」であり、上司や上司の上司も含め、誰も強く具体的な思いを描いていなし、それに対する熱意もない。
「何を起案するのか」「それは我が社でやるべきなのか」「もっと我が社の強みが生かせる事業はないのか」など誰も答えを出せない禅問答のような社内会議が続く。これにより、「生めない、生まない事業開発室」ができあがる。
私見だが、我が国の大企業の新規事業の99%で再現されている、鉄板中の鉄板の「魔の展開」である。一方、当時の僕たちは、マッキンゼーの教えにより、この「魔の展開」を回避することができた。
「勝ち方の型」という全社共通の新規事業のモノサシができたので、事業を検討するにあたり、全員が同じ目線で是非を議論できたのだ。そのため、不要で不毛な議論は皆無だった。非常に実りのある議論を重ねることができ、ここまではとてもよいステップだった。
僕の失敗は、この後だ。マッキンゼーと一緒にマッキンゼーのモノサシをあてがって検討した結果、看護師向けのカタログ通販事業という飛び地の事業を選んだ。そしてマッキンゼーが去った後、「社内メンバーだけ」でこの事業のローンチを目指したのだ。