これまで52の新規事業を立ち上げてきた「起業のプロ」守屋実氏が、自身の経験から新規事業の立ち上げにあたって大企業が陥りやすい失敗について、経験談とともに回避方法を紹介します。※本連載は守屋実氏の著書『起業は意志が10割』から一部を抜粋・再編集したものです。
「まったく数字が伸びないぞ…」起業のプロが犯した痛恨のミス (※画像はイメージです/PIXTA)

社内メンバーだけでプロジェクトを進めてはいけない訳

社内メンバーだけなので、「新規事業の立ち上げ経験のない」「機械工業系金型分野人材のみ」のチームであった。もちろん、顧客ヒアリングをまったくしないということはさすがになく、事前に看護師数人に「こんなサービスはどうですか?」と質問をした。

 

どの看護師も「いいですね」と好反応。お墨付きをもらえたので、聴診器やユニフォームなどが掲載された通販カタログを全国の中小病院に送りつけた。しばらくワクワクして待ったが、まったく注文は入らなかった。

 

理由は単純で、そもそも資材の購入は用度課という事務職が担い、看護師は発注権限を持っていなかったのだ。今思い出しても、驚くほど稚拙な失敗だ。そしてさらに驚くことに、参入後しばらくして、どうも様子がおかしい、まったく数字が伸びないぞ……、と怪訝に思い始めるまで、僕も含め社内の誰もそこに気づいていなかったのである。

 

劣勢に立たされた僕たちは、すぐさま診療所向けの事業にピボット(事業の方向転換)する。診療所の院長であれば発注権限を持っているからだ。しかし、最悪なことに同じ失敗を繰り返した。

 

当時の診療所の医師たちは、営業がきたら注文するというスタイルに慣れていたために、自らカタログを開いて必要な商品番号や必要な商品数を記入してFAXするなど、そんな面倒なことはまったくしてくれなかったのである。

 

この2連敗は、医療業界のプロがいれば、そして起業のプロがいれば、しなくてよかった失敗だった。事業開発室のメンバーにも、そしてミスミ全体にも、業界のことを知っている人が誰もおらず、加えて、起業経験があるメンバーもいなかった。

 

起業家としてあまりにも未熟で、知見の不足どころか、取り組みの姿勢から間違っていたことに、2度の失敗を経て、僕はやっと気がついた。この愚かな間違いは、30年近く経った今でも、大企業での定番頻出の間違いである。