社内メンバーだけでプロジェクトを進めてはいけない訳
社内メンバーだけなので、「新規事業の立ち上げ経験のない」「機械工業系金型分野人材のみ」のチームであった。もちろん、顧客ヒアリングをまったくしないということはさすがになく、事前に看護師数人に「こんなサービスはどうですか?」と質問をした。
どの看護師も「いいですね」と好反応。お墨付きをもらえたので、聴診器やユニフォームなどが掲載された通販カタログを全国の中小病院に送りつけた。しばらくワクワクして待ったが、まったく注文は入らなかった。
理由は単純で、そもそも資材の購入は用度課という事務職が担い、看護師は発注権限を持っていなかったのだ。今思い出しても、驚くほど稚拙な失敗だ。そしてさらに驚くことに、参入後しばらくして、どうも様子がおかしい、まったく数字が伸びないぞ……、と怪訝に思い始めるまで、僕も含め社内の誰もそこに気づいていなかったのである。
劣勢に立たされた僕たちは、すぐさま診療所向けの事業にピボット(事業の方向転換)する。診療所の院長であれば発注権限を持っているからだ。しかし、最悪なことに同じ失敗を繰り返した。
当時の診療所の医師たちは、営業がきたら注文するというスタイルに慣れていたために、自らカタログを開いて必要な商品番号や必要な商品数を記入してFAXするなど、そんな面倒なことはまったくしてくれなかったのである。
この2連敗は、医療業界のプロがいれば、そして起業のプロがいれば、しなくてよかった失敗だった。事業開発室のメンバーにも、そしてミスミ全体にも、業界のことを知っている人が誰もおらず、加えて、起業経験があるメンバーもいなかった。
起業家としてあまりにも未熟で、知見の不足どころか、取り組みの姿勢から間違っていたことに、2度の失敗を経て、僕はやっと気がついた。この愚かな間違いは、30年近く経った今でも、大企業での定番頻出の間違いである。