元経済産業省産業構造審議会・商品先物取引分科会委員でファイナンシャルプランナーの三次理加氏が執筆した『お米の先物市場活用法』(時事通信出版局)より一部を編集・抜粋し、商品先物取引を行う際に覚えておきたいルールについて解説します。
商品先物の仕組み…覚えておきたい「値洗い」と「証拠金」のルール

<この連載の第1回記事はコチラから>

「商品先物の仕組み」…証拠金がたりなくなったら

2.不足額の計算(総額の不足額、現金の不足額)

 

商品先物取引を行う際は、委託者証拠金を商品先物取引業者に差し入れまたは預託する必要があります。委託者証拠金は、保有する建玉を決済するまでの間、その金額を維持することが必要となります。

 

委託者証拠金を維持できない状況は、どのような時に起きるのでしょうか? それは、「総額の不足額」または「現金不足額」のいずれかが生じた場合になります。

 

「総額の不足額」または「現金不足額」を説明する前に、お金に関する名称の定義を説明しておきましょう。

 

預り証拠金:商品先物取引業者に預託した金銭または有価証券

売買差損益金:反対売買によって確定した損益額および最終決済に伴う損益額

現金授受予定額:「値洗損益金通算額」、「売買差損益金」の合計額から、委託手数料、委託手数料にかかる消費税など委託者の負担すべき額で商品先物取引業者が必要と認める額を差し引いた額

※オプション取引がある場合、「オプション取引における未決済の取引代金」も加算する。

現金支払予定額:「現金授受予定額」の数値がマイナスの場合、その絶対値

受入証拠金の総額:「預り証拠金」に「現金授受予定額」を加減した額

 

(1)総額の不足額

 

「総額の不足額」とは、「受入証拠金の総額」が「委託者証拠金」を下回っている場合に、その差額のことをいいます[図表1]。「総額の不足額」が発生するのは、どういう状況の時でしょうか? [図表1]の計算式から、受入証拠金額が減少する、委託者証拠金額が増額される、このいずれかまたは双方が同時に起きた時です。

 

ちなみに、受入証拠金額が減少する例としては、相場変動により建玉の値洗いが悪化し値洗損益金通算額がマイナスとなる場合、建玉の決済により損金が発生した場合、などがあります。

 

(2)現金不足額

 

「現金不足額」とは、「預り証拠金」のうち「現金」の額が委託者の「現金支払予定額」を下回っている場合に、その差額のことをいいます[図表1]。「現金不足額」は、どういう状況の時に発生するでしょうか?

 

それは、次の二つのケースで発生します。

 

一つ目は、差し入れまたは預託している金銭が「有価証券のみ」の時に、値洗い損となる場合。二つ目は、差し入れまたは預託している金銭が「現金と有価証券」の時に、値洗い損金額が差し入れまたは預託した現金より大きい場合、の二つです。

 

つまり、「現金不足額」は、受入証拠金額が委託者証拠金額を満たしていたとしても発生します。従って、有価証券を差し入れまたは預託して取引を行う際には注意が必要といえます。ただし、商品先物取引業者によっては、「総額の不足額」が発生していない場合、「現金不足額」を請求しないこともあります。

 

[図表1]「総額の不足額」イメージ
[図表1]「総額の不足額」イメージ

 

(3)「総額の不足額」または「現金不足額」発生時の対応

 

「総額の不足額」または「現金不足額」が発生したら、どうすればいいでしょうか? それは、次の二つのどちらかを選択することにより、その不足状態を解消すればいいのです。

 

一つ目は、「総額の不足額」または「現金不足額」のいずれか大きい額以上の額を入金することにより不足を解消する方法です。ただし、「現金不足額」の場合には、原則として現金のみの入金が必要となります。

 

二つ目は、建玉の全部または一部を決済し、委託者証拠金額を減額すること等により不足状態を解消する方法です。いずれの場合も、不足額が発生した日の翌営業日正午までのうち、商品先物取引業者が指定する時刻までに不足を解消するようにしなければなりません。

 

どちらも選択しなかった場合や、選択しても不足額が解消しなかった場合には、商品先物取引業者が任意で建玉の全部または一部を強制的に決済することになりますので、取引をする際には資金に余裕を持たせた金額を口座に入金し、かつ、口座状況について必ず毎日確認することをお勧めいたします。

 

 

三次 理加

ファイナンシャルプランナー

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