この記事の登場人物
小林さん:元国税専門官、フリーランスライター。都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事していた。お金のプロ。
梅田さん:社会人6年目を迎える28歳・会社員。「お金のことが全然わからない」ことに危機感を抱き、プロに洗いざらい聞くことを決めた「お金の素人」。
店舗数・貯金上限…他銀行と大きく異なるゆうちょ銀行
小林さん:ゆうちょ銀行の店舗数とATMの数の多さは、他の金融機関に比べて群を抜いています。そもそもゆうちょ銀行は、2007年に国営事業だった郵政事業の「郵便貯金」を引き継いで発足した民間の銀行です。全国に約3万台ものATMがあり、その貯金残高は約180兆円。メガバンクのひとつ、三菱UFJ銀行の預金残高約180兆円と並び、国内最大クラスの貯金残高を誇ります(※2019年3月現在)。
梅田さん:それだけたくさんの人が使っているということですね。店舗数トップは知らなかった…。
小林さん:ただ、気をつけなくてはならないこともあります。実は、ゆうちょ銀行の「通常貯金」「定額・定期貯金」に預けられる金額には上限があるんですよ。もし上限を超えると、超えた金額は金利のつかない「振替口座」で管理されることになります。
梅田さん:貯金? 預金じゃないんですか? 貯金というと、貯金箱のイメージがあります。
小林さん:ゆうちょ銀行の場合、一般的な預金のことを「貯金」と言い習わします。民営化される前からの呼び名を変えずに、そのまま使っているんです。
梅田さん:そうなんですね。では、どうして上限があるんですか? 銀行って、できるだけたくさんお金を集めたいんじゃないんですか?
小林さん:その通りです。ただ、ゆうちょ銀行のルーツは国営事業だったことから、信用力が他の民間の銀行よりも高いんですよ。だから、同じルールで競争するとゆうちょ銀行にばかりお金が集まって、他の銀行のお金を吸い上げることになってしまう。そこで、ゆうちょ銀行の場合、各貯金それぞれ「1300万円」という限度を設けているのです。
梅田さん:たしかに、他の銀行からすると上限がないと不公平に思うかも。では、利用者の立場で見たとき、他に銀行との違いはありますか?
小林さん:ゆうちょ銀行の取引は、あくまで個人が対象なので、他の銀行のように会社としてお金を借りることはできません。会社名義でも口座を作ってお金を預けることはできますが、上限額は個人と同じく1300万円なので、法人向きではありませんね。
財産を預け、相続に向けた準備ができる「信託銀行」
梅田さん:ゆうちょ銀行ほどではないのですが、小林さんがさっき言ったみたいにたまに「信託銀行」や「信用金庫」「信用組合」とか街で見かけるたびに、ちょっと憂鬱になるんです。銀行っぽいことはわかるんですが、普通の銀行とは同じではなさそう…けど具体的に何が違うかがわからない。大人なのに知らないのはやばい気がして…。
小林さん:たしかに、一般の銀行とは少し業態が違ったりしますね。けれど、みんな口にしないだけで、その違いがよくわからない人も多いと思いますよ。落ち込む必要はありません。今わかればいいだけの話ですし。
梅田さん:じゃあ、まず「信託銀行」から教えてください! これは銀行の頭に「信託」とついているので、「投資信託商品を取り扱う銀行」という理解でいいですか?
小林さん:いいところは突いています。より正確に言えば、信託銀行とはずばり「信託業務」を執り行う銀行です。
梅田さん:…それって投資信託とは違うんですか?
小林さん:重なる部分はありますが、それだけじゃないんです。「信託業務」とは、お客さんから預かった財産を管理・運営し、手数料をもらうビジネスのこと。こうした業務は金融庁から認められた金融機関しか行えません。いわゆる普通銀行のなかでも「信託業務」を行う許可をもらっている銀行があり、それが「信託銀行」です。ただし、信託銀行のすべてが「XX信託銀行」という看板を掲げるわけではありません。りそな銀行や一部の地方銀行は信託銀行とは名乗っていませんが、許可をもらって信託業務を行っています。
梅田さん:自分の財産を預けてそれを運用して利益を出してもらう、まさに「信じて託す」銀行が信託銀行なんですね。
小林さん:その通り! 信託銀行の最大の特徴は、顧客の財産を預かってくれる点にあります。株や投資信託のほか、不動産も預かってくれますし、遺言の管理もサービスとして行われています。将来の相続に向けて準備をしておきたいのであれば、信託銀行のサービスは役立つでしょう。
地域の発展のため互いに助け合う「信用金庫・組合」
梅田さん:次に、「信用金庫」「信用組合」について教えてください。これは、名前からはちょっと想像がつきません…
小林さん:信用金庫と信用組合は、まずはざっくり銀行ではないけれどもそれとほぼ同じ業務を行う金融機関と思ってください。違いは、会員や組合員から集めた出資金を元手にして、「互いに助け合うこと」を目指した非営利の金融機関ということ。運営の方針となる「根拠法」すなわち法律がそれぞれに存在しており、「どんな人が利用できるか」「どれくらいの額の取引ができるか」などが定められています。
梅田さん:銀行と似ているけれど、法律によって境界線が決められていて利益を求めない、というわけですね。僕も利用できるのでしょうか?
小林さん:はい。全国各地にある信用金庫や信用組合は、それぞれに営業エリアが決まっています。ですから、梅田さんが利用するのなら、梅田さんがお住まいの地域を営業エリアとする信用金庫や信用組合を使うことになります。
梅田さん:銀行よりも狭い、地域が限定されているイメージですね。
小林さん:そうですね。地元の企業を支援するなど、「活性化を促す小型銀行」という特徴を強く持っています。なので、地域に根ざした商売をしている個人事業主や企業は、信用金庫や信用組合を利用することが多いようです。大手の銀行だと、融資、すなわちお金の貸し付けに応じてくれないことも多々あるので。
梅田さん:では、「信用金庫」と「信用組合」の違いはどこにあるんですか?
小林さん:両者の違いはずばり「規模」ですね。信用組合は、信用金庫よりさらに地域性が強く、小規模な企業をターゲットにしていると考えてください。とりあえずは、「信用組合=信用金庫よりも規模がより小さな金融機関」というイメージでいいのではないでしょうか。
梅田さん:うーん…銀行と信用金庫、それに信用組合の違いをひとことで言うと?
小林さん:銀行は「株式会社」であり、株主の利益が優先されます。主な取引先は大企業です。一方、信用金庫は、地域の人々が利用者や会員となり、互いにエリアの発展を願って助け合うことを目指す金融機関。なので、主な取引先は地元の中小企業や地元の方です。預かったお金も、基本的にはその営業地域内の発展に生かされます。これは、銀行の考え方と大きく違いますよね。信用組合は、信用金庫と同じく協同精神を持つ金融機関ですが、業務の範囲が少し異なります。たとえば「預金」。信用金庫の場合、誰でも預金をすることができますが、信用組合は原則として組合員でなければ預金利用はできません。より小規模で業務範囲が狭く、組合員を手厚くサポートする色合いが強いのが信用組合、といえます。
定期貯金の利用で高金利を期待できる「JAバンク」
梅田さん:最後にCMなどでもよく見る「JAバンク」。これって、農家さん専用の銀行ですか?
小林さん:いえいえ、農家さんでなくても利用できますよ。しかも、JAバンクっていかにも銀行に聞こえますが、その正体は銀行じゃないんです。
梅田さん:え? 銀行じゃない?
小林さん:はい。ただし「信用事業」という名前で、銀行と同じような業務が運営されています。そもそも「JA」とは、「農業協同組合」(農協)の英語名「Japan Agricultural Cooperatives」の頭文字をとったもの。相互に助け合う精神でつくられた組織です。運営主体は、「農林中央金庫」。JAバンクの世界の“親玉”です。これは金融トリビアですが、農林中央金庫の資産規模は巨大で、世界でも指折りの「機関投資家」なんですよ。機関投資家とは、巨額の資金を投資・運用する組織のことをいいます。
梅田さん:世界屈指の規模というのは意外…とはいえ、農家さん以外も利用できるといっても、JAバンクと一般的な会社員との関わりがいまいち見えてこないのですが。
小林さん:そうですね。農家のための協同組合が運営するサービスですから、「組合員専用」「組合員向け」の優遇が充実しているのは否めません。とはいえ、一般の人は「組合員」にはなれませんが、「農協の准組合員」として出資金を払って口座を作れば、組合員と同様またはそれに近いサービスを受けられます。
梅田さん:じゃあ、農家とはまったく無関係の僕がJAバンクに口座を作ったら、いったいどんなメリットが?
小林さん:店舗やATMの数が多い点は便利でしょう。たとえばJAバンク専用のATM数は全国で約1万2000台と日本最大級で、ゆうちょ銀行に次ぐ規模です。もちろん、コンビニなどの他行の多くのATMとも提携しています。また、比較的高金利の定期貯金のキャンペーンが行われることもあるので、そういったことをうまく利用できれば一般の銀行以上のリターンが期待できるかもしれませんね。
手数料が安く、金利は大手の2倍がつく「ネット銀行」
小林さん:もっと梅田さんに身近な「ネットバンク」についても触れておきましょうか。銀行という業界の中でも、最先端の業態です。ネットバンクとは、「ネット銀行」のことで…
梅田さん:パソコンやスマホで預金したり、振り込みしたりできる銀行ですよね!
小林さん:そ、そうですね。一応説明しておくと、ネット銀行とは一般の銀行のような店舗を持たない「無店舗型の銀行」です。無店舗のため、口座を新しく開設するときや振り込みなどの取引はすべてパソコンやスマホで行い、現金を入出金するときは提携しているATMを使います。ネット銀行として有名なのは「ソニー銀行」「楽天銀行」「住信SBIネット銀行」「じぶん銀行」「ジャパンネット銀行」などです。このような無店舗型のネット銀行のメリットは、メガバンクや地方銀行と比べて預金の金利が高いことと手数料が安いことです。
梅田さん:なぜ金利が高かったり、手数料が安かったりするんですか?
小林さん:ネット銀行は店舗がないので、店舗の賃料や人件費をカットできます。なので、そのカットした分を利用者に還元できるというわけです。
梅田さん:では実際、預金金利はどれくらい高いんですか?
小林さん:大手銀行の2倍以上の預金金利を提供しているネット銀行が多いですね。
梅田さん:2、2倍!? 思っていた以上に金利がつくんですね。じゃあ、手数料はどれくらい安いんでしょう?
小林さん:「他行宛て振込手数料」を比べてみましょう。「自分が利用する銀行とは違う銀行に振り込む」というケースです。まずはネット銀行から。たとえばソニー銀行の場合、金額に関係なく「200円+税」です。しかも、毎月最初の1回は無料です。じぶん銀行の場合、かかる手数料の額がその人の取引内容や預金残高によって5段階のステージに分けられています。預金残高が300万円を超えるとステージが最上位の「じぶんプラス5」になり、他行宛て振込手数料が月15回も無料になります。
梅田さん:一般の銀行は?
小林さん:店舗のある一般的な銀行については、たとえば三菱UFJ銀行では、他の銀行に振り込む場合、3万円未満であれば275円、3万円以上であれば440円が都度かかります。同行ではインターネットサービスとして「三菱UFJダイレクト」を用意しているため、ネットで振込手続きをすれば若干手数料が下がりますが、それでも3万円未満は220円、3万円以上は330円かかります。
梅田さん:たしかに比べると、ネット銀行を利用するほうが振込手数料が安かったり、預金の金利が高くなったり、利用者にとっては得しやすい仕組みになっているんですね。
小林さん:基本的にはそのように理解しておけば大丈夫です。ただ、店舗を持つ銀行も、手数料を割り引く仕組みを用意していることがありますよ。先ほどの三菱UFJ銀行も、「三菱UFJダイレクト」の契約・登録のうえ、一定のクレジットカードの引き落とし口座にしたりすることで、他行宛の振込手数料を月3回まで無料にする「スーパー普通預金(メインバンクプラス)」というサービスを用意しています。気になる人は「(自分が使っている)銀行名手数料無料」で検索してみてください。
小林 義崇
フリーライター
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