「言ってくれよ」で怒涛のいざこざ勃発
【とある夫婦の事例】
妻はわざわざ「これやってほしいんだけど……」と言う前に、夫に察して動いてほしいと思っています。
「ねえ、私が掃除をしないと部屋はきれいにならないわけ!? 一緒に住んでるんだから、あなたも少しくらい掃除してよ」
「そんなこと言われても十分きれいじゃないか……。言ってくれたらちゃんとやるよ」
ついこのような会話になりがちです。しかし女性は「普通、見たら分かるよね?」と、思ってしまいます。
さらには「今まで何度も『たまには掃除をしてほしい』って(遠回しに)言ってきたつもりだけど、やってくれた試しがない」と、過去のことまで引っ張り出してくることもあります。男性はそもそも気にしていないので「え、そんなことあったっけ?」と混乱に陥ります。
ここでの正解は、もちろん妻の動きを察して先回りをすることです。しかし、男性は脳の構造的に簡単に切り替えることはできません。それにこのような場合もあるのです。
「お風呂掃除しようか?」
「そういうの、聞かずにやってくれるとうれしいんだけど」
「え……。でもこの前、お風呂掃除しようと思って湯船の水を抜いたら『浴槽を漂白中だったのに余計なことしないで』って怒ったじゃん。だから声をかけてからのほうがいいのかなって」
「そういうのってケースバイケースでしょ、なんで臨機応変に考えられないの」
「……(じゃあ、どうしたらいいんだ!)」
「察してほしい」を会社でやると大事故につながるが…
会社では、頼まれてもいない業務を誰にも相談せずに進めるのは、現実的ではありません。チームに迷惑がかかるかもしれないし、もしかしたら上司は違うことをやってもらおうと頼むつもりだったかもしれないからです。こういう社会で生きてきた人にとって「言われてもいないことを自主的にやる」なんて、なかなかできないのです。
しかし、家庭においては妻が「何も言わずに察してほしい」と思っているのも事実。頼まれてもいないことを、何も言わずにさりげなくできれば、非常にポイントが高いのです。まずはささいなことから始めてみてはいかがでしょうか。例えば、背が高い男性の場合は電球を磨く、普段見えない棚の上を拭くなど、妻がなかなか手の届かないような場所を率先して掃除してみる。
あるいは、靴箱のなかやベランダのサッシなど、毎日掃除をする必要はないけれどきれいなほうが気持ち良いというような場所を見つけ、ホコリを拭いたり整理整頓をしてみる。
すると自分も気持ち良くなるだけでなく、妻からも「そこなかなか掃除できてないところだったから助かったわ」と感謝されるでしょう。
「ご機嫌取りに奔走しなさい」ではありません
私は決して「産後の妻はこのような言動に期待しているから、夫たちはご機嫌取りに奔走しなさい」と言いたいわけではありません。どんなに頑張ったって、できないことはあります。
だからこそ、夫婦にはもっと会話をしてほしいと思っています。もしも妻から「言わなくても分かってよ」と言われてしまったら「ごめんね、でも言われないと分からないこともあるんだ。できるだけ気をつけるけど、そうならないために話し合わない?」と提案してみるのも一つです。
決して「エスパーじゃないんだから、そんなの分かるわけないだろ! 君だって俺が何をしてほしいかなんて分からないのに、なんでこっちにばっかり求めてくるんだよ」などと反論をしてはいけません。
恋愛中はお互いを客観的に見ることができるし、それぞれの違いが魅力的にさえ思えますが、結婚をするとどうしても同じ土俵に上がってしまい「なんでこの人は自分と同じようにしてくれないんだろう」と思ってしまいがちです。でも、夫婦だって結局は他人なのですから「この人はそういう考え方をするんだな」と認め合い、そのうえできちんと冷静に話し合ってほしいのです。
おすすめは、家事の分担をきちんとすることです。そうすれば女性側も「私は無収入だから頼んではいけない……。」なんて気を使わずに済みます。
また、役割を決めることでお互いに手の届いていない部分が明白になります。するとサポートしてあげるべき部分もより分かります。このときはもちろんスマートにやることを心掛けてください。
決して「ねえ、お皿洗いは君の仕事だったけど、できていないみたいだから僕がやるよ」などと言わないように。何も言わずにそっと手を差し伸べるのです。そうしているうちに、妻の要望が自然と分かってくるようになります。
東野 純彦
東野産婦人科院長
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