変形性膝関節症は、ひざ関節の軟骨がすり減ることで、ひざに痛みが生じる進行性の疾患です。最初はひざの違和感や動くときに少し痛む程度でも、症状が進行することで痛みは増し、さまざまな動作がつらくなってきます。変形性膝関節症の治療は、そんなつらい症状を緩和することが目的です。今回は変形性膝関節症の検査・診断から、症状の進行度ごとに行うべき治療、変形性膝関節症の最新治療について、名古屋ひざ関節症クリニック院長の武藤真隆医師に伺いました。

変形性膝関節症の検査と診断

変形性膝関節症の診断は、問診、視診(ひざの見た目を確認)、触診を行った後にX線(レントゲン)やMRIの検査を行います。これらの情報を総合し、治療方法をご提案します。

 

■画像検査で症状の進行度を確認

レントゲンでは、ひざ関節の変形の程度を把握することが可能です。Kellgren-Laurence分類(KL分類)という指標でひざ関節の評価を行い、変形の重症度を分類します。

 

<グレード1>

変形性膝関節症が疑われる状態。大きな変化はないが、骨棘(こつきょく:骨の縁にトゲのような変形が生じること)や骨硬化(骨同士がぶつかり合い硬くなっている状態で、X線画像ではより白く映る)が見られることがある。


<グレード2 初期>

ひざ関節の隙間が狭くなり始める。骨の大きな変形はないが、わずかに骨棘の形成が確認できる。

 

<グレード3 進行期>

ひざ関節の隙間がさらに狭くなったり、はっきり確認できるほどの骨棘や骨硬化が生じたりする。

<グレード4 末期>

ひざ関節の隙間が75%以下となり、消失することもある。大きな骨棘が形成され、骨の変形も顕著に認められる。

 

 

 

■より詳細な診断にはMRI検査

レントゲンで確認できるのは、骨の外観のみです。そのため、半月板や軟骨、靭帯の状態などは把握できません。それらの状態を詳細に把握できるのがMRI検査です。

 

MRI画像では、半月板や軟骨、靭帯の状態が精密にわかります。さらに、骨の中の状態も把握できるため、骨内に損傷がないかの詳細な確認まで可能です。

 

MRI検査についてはこちらの記事で詳しく解説しています(関連記事:第6回連載「レントゲンだけじゃダメ?変形性膝関節症でMRI検査する理由」)。

 

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治療法① 保存療法

変形性膝関節症の初期に行う治療は保存療法です。保存療法とは、手術療法以外の治療を指します。変形性膝関節症の場合は運動療法、薬物療法、関節腔内注射などが挙げられます。

 

■運動療法

筋トレやストレッチなどによって足に筋力をつけ、ひざへの負荷を軽減する治療法です。特に太ももの筋肉(大腿四頭筋)を鍛えることでひざの安定性が高まり、痛みの軽減が期待できます。

 

運動療法の注意点やおすすめの筋トレ・ストレッチなどは、こちらの記事で詳しく解説しています(関連記事:第11回連載「変形性膝関節症のしてはいけない運動「1日1万歩」の落とし穴」)。

 

■薬物療法

ひざの痛みの症状緩和を目的とした治療法です。変形性膝関節症の初期で痛みなどの症状も軽い場合は、1〜2週間程度の服用で症状がなくなることがあります。しかし、あくまで対症療法なので、将来的には痛みが再発する可能性があることも覚えておきましょう。内服の疼痛治療薬は主にロキソニン、セレコックスなどの商品名で知られるNSAIDs※1と、NSAIDsで痛みが引かない場合に使用される弱オピオイド※2の2種類があります。

 

※1 NSAIDs: 抗炎症作用、解熱作用、鎮痛作用を有する薬物の総称。

 

※2 弱オピオイド: 脳や神経に作用して、モルヒネ(一般的な麻薬)に類似した作用を示す物質の総称。弱オピオイドは麻薬に準じた鎮痛効果がありますが、麻薬指定は受けていません(麻薬は強オピオイドに分類)。

 

■関節腔内注射

注射には、ステロイド注射とヒアルロン酸注射があります。

 

ステロイド注射は、軟骨のすり減りで生じた滑膜(かつまく:関節を包む組織の内側の膜)の炎症を抑える治療で、ヒアルロン酸注射に対して効果に即効性があることが特徴です。しかし、ステロイドを頻回に注射すると軟骨破壊の懸念があるため、複数回の注射は推奨されていません。

 

ヒアルロン酸注射は、ひざ関節に潤滑効果をもたらす治療です。関節内の空洞を満たしている滑液(かつえき)には、もともとヒアルロン酸が含まれているのですが、加齢によってヒアルロン酸は徐々に減少し、ひざへの負担が増え、動きも悪くなります。こうした関節にヒアルロン酸を補充することで、潤滑効果によって痛みを緩和するとともに、ひざの動きを改善します。

 

ヒアルロン酸注射は定期的に打っていただくことで、ひざの痛みを緩和しますが、変形性膝関節症が進行すると、ヒアルロン酸注射で痛みをコントロールできなくなってきます。効果が感じられなくなったら、注射を繰り返すことはおすすめしません。次の治療法の検討が必要になります。

 

 

 

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治療法② 手術療法

保存療法を継続しても症状の改善が見られない場合や、最近ヒアルロン酸注射で効果を感じられなくなってきたという場合は、変形性膝関節症がさらに進行したことが考えられます。進行期以降は手術療法も治療の視野に入ってきます。

 

■関節鏡視下手術

手術療法の中で最も負担が軽く、数日の入院で済む手術です。ひざの一部に1cmほどの穴をあけ、小さなカメラを挿入して治療を行います。カメラで関節内を確認しながら、ささくれている軟骨や損傷した組織など、炎症を起こす原因物質を除去、洗浄することで関節の痛みや違和感を緩和します。

 

■高位脛骨骨切り術

変形したひざの骨の一部を切り、ひざ関節の角度を矯正する手術です。脛骨または大腿骨に切り込みを入れて人工骨を挿入し、金属で固定して関節の変形を矯正します。1年後、骨がくっついたら金属プレートを抜く再手術があることから、比較的若い患者さんへの適応となります。入院期間は4~5週間程度と長く、機能訓練のリハビリ期間は3カ月から6カ月程度の期間を要します。

 

■人工関節置換術

ひざ関節を金属などでできた人工の関節に置き換える手術です。変形性膝関節症の末期の方でも効果が期待できます。合併症のリスクがあるため、手術の適応はある程度限定して行っています(たとえば、変形性膝関節症で保存療法が効かず、強い痛みで日常生活が困難な方など)。入院期間は3~4週間程度で、退院後もリハビリを続ける必要があります。

 

人工関節置換術についての詳細は、こちらの記事で詳しく解説しています(関連記事:第15回連載「『ひざ』の人工関節手術〜知っておくべき重要事項とは?」)。

 

 

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治療法③ 変形性膝関節症の最新治療

手術療法は、変形性膝関節症の進行期以降の痛みを改善する効果が期待できますが、手術が体の負担になることや合併症のリスクがあること、リハビリに時間がかかることなどのデメリットがあります。これらの理由で手術療法に踏み切れず、ひざの痛みに苦しむ生活を送っている方は少なくありません。

 

近年では再生医療をはじめとする、新しい治療が選択肢として選ばれるようになってきました。これまでの治療法の場合、手術以外は痛みを緩和する対症療法のみで、変形性膝関節症の症状の進行を止めることはできていませんでした。再生医療はひざの痛みを改善するだけでなく、変形性膝関節症の進行を遅らせることが期待できる治療法です。

 

 

 

■PRP(多血小板血漿)治療

患者さんの血液を採取し、自然治癒の作用を持つ血小板を濃縮して注射する治療です。血小板からは複数の成長因子が分泌され、軟骨や靭帯の主成分であるコラーゲンの産生や自然治癒力を向上させる働きを助けることがわかっており*¹、慢性化した関節痛の改善や、ひざ関節の機能向上が期待できます。処置は採血と注射のみです。

 

PRP治療の詳細は、こちらの記事で詳しく解説しています(関連記事:第8回連載「再生医療はここまで身近に!〜PRP療法によるひざ治療〜」)。

 

 

 

■培養幹細胞治療

幹細胞は、複製する能力(自己複製能)と、さまざまな細胞に分化する能力(多分化能)を持つ特殊な細胞です。この2つの能力によって、組織の再生などを担う細胞と考えられています。培養幹細胞治療は、少量の脂肪から幹細胞を採取し、体外で培養してから患部に注射する治療です。幹細胞は、ひざ関節の抗炎症作用や疼痛抑制効果があるため、痛みや関節機能の改善が期待できます*²。処置は脂肪の採取と注射のみです。

 

培養幹細胞治療についての詳細は、こちらの記事で詳しく解説しています(関連記事:第9回連載「『培養幹細胞治療』はいつ検討するもの?ひざ痛改善の成績発表」)。

 

 

 

PRP治療や幹細胞治療は、症状が進行した方でも、手術療法なしで痛みの改善が期待できる治療です。自由診療のため金額は高くなりますが、大掛かりな手術なしでひざの痛みが改善するという点は、いままでになかった大きなメリットと言えます。

 

ひざの再生医療についての詳細は、こちらの記事で詳しく解説しています(関連記事:第5回連載「切らずに痛みを改善…ひざ痛治療の革命『再生医療』の最前線」)。

 

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症状に合った治療の選択を

変形性膝関節症の治療は年々進化を続けています。再生医療の登場で、治療の選択肢の幅はさらなる広がりを見せています。自分のひざの状態がよくわからない、という方は、まずひざの検査を受けていただき、そこから自分に合った治療法を選択してみてください。

 

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