変形性膝関節症は、時間とともに徐々に進行していきます。多くの治療はこの進行をいかに遅らせるかがポイントになりますが、実際のところ、根本的な解決は望めません。症状が進行して日常生活がままならないという場合、最後の手段として行うのが人工関節手術です。そんな人工関節手術とはどんな手術か、手術後の生活はどうなるのか、リスクとメリットは何かといった点について、名古屋ひざ関節症クリニックの院長 武藤真隆 先生に伺いました。

人工関節手術とは?

人工関節手術とは、病気やケガ、加齢に伴って傷ついたり損傷を受けたりした膝関節を、人工的な関節に置き換える手術です。材質は、金属やポリエチレンでできています。

 

ひざの場合は、手術した後、ひざに負担のかかるスポーツはできなくなります。また、正座などの深いひざの曲げ伸ばしも難しいです。ただ、四六時中痛みに悩まされることは無くなり、日常生活で感じていた不自由さもかなり軽減されます。

 

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手術は大きく2種類

ひざの人工関節の手術には、関節を全て人工関節に置き換える全置換術(TKA:Total Knee Arthroplasty)と一部のみを置き換える単顆置換術(UKA:Unicompartmental Knee Arthroplasty)の2種類があります。

 


■人工膝関節全置換術(TKA)
ひざ全体のすり減りと変形が進行している患者さんに実施する手術です。ひざ関節の骨の損傷部分を削り取った後、ひざの外側、内側、ひざのお皿(膝蓋骨)の裏側の軟骨も含め、ひざ全体を、人工関節に置き換えます。ひざのどの部分が悪くても、どこの靭帯が痛んでいても実施できるのが特徴です。

 

※膝蓋骨を置換すべきかどうかについては医師間でも意見が分かれるところです。

 

 

■人工関節単顆(部分)置換術(UKA)

損傷した膝関節の一部のみを人工関節に置き換える手術です。ひざの外側か内側だけが損傷していて、かつ前十字靭帯が損傷を受けていない場合に適応となります。TKAを実施した時よりもひざの可動域が広く、自分のひざの感覚も活かせるという点がメリットです。また、挿入する人工関節は小さいので、皮膚の切開も小さくてすみます。

 

 

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入院期間

症状にもよりますが、入院期間は3〜6週間、多くの方は1カ月ぐらいで退院されます。リハビリは術後2日目ぐらいから開始し、その後平行棒の捕まり歩行、杖歩行、階段の上り下りと、3〜5日ごとにステップアップしていきます。

 

術後2週間後あたりから外泊が可能です。通常は外泊を数回行った後に退院となります。

 

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手術にかかる費用

70歳未満で3割負担なら入院費用(6週間分)も含めて60万円程度が自己負担となります。ただし高額療養費制度を利用すれば、1カ月あたりの自己負担額はもっと安く抑えられる可能性があります。高額療養費制度とは、保険診療で支払った医療費が定められた限度額を超えた場合、 超えた分が払い戻される制度です。限度額は収入状況によって変わってきます。

 

 

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退院後の日常生活での注意点

退院後の日常生活では、なるべく膝に負担がかからないように過ごしてください。具体的に気をつけていただきたい点を表にまとめます。

 

 

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術後に懸念されるリスク

人工関節手術は、変形性膝関節症治療の末期の標準治療ではありますが、いくつか知っておくべきリスクもあります。

 

■感染
人工関節の周囲は血流が乏しくなっています。つまり、細菌を排除する白血球やリンパ球も少ないということであり、感染を起こしやすいということです。人工関節の周囲で感染症を起こした場合、人工関節を入れ替える再手術をしなければいけません。

 

■血栓症
血栓とは血管の中で固まった血の塊です。エコノミー症候群のように長時間動かずじっとしているとできやすいのですが、血流に乗って肺に移動すると命に関わる状態になります。人工関節手術の術中から術後にかけては、ほとんど動かず同じ姿勢をとり続けるので、血栓ができやすい状態です。このため、リハビリは手術直後から推奨されます。

 

■再置換
人工関節はその名の通り人工物であるため、どうしても時間とともに劣化していきます。技術の進歩で、最近はその耐用年数も15〜20年程度に伸びていますが、何らかの理由でそれより早く磨耗したり、緩んでしまったりといった不具合を生じる可能性はあります。そうなった場合も、やはり再置換手術が必要なのですが、再置換を行う場合の感染のリスクは初回手術時よりも高くなるとも言われています。こうしたこともあって、あまり若いうちから人工関節を勧められることはありません。再手術のことだけを考えるなら、なるべく70歳ぐらいまでは人工関節の導入を引き伸ばしたいところです。

 

 

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人工関節手術は“最後の切り札”。その前に…

人工関節の最大のメリットは、ひざの痛みが大幅に軽減されるということです。痛みから解放されることで、人生をより謳歌できます。

 

とはいえ、どうしても手術には踏み切れないという方も少なくありません。膝が人工物に置き換わるわけですから、多少の違和感が残ったり、可動域に制限がかかったりしてしまうのは事実だからです。

 

忙しい方ならなおのこと。3週間前後の入院とその後に続くリハビリは、時間的にも大きな制約を受けることになります。

 

このような方々に朗報と言えるのが、最近徐々に広がりを見せている「ひざの再生医療」です。初期に行う薬物療法やヒアルロン酸注射と、末期の手術治療の間を補完する位置付けで、低負担で長期にわたる痛みの改善効果が期待できます。長くご自分のひざで過ごすことを可能にする、こうした新たな選択肢もあるということは、ぜひ知っておかれると良いと思います。

 

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