新型コロナウイルス感染予防のため外出自粛しているものの、運動不足が気になって、ウォーキングやランニングをされている方もいらっしゃるかと思います。ひざの痛みの予防にも運動は良しとされますが、やみくもに頑張るのでは、逆にひざを痛めたり、症状を悪化させたりしてしまうことも……。そうならないためには、なぜ良くないのか、どんな運動が良いのかを知ることが大切です。そこで、横浜ひざ関節症クリニックの尾辻正樹院長に、おすすめの運動方法も含めて解説いただきました。

変形性膝関節症に1万歩がNGな理由

昨今の健康意識の高まりやシティランのブームもあり、自主的に運動をする人は増えています。当院にも進行を予防するため「1日1万歩」を目標に、日々ウォーキングにいそしんでいるという変形性膝関節症の患者さんが来院されることは少なくありません。ただ、すでにひざの痛みが発症している場合、1万歩のウォーキングは医師として辞めていただくようお願いしています。

 

■ウォーキング自体はひざの健康維持に効果的

 

変形性膝関節症は、ひざ関節に蓄積されたダメージによって軟骨がすり減ってしまう病気です。関節炎などの痛みが生じ、進行すると歩くことすら困難になり、生活の質が著しく低下してしまいます。そうならないように皆さん予防に努められているわけで、ランニングやその他のスポーツより関節への負荷が少ないウォーキングは、ひざの健康のためにもおすすめできる運動のひとつです。アメリカのボストン大学の研究チームの報告では、1日あたり1,000歩増えるごとに、変形性膝関節症患者の歩行に関する機能障害のリスクが17%低下することが示されています。アメリカのボストン大学の研究チームの報告では、1日あたり1,000歩増えるごとに、変形性膝関節症患者の歩行に関する機能障害のリスクが17%低下することが示されています

 

■歩き過ぎると、筋肉のバランスが悪くなる

ただ、先にも申し上げたように、来院された変形性膝関節症の患者さんには
1日1万歩は控えていただくようお伝えしています。

 

変形性膝関節症の治療ガイドラインでも運動療法は高く推奨されていますが、その目的は太ももやふくらはぎ、お尻など、ひざ周りの筋力低下を防ぐことにあります。しかし、歩行は日常的な動作なので、実は普段使い慣れている筋肉しか使えていません。減量のための有酸素運度としては良いですが、やり過ぎると全身の筋肉のバランスが崩れてしまい、関節への負荷が増してしまう可能性も……。加えて、ひざに痛みがあるとどうしてもかばった歩き方になってしまうため、関節への負担が蓄積されてしまうのです。

 

患者さんのひざの状態にもよりますが、当院に来院される患者さん(変形性膝関節症の進行期~末期)には、ひざを安定させて日常動作を補助するタイプのサポーターなどの装具を使用しつつ、5,000歩以内にとどめていただくようお伝えしています。まだ痛みのない方も、7,000歩くらいを目安にすると良いでしょう。

 

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ひざ痛予防の運動の基本は筋トレ&ストレッチ

そもそも変形性膝関節症の運動療法には、ひざ関節の負担の軽減以外にも「痛みを出にくくする」という医学的な裏付けがあります。安静にし過ぎて不活動の状況が続くと、拘縮(関節が動かしにくくなること)や筋肉の萎縮などが生じ、その影響から痛覚が過敏になってしまいます。動かないことが痛みの症状をより悪化してしまうこともあるため、適度な運動はやはり必要不可欠と言えるのです。

 

ひざの痛みに対する場合は、なるべく負荷が少ない方法を選ぶことがポイントとなります。その点では、ウォーキングよりも水中歩行の方が有効です。浮力によって負担を軽減できるだけでなく、水の抵抗があるので陸上のウォーキングよりも多くの筋肉を使うことができます。

 

ただ、変形性膝関節症の運動の目的は、ひざ周りの筋力強化と拘縮防止。外出しなくてもご自宅やオフィスでも空き時間を利用して十分行うことが可能です。具体的な方法をいくつかご紹介しておきます。

 

■まずは関節を動かす準備運動

変形性膝関節症では、ひざの曲げ伸ばしがし辛くなりますが、そうした可動域制限の改善にも効果的な運動です。関節の動きを良くする作用が期待できるので、トレーニング時のひざへの負担も少なくなります。

 

 

 

椅子に座ってひざを2秒かけて伸ばし、10秒間キープしてから、2秒かけて下ろすという運動で、片足20回を2セットが目安です。ひざを伸ばすと痛みがある人は、少し曲がっていても構いません。無理をせず行ないましょう。

 

■太ももの裏側はしっかりストレッチ

筋肉を鍛えるだけでなく、ほぐすこともバランスよく鍛えるためには大切です。特に太もも裏側のハムストリングスが硬いと、ひざや股関節の動きが悪くなるので、運動前にしっかりストレッチしておきましょう。

 

 

 

片ひざを伸ばして体をゆっくり前に倒す際に、ひざが曲がらないよう注意して伸ばします。ひざが曲がってしまう場合は、体を倒す角度で調整します。つま先を手前に反らすと、より効果的です。

 

■タオルをつぶして太もも前側を鍛える

変形性膝関節症の予防や痛みの緩和で特に重視されるのが、太もも前側の大腿四頭筋です。ひざ周りでもっとも大きな筋肉だけに、関節への負荷を軽減するための貢献度も高く、ひざを守るにはこの筋力の維持が必須となります。

 

 

 

筒状に丸めたバスタオルを伸ばした足の下に挟み、タオルをつぶす意識でひざを伸ばします。ひざが伸びきるならタオルは太ももの下に、伸びきらないならふくらはぎの下にと調整しましょう。ひざを伸ばして5秒ほどキープする運動を5~10回、1日3セットが目安となります。

 

■横向きの足上げ運動でお尻を鍛える

ひざから離れてはいますが、お尻の筋肉はひざ関節を安定させる役目を果たしています。お尻の筋力が衰えれば、ヨタヨタした歩き方になり、ひざへの負担が増してしまうのです。

 

 

 

お尻のトレーニングには、横向きに寝そべった状態で足をあげる運動が効果的です。かかとを天井に向けるのがコツで、背中が反ったり、ひざが曲がったりしないよう意識しましょう。3秒かけて上げ、3秒かけて下ろす運動を、10×3セットを目安に行います。

 

■タオルギャザー運動で足裏もトレーニング

足の裏は、全身のバランスを保つ部位なので、足裏の筋肉が衰えると、ひざ関節にも代償となる動作が加わり、負担が増えてしまいます。足の指を動かして鍛えるようにしましょう。

 

 

 

椅子に座って足の下にタオルを敷きます。それを足の指を使ってたぐり寄せるという運動です。左右それぞれ、5回行います。

 

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ひざに痛みがある場合は無理をせず、痛みの治療を

意欲的に運動に取り組むことは良いことですが、痛みが悪化してしまうこともあるので、くれぐれも無理は禁物です。痛みで運動が難しい場合、まずは痛みを緩和する治療を行うことを優先しましょう。そもそも痛み止め薬やヒアルロン酸注射などは、その治療単体で治すのではなく、痛みを和らげて運動しやすくするということが真の目的です。そうすることで下図のように、変形性膝関節症の悪循環から抜け出し、好循環をつくり出すことができます。

 

 

 

■再生医療と組み合わせて一生歩けるひざ関節を目指す

近年は再生医療を始めとする、ひざの手術以外の新しい選択肢も広がっていて、当院でも患者さんの血液を活用する「PRP-FD注射」や、お腹の脂肪を利用する「培養幹細胞治療」を行っています。

 

上図で言えば、従来の保存療法は痛みを一時的に緩和させ、その間に変形性膝関節症の悪循環を抜け出すよう促していました。しかし再生医療をはじめとする治療では、痛みの原因である炎症の抑制や、関節の機能改善が期待できます。つまり、関節内の状態を向上させながら、好循環への移行が図れるのです。

 

治療しながらの運動を早期のうちから行えば、それだけ良い結果が期待できます。今回ご紹介した筋トレやストレッチ法も、主治医の先生と相談しつつ参考にしてみてください。

 

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