PRP療法という再生医療をご存知でしょうか。大リーグの田中将大投手や大谷翔平選手が受けた治療と聞けば、ピンと来る方もいると思います。このPRP療法、実は私たち一般人にとっても無縁ではありません。50歳以上の約半数が該当する「変形性膝関節症」の新たな治療選択肢として、今、注目されているのです。今回は、そんなPRP療法とひざ関節治療について、東京ひざ関節症クリニックの横田直正先生(新宿院 院長)に解説していただきました。

「PRP療法」の材料はあなた自身の血液

PRPとは Platelet-Rich Plasma の略称で、多血小板血漿とも呼ばれます。要は血液中の血小板を濃縮したものです。

 

血小板といえば「出血を止める成分」「血を固める成分」ということはご存知かと思います。血管が損傷すると集まってきて止血に働いてくれるわけですが、実はこの時、集まった血小板からは大量の成長因子(グロスファクター)が放出されます。この成長因子のはたらきによって、組織は修復されます。

 

PRP療法は、血小板が持つこうした修復機能に着目して開発された再生医療です。

 

用途は様々で、毛髪再生、アンチエイジングなど美容分野の他、歯の治療、そして冒頭に述べたようにアスリートのケガの治療法としても注目されてきました。

一般的なひざ痛治療へも応用されるPRP

スポーツ外傷の分野で優れた効果を発揮するようになったPRP療法は、やがてその他の関節治療にも役立てられないかが模索されるようになりました。

 

ひざ痛の代表的な疾患、変形性膝関節症もその一つで、現在では、再生医療を標榜する多くの整形外科でこの治療を受けることができます。

 

変形性膝関節症では、軟骨がすり減ったり半月板が損傷したりします。また、これに伴って関節内が炎症を起こします。初期の場合、変形性膝関節症の痛みの原因は、この炎症にありますが、PRP療法には、組織の修復とともに炎症を緩和する効果が期待できるのです。

 

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なぜひざの痛みを改善できるか?

PRP療法がなぜ痛みの改善に効果的なのか、現在までに分かっているメカニズムをもう少し詳しく見ていきましょう。

 

PRPは、濃縮された血小板がたくさんの成長因子を分泌することで、組織の修復を促し、炎症の緩和を促進すると考えられています。

 

代表的な成長因子と、その働きは以下の通りです。

 

• CTGF:軟骨細胞の再生
• PDGF:細胞分裂を促進、コラーゲンの生成
• VEGF:血管内の細胞の新生
• TGF-β:傷の治癒を促進、コラーゲンの生成
• FGF:組織を修復

 

一方、体感的には以下の効果が得られます。

 

• 炎症の鎮静
• 痛みの減少
• 関節機能の向上(可動域や動きのスムーズさの向上)

 

成長因子には多くの種類が存在し、実際にどの成長因子が症状の改善に深く関与しているのかについては、実はまだ良く分かっていません。現時点で言えるのは、これら複数の成長因子が複合的に作用しあって、炎症を抑え、ひざの状態を良くしているということです。

 

今後、この治療の症例数が増え、さらに細かな解明が進めば、変形性膝関節症治療に最適化したPRPの生成が可能になってくるかもしれません。その意味で、まだまだ発展の余地がある治療法だと考えています。

 

 

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「PRP療法」は、どのような人に適しているか?

現時点では、一般的な保存療法(薬物療法やヒアルロン酸注射)を受けているものの、痛みの改善が得られないという方に適していると考えられます。既存治療で思うような効果が得られないという方には、試していただく価値はあるでしょう。手術を勧められたものの決心がつかず、最後の手段のつもりでこの治療法を選択したところ奏効し、実際に手術を回避できたという方もいらっしゃいます。手術をハイリスク・ハイリターンの代表だとするなら、PRP療法はミドルリスク・ミドルリターンと考えれば分かりやすいと思います。そもそも、アスリートがPRPを選択するのも、治療にかかる入院日数や体への負担を軽減できるからです。

 

ただし、誰にでも等しく効果が期待できるという訳ではありません。

 

効果が期待できそうかどうかの見立ては、症例数が豊富で、再生医療に精通した専門家に必ず依頼するようにしてください。

 

私が経験した2,000症例のPRP事例から得た知見をまとめるとこうです。

 

・治療効果は変形の程度に比例する。
・効果持続時間も変形の程度に比例する。

 

つまり、あまり末期になってしまうと、期待できる効果も少なくなるということです。

 

したがって、変形が初期と中期の方が適応といえます。

 

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「PRP療法」…治療の進め方

方法はいたってシンプルです。患者さま自身から採取した血液からPRPを生成し、これを患部に注入します。

 

片膝あたりに必要な血液量は施設によって異なりますが、30mL程度です。これを通常の採血の要領で採取し、専用のキットで遠心分離にかけてPRPを抽出します。

 

もちろん入院の必要はありません。日帰りで受けられます。

 

 

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最前線では次世代治療「PRP-FD注射」が躍進

PRP療法では血液中の血小板を濃縮したものを使用しますが、その中の成長因子だけを濃縮し、活性化させたものを用いるという新たな治療もあります。それがPRP-FDTM注射です。

 

PRP療法の進化形として期待される次世代治療で、実施する医療機関も増えてきました。この治療は当院でも行なっており、すでに4,000例以上の治療実績があります(2020年3月時点)。そこから得た知見も交え、最後にPRP-FD注射についてご紹介したいと思います。

 

◆成長因子の量はPRPの2倍

PRP-FD注射は、効果の鍵となる成長因子を豊富に含んでいます。そこに含まれる成長因子の量はPRPの2倍に匹敵します。

 

◆治療にかかる期間は1ヵ月弱

PRP-FD注射は、採取した血液(加工に要する採血量は40mlです)を専門の血液加工センターに移し、そこで3週間ほどかけて作成していきます。採取したその日に注入できるPRP療法に比べると、やや時間を要します。

 

ただしフリーズドライ加工するので、長期保存が可能です。

 

◆PRPとPRP-FDの効果には違いがあるか?

これについては、今のところ何とも言えませんが、術後1年間経過を追跡した場合、はどちらもおよそ60%程度の方に効果が認められ、差は認められませんでした。

 

多くの国のPRP論文を解析すると、変形の程度が末期でなければ、どちらも概ね1年以上は効果が期待できるというのが、現在のコンセンサスです。

 

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時代は今、再生医療に風が吹いている

変形性膝関節症の治療ゴールは、従来は「悪化させない」でした。これを「改善する」に変える可能性を持つ再生医療が登場し、ひざ治療の選択肢は急速に広がっています。

 

今回はその一端をご紹介したわけですが、ひざ関節の再生医療に携わる一人として申し上げたいのは、まずこうした最先端の現状を知っていただき、色々な情報に接していただきたいということです。そうした備えは、いつか治療の選択が必要になった時の、大きな助けになるはずです。本記事が、みなさんの悔いのない判断の一助になることを願っています。もし、すでにお困りなら、いつでも当院にご相談ください。

 

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※記事内図表「PRP療法の工程」出所:PRP治療(血液を材料に行う治療)|ひざ再生医療ライフ