1.概観
【株式】
8月の株式市場は続伸しました。米国ではIT関連株が牽引役となりS&P500種をはじめ主要指数が史上最高値を更新するなど、各国の大規模な財政・金融政策などを背景に総じてリスク選好的な動きが続きました。感染再拡大が目立っていた米国では、大規模な都市封鎖を経ずに新規感染者がピークアウトしてきました。米中対立の深刻化が懸念されましたが、経済指標の改善や米国企業の4-6月期決算が事前予想を大きく上回ったこと、ワクチンの早期開発期待が株式市場の支援材料となりました。日経平均株価は月末にかけて安倍首相の辞任を受け下落する局面もありましたが、23,000円台に上昇しました。
【債券】
主要先進国の国債利回りは上昇しました。新型コロナ感染拡大によって急減速した経済を支えるため、各国では大規模な財政政策が実施されており、それを賄うために国債が増発されています。景気が緩やかながら回復基調となる中、8月は米国で過去最大となる国債の増発が発表され、需給悪化懸念から国債利回りが上昇しました。一方、国債と社債の利回り格差は縮小しました。緩やかな景気回復の流れが続いており、金融市場が安定的なことが一因です。欧州や日本の利回りは米国に追随する形で上昇しました。
【為替】
円は対米ドルで横ばい、他通貨に対しては総じて下落しました。緩やかな米ドル安となり、ブラジルレアルを除いて新興国・資源国通貨、ユーロが上昇しました。
【商品】
原油先物価格は、引き続き各国経済再開の動きを背景とした需給の改善や、経済回復への楽観的な見方などから、1バレル=43米ドル台に上昇しました。
2.景気動向
<現状>
米国の2020年4-6月期実質GDP成長率は前期比年率▲31.7%となり、大きく落ち込みました。6月以降感染第2波が観測されましたが、新型コロナ感染再拡大には一応の歯止めがかかっており、経済活動はモビリティデータなどからみても緩やかな回復基調が維持されました。
欧州(ユーロ圏)の2020年4-6月期の実質GDP成長率は、前期比年率▲40.3%となりました。重症者数や死者数が比較的安定していることから都市封鎖が徐々に緩和される中で景気は緩やかに持ち直していますが、景気の水準はコロナ禍前を依然として大きく下回りました。
日本の2020年4-6月期の実質GDP成長率改定値は、前期比年率▲27.8%となり、新型コロナ感染拡大の影響で過去最大のマイナス成長となりました。緊急事態宣言による個人消費の落ち込みやインバウンド消費の大幅な減少、欧米向けの輸出の急減が下押し要因となりました。
中国の2020年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+3.2%となりました。消費は弱いものの、経済成長の急回復と雇用の安定を受けて、政府当局は景気対策の重点を緊急対応から中長期的な安定成長に政策の軸足をシフトしました。
豪州の2020年4-6月期の実質GDP成長率は、前年同期比▲6.3%となり、民間消費や民間設備投資の下振れによりマイナス成長となりました。
<見通し>
米国は、雇用や個人消費にも回復がみられ、7-9月期は大きく上方修正されていく可能性があると予想されます。引き続き大規模な金融緩和と景気対策が継続されることも支援材料です。難航していた追加の財政刺激策については進展の兆しが見え始めています。
欧州は、新規感染者数が徐々に減少し、感染収束後は主要国経済の回復とともに製造業や輸出が持ち直すと予想されますが、感染第2波のリスクが意識されるため消費を中心に回復ペースは緩やかになると予想されます。引き続き、財政拡張や金融緩和が下支えとなりそうです。
日本は、新型コロナ感染再拡大の中で、サービス業の回復は足踏みしていますが、製造業は輸出持ち直しの追い風を受けるとみられます。安倍首相の辞任によって財政金融政策が大きく変更される可能性は低いと予想されますが、主要国経済の回復度合いによる製造業への影響などは重要な注目点です。
中国は、政府は景気過熱への警戒から、追加の景気対策は行わないと予想されます。
豪州は、ビクトリア州でのロックダウン延長と規制強化による影響により回復ペースは緩やかとなり、景気の水準を取り戻すのは2022年の半ばと予想されます。
3.金融政策
<現状>
米連邦準備制度理事会(FRB)は新型コロナの感染再拡大を受け、大規模な金融緩和政策を行っており、当面の間ゼロ⾦利を据え置くとしています。8月の臨時の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、FRBが一定期間の平均で2%を上回る物価上昇率を目指す『新たな指針』を発表しました。欧州中央銀行(ECB)も金融緩和策を維持しています。6月にはPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)の拡大と延長を決定し、少なくとも2021年6月まで国債の購入を継続します。日銀は3月から5月にかけて資産買入れ強化や企業金融支援等の新型コロナ対策を矢継ぎ早に打ち出し、6月には企業等の資金繰り支援策を拡大しました。一方、金融政策は6月以降据え置いています。
<見通し>
FRBは、景気と物価の戻りを確保するため、当面の間政策金利をゼロに据え置くとみられます。9月のFOMCで発表されるドット(政策金利パス)では少なくとも23年までの据え置きが明らかにされる可能性が高いと予想します。今後、フォワードガイダンスの強化と大量資産買入れ(LSAP)といった追加緩和策の導入について議論を行っていくとみられます。欧州でも当面ECBや英国中央銀行(BOE)は金融緩和を継続すると予想します。但し、物価の下振れリスクに対応するため2020年12月頃にPEPPの見直しを行い、再度、増額、延長すると予想します。日本でも、当面、資産買入れ強化と企業金融支援を通じた大規模な金融緩和の現状の枠組みを継続していくとみられます。先行きは、欧州、日本ともマイナス金利深堀りを見送るとみられます。
4.債券
<現状>
米国の10年国債利回りは前月末から上昇しました。新型コロナ感染拡大によって急減速した経済を支えるため、各国では大規模な財政政策が行われており、それを賄うために国債が増発されています。景気が緩やかながら回復基調となる中、8月初旬、米国の四半期定例入札予定では過去最大となる増発が発表され、需給悪化が懸念されたことから国債利回りが上昇しました。一方、国債と社債の利回り格差は縮小しました。緩やかな景気回復の流れが続き、金融市場が安定していることが一因となりました。ユーロ圏や日本も米国に追随して利回りが上昇しましたが、日本では感染再拡大もあり景気回復の強さが米欧に比べ弱かったため、小幅な上昇にとどまりました。
<見通し>
米国の10年国債利回りは、引き続き低位での推移を予想します。年後半は経済成長が回復に向かうにつれ徐々にレンジは切り上がるとみられますが、大規模な緩和政策の下で長期金利の上昇幅は抑制される見通しです。社債はFRBの信用緩和策もあり国債との利回り格差は低水準で推移するとみられます。
欧州の10年国債利回りは、各国経済活動の再開や財政拡大、復興基金の大筋合意などを背景に徐々に金利に上昇圧力がかかる展開を予想します。但し、スペインの感染再拡大などから経済の回復ペースは緩慢とみられ、大規模な金融緩和政策の下、金利上昇ペースは緩やかになる見通しです。
日本では、感染第2波を受け経済の回復ペースが鈍化、景気に力強さがみられない中、日銀は緩和的スタンスを継続すると予想します。国債発行が増額されていますが、日銀の買入れが金利上昇を抑制し、国債利回りは低水準での推移が続くことが見込まれます。
5.企業業績と株式
<現状>
S&P500種指数の8月の1株当たり予想利益(EPS)は153.48で、前年同月比▲12.9%(前月同▲15.0%)となりました。ただ、予想EPSの水準は5月の141.06を底に3ヵ月連続で上昇しました。一方、東証株価指数(TOPIX)の8月の予想EPSは92.51、伸び率は同▲26.5%(前月同▲27.0%)で、前月(92.48)とほぼ同水準でした(以上、Bloomberg集計)。米国株式市場は5ヵ月連続で上昇しました。大手IT企業の好決算など市場予想を上回る決算を発表した企業が株価を牽引しました。トランプ大統領による追加景気対策にも期待が集まりました。米中対立の激化が懸念されましたが、S&P500種指数は史上最高値を更新しました。主要株価指数は、ナスダック総合指数が前月比+9.6%、S&P500種指数が同+7.0%、NYダウが同+7.6%でした。一方、日本株式市場も米株高や円高是正を背景に上昇しました。ただ、28日に安倍首相が辞任を表明したことが重荷となりました。TOPIXは前月比+8.2%、日経平均株価は同+6.6%でした。
<見通し>
米国は、S&P500種指数採用企業の4-6月期の利益成長率は▲30.8%ですが、7-9月期は同▲22.9%、10-12月期は同▲14.7%、21年1-3月期は同+11.8%、4-6月期同+43.4%と、20年4-6月期を底に回復に向かう見通しです(以上、リフィニティブ8月31日発表)。一方、日本のTOPIX採用企業の利益成長率は20年が前年比▲21.2%ですが、21年は同+34.5%、22年は同+12.9%と大幅な改善が予想されます(以上、Bloomberg集計。8月31日)。米国株式市場は、大規模な金融緩和の継続に加えハイテク分野への期待などが引き続き支えですが、今後は大統領選挙が大きな変動要因です。一方、日本株式市場も、新政権の政策運営に注目が集まる展開となりそうです。
6.為替
<現状>
円は対米ドルで一時107円台まで下落しましたが、月を通じてはほぼ横ばい、他通貨に対しては総じて下落しました。米ドル安に一服感がみられる一方、リスク選好の動きは続き、新型コロナ感染拡大が続くブラジルを除き、新興国の通貨や資源国通貨が上昇しました。また、欧州の堅調な経済指標を背景にユーロも上昇しました。円は対ユーロで下落しました。欧州でも一部では新型コロナの感染再拡大がみられましたが、7月に欧州連合(EU)で合意された7,500億ユーロの復興基金や各国の追加財政政策などから、景気の回復傾向は維持されるとの見方が広がりユーロは上昇しました。円は対豪ドルで下落しました。豪ドルは世界的な株価の上昇を受けたリスク選好の動きや商品価格の上昇を背景に上昇しました。
<見通し>
円の対米ドルレートは、金融市場の正常化が進む中で米ドルがピークアウトする方向とみられ、FRBのゼロ金利政策や量的緩和を反映して米ドルが緩やかに軟化するとみられます。但し、なお米国の金利水準が相対的に高いことや、財政刺激の景気サポートなどが期待されることから、米ドルの大崩れは起こりにくく、当面現行レンジでの推移を予想します。米中対立など政治の不透明感には注意が必要です。円の対ユーロレートは、感染再拡大への警戒感から一進一退となる可能性もありますが、緩やかなユーロの上昇が予想されます。復興基金の具体化は追加的なユーロ高要因と考えます。円の対豪ドルレートは、豪州での感染再拡大が深刻化しなければ、豪ドルの回復が緩やかに続くとみられます。商品市況の持ち直しなどを背景に豪ドルの見通しは改善しており、金利差からみれば安値圏にあることや経常収支の改善などは支援材料です。豪中関係には一定の注意が必要と考えます。
7.リート
<現状>
グローバルリート市場(米ドルベース)は、米国金利が小幅に上昇したことが重石となり、前月末比1.65%の上昇にとどまりました。円ベースの月間変化率では、米ドル安に一服感がみられ、円は一時107円台まで下落しましたが月を通じてはほぼ横ばいとなり、同1.95%の上昇となりました。
<見通し>
グローバルリート市場は上値の重い推移を想定します。主要国経済は回復基調にありますが、6月以降感染第2波が観測されたことなどから経済の回復スピードは緩やかになると予想されます。但し、感染再拡大には一応の歯止めがかかっており、ワクチン次第では回復期待が高まる可能性もあります。Eコマースの浸透を受けたファッションブランド企業の破綻や店舗閉鎖、都市部賃料の下落がみられるなど、世の中の構造変化が今後も顕在化していくと予想されます。リテールやホテルセクターなどは新型コロナ感染拡大や”ニューノーマル”の定着に悪影響を受けるとみられる一方、データセンターや、通信、物流施設セクターなどは安定的な業績を達成しており、サブセクター間でのバリュエーション格差は継続するとみられます。当面、低金利環境が継続するとみられるため、インカム商品へのニーズが再度注目されると予想されますが、景気回復期待の強まりやインフレは長期金利の上昇要因であり、リートには向かい風となるため注意が必要です。
8.まとめ
<債券>
米国の10年国債利回りは、引き続き低位での推移を予想します。年後半は経済成長が回復に向かうにつれ徐々にレンジは切り上がるとみられますが、大規模な緩和政策の下で長期金利の上昇幅は抑制される見通しです。社債はFRBの信用緩和策もあり国債との利回り格差は低水準で推移するとみられます。欧州の10年国債利回りは、各国経済活動の再開や財政拡大、復興基金の大筋合意などを背景に徐々に金利に上昇圧力がかかる展開を予想します。但し、スペインの感染再拡大などから経済の回復ペースは緩慢とみられ、大規模な金融緩和政策の下、金利上昇ペースは緩やかになる見通しです。日本では、感染第2波を受け経済の回復ペースが鈍化、景気に力強さがみられない中、日銀は緩和的スタンスを継続すると予想します。国債発⾏が増額されていますが、日銀の買入れが金利上昇を抑制し、国債利回りは低水準での推移が続くことが見込まれます。
<株式>
米国は、S&P500種指数採用企業の4-6月期の利益成長率は▲30.8%ですが、7-9月期は同▲22.9%、10-12月期は同▲14.7%、21年1-3月期は同+11.8%、4-6月期同+43.4%と、20年4-6月期を底に回復に向かう見通しです(以上、リフィニティブ8月31日発表)。一方、日本のTOPIX採用企業の利益成長率は20年が前年比▲21.2%ですが、21年は同+34.5%、22年は同+12.9%と大幅な改善が予想されます(以上、Bloomberg集計。8月31日)。米国株式市場は、大規模な金融緩和の継続に加えハイテク分野への期待などが引き続き支えですが、今後は大統領選挙が大きな変動要因です。一方、日本株式市場も、新政権の政策運営に注目が集まる展開となりそうです。
<為替>
円の対米ドルレートは、金融市場の正常化が進む中で米ドルがピークアウトする方向とみられ、FRBのゼロ金利政策や量的緩和を反映して米ドルが緩やかに軟化するとみられます。但し、なお米国の金利水準が相対的に高いことや、財政刺激の景気サポートなどが期待されることから、米ドルの大崩れは起こりにくく、当面現行レンジでの推移を予想します。米中対立など政治の不透明感には注意が必要です。円の対ユーロレートは、感染再拡大への警戒感から一進一退となる可能性もありますが、緩やかなユーロの上昇が予想されます。復興基金の具体化は追加的なユーロ高要因と考えます。円の対豪ドルレートは、豪州での感染再拡大が深刻化しなければ、豪ドルの回復が緩やかに続くとみられます。商品市況の持ち直しなどを背景に豪ドルの見通しは改善しており、金利差からみれば安値圏にあることや経常収支の改善などは支援材料です。豪中関係には一定の注意が必要と考えます。
<リート>
グローバルリート市場は上値の重い推移を想定します。主要国経済は回復基調にありますが、6月以降感染第2波が観測されたことなどから経済の回復スピードは緩やかになると予想されます。但し、感染再拡大には一応の歯止めがかかっており、ワクチン次第では回復期待が高まる可能性もあります。Eコマースの浸透を受けたファッションブランド企業の破綻や店舗閉鎖、都市部賃料の下落がみられるなど、世の中の構造変化が今後も顕在化していくと予想されます。リテールやホテルセクターなどは新型コロナ感染拡大や”ニューノーマル”の定着に悪影響を受けるとみられる一方、データセンターや、通信、物流施設セクターなどは安定的な業績を達成しており、サブセクター間でのバリュエーション格差は継続するとみられます。当面、低金利環境が継続するとみられるため、インカム商品へのニーズが再度注目されると予想されますが、景気回復期待の強まりやインフレは長期金利の上昇要因であり、リートには向かい風となるため注意が必要です。
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2020年8月のマーケットの振り返り』を参照)。
(2020年9月3日)