1.概観
【株式】
6月は、世界経済が最悪期を脱し先進国を中心に経済の回復傾向がみられ始めたことなどから株式市場が総じて底堅く推移し、株価は急落前の水準を7-8割取り戻しました。一方で、新興国の新型コロナ感染拡大が続いていることに加え、先進国でも経済活動再開に伴い感染再拡大の懸念が現実味を帯びてきたため、中旬以降は相場の勢いにかげりがみられました。インドでは感染拡大が続いているものの、株式市場はリスク選好の動きや外国人投資家の買い越しなどから出遅れ分を取り戻す形で大きく上昇しました。米欧の株式市場も積極的な政策対応と今後の景気回復や業績の改善を織り込み上昇しました。日本の株式市場も期待先行の相場上昇となり、日経平均株価は一時23,000円台まで上昇しました。
【債券】
主要先進国の国債利回りはまちまちの動きとなりました。欧米では経済再開の動きや経済指標が予想を上回ったことを受けて初旬は利回りが上昇したものの、その後は感染再拡大への懸念から上昇が抑制された格好となりました。日本では、今後の大規模経済対策のための国債増発が金利上昇圧力となり、利回りはやや上昇しました。一方、国債と社債の利回り格差は縮小しました。米連邦準備制度理事会(FRB)の個別企業の社債購入開始などが背景です。
【為替】
円は米ドル、ユーロなど他通貨に対し総じて下落しました。中旬は感染再拡大から円高となりましたが、初旬に進んだリスク選好による円安がまさりました。
【商品】
原油先物価格は、各国の経済再開の動きや7月末まで協調減産が延長されたことを好感し、一時1バレル40米ドル台まで上昇しました。
2.景気動向
<現状>
⽶国の2020年1-3⽉期実質GDP成⻑率は前期⽐年率▲5.0%となりました。消費や設備投資等が幅広く減速しました。
欧州(ユーロ圏)の2020年1-3⽉期の実質GDP成⻑率は、前期⽐年率▲13.6%となり、3⽉の都市封鎖の影響で⼤幅な落ち込みとなりました。
⽇本の2020年1-3⽉期の実質GDP成⻑率は、前期⽐年率▲2.2%となり、設備投資を主因に速報値から上⽅修正されましたが、雇⽤や所得環境が悪化し、輸出や⾮製造業とともに新型コロナによる影響の⼤きさが明らかとなりました。
中国の2020年1-3⽉期の実質GDP成⻑率は、前年同期⽐▲6.8%となりました。新型コロナの影響で製造業もサービス業もマイナス成⻑となりました。
豪州の2020年1-3⽉期の実質GDP成⻑率は、前年同期⽐+1.4%でした。都市封鎖のため前四半期⽐ではマイナス成⻑となりましたが、前年⽐ではプラス成⻑を維持しました。
<見通し>
⽶国は、雇⽤や消費の回復がみられ、今後は新型コロナ感染再拡⼤とのバランスをとりながらの経済再開が続くと予想されます。引き続き⼤規模な⾦融緩和と景気対策が継続される⾒通しです。追加の財政刺激策として新型コロナ対策第4弾が成⽴するとみられます。
欧州は、新型コロナ新規感染者数の増加率が低下し、主要国経済の回復とともに製造業や輸出が持ち直すと予想されますが、感染第2波のリスクが意識されるため消費を中⼼に回復ペースは緩やかになると予想されます。2021年にかけて財政拡張や⾦融緩和が下⽀えとなりそうです。
⽇本は、緊急事態宣⾔が解除され景気は最悪期を脱却すると⾒込まれますが、感染リスクへの警戒から経済活動の回復ペースは緩やかになると予想されます。第2次補正予算を含め、積極的な政府⽀出は雇⽤環境などの下⽀えとなりそうです。
中国は、感染再拡⼤を警戒しながらも移動制限解除と財政・⾦融政策の総動員によって、4-6⽉期以降は景気回復や雇⽤の安定化が期待されます。
豪州は、4⽉までの豪州全⼟での都市封鎖の影響を受け4-6⽉期は⼤幅なマイナス成⻑となる⾒通しです。最悪期は過ぎ、経済は正常化に向かっており⾦融市場も改善していることから、豪州準備銀⾏(RBA)による追加的⾦融政策実施の可能性は低くなることが予想されます。
3.金融政策
<現状>
米連邦準備制度理事会(FRB)は新型コロナ感染拡大を受け、3月以降、大規模な金融緩和政策を継続しています。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は総じてハト派で、2022年までゼロ⾦利が据え置かれることや、国債買取ペースの据え置きが発表されました。さらに、フォワードガイダンスについても準備が進められており、景気の状況を睨みつつ導⼊されることが⽰唆されました。
欧州中央銀行(ECB)も3月以降金融緩和策を継続しています。6月の理事会ではPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)について6,000億ユーロの増額と、市場予想(5,000億ユーロ)をやや上回る金融緩和が決定されました。
日銀は6月の金融政策決定会合で金融政策の据え置きを決定し、景気・物価判断も維持しました。また、政策変更の位置付けではないものの、企業等の資金繰り支援策について、「特別プログラム」の総枠の拡大(約75兆円→110兆円プラスアルファ)を発表しました。これは2020年度第2次補正予算に実質無利子・無担保融資拡充が盛り込まれたことを受け、日銀の資金供給対象が拡大したことを主に反映したとみられます。
<見通し>
FRBは2022年まで低金利を継続するとみられます。フォワードガイダンスについては経済指標ベースのものが予想されるため、次回四半期経済⾒通しに合わせて導⼊されることが見込まれます。
欧州でも当面ECBや英国中央銀行(BOE)は金融緩和を継続すると予想します。ただし、物価の下振れリスクに対応するために2020年12月以降にPEPPを再度、増額、延長する可能性が高いと思われます。
日本でも、金融市場調整と資産買い入れ措置を通じた大規模な金融緩和を継続すると思われます。先行きは、欧州、日本ともマイナス金利深堀りを見送り、資産買取拡大や貸し出し増加支援を中心に追加緩和を検討するとみられます。
4.債券
<現状>
米国の10年国債利回りは前月比ほぼ横ばいとなりました。経済再開の動きや経済指標が予想を上回ったことを受けて初旬は利回りが上昇したものの、その後は新型コロナ感染再拡大への懸念から上昇が抑制された格好となりました。国債と社債の利回り格差は縮小しました。FRBの個別企業の社債購入開始が背景です。ユーロ圏でも同様に初旬は利回りが上昇しましたが、その後はリスク回避の動きとなり利回りは低下しました。日本では、今後の大規模経済対策のための国債増発が金利上昇圧力となる中、日銀の国債購入で相殺されるとはいえ一時的な需給のゆるみが意識され、利回りが上昇しました。
<見通し>
米国では、市場の流動性回復に合わせてオペの規模は調整されますが、クレジット市場の安定維持や財政赤字拡大の下でも長期金利を低位に保つ必要などから、大枠としては大規模な量的緩和が維持されるとみられます。年後半は経済回復に伴い利回りは緩やかに水準を切り上げると見込まれますが、大規模緩和政策の下で長期金利の上昇幅は抑制される見通しです。社債はFRBの信用緩和策もあり国債との利回り格差は低水準で推移するとみられます。
欧州では、新型コロナの感染がより抑制されているため経済の再開が進みつつあります。財政赤字拡大も長期金利の上昇要因ですが、景気回復は緩やかで、物価も低水準で推移するとみられることからECBは大規模な金融緩和を続ける見通しです。長期金利の上昇は緩やかなものになると予想されます。
日本では、財政赤字急拡大により国債発行は増加しますが、日銀の国債買い入れによって金利上昇は抑制されるとみられます。追加緩和は利下げを見送り資金供給中心に強化するとみられ、物価目標達成が困難な中、国債利回りは低水準での推移が見込まれます。
5.企業業績と株式
<現状>
S&P500種指数の6月の1株当たり予想利益(EPS)は、前年同月比▲18.9%(前月同▲19.6%)の142.18と悪化が続きました。東証株価指数(TOPIX)の予想EPSも悪化が続きました。6月のEPSは93.68で、伸び率は同▲26.5%(前月同▲21.8%)でした(以上、Bloomberg集計)。米国株式市場は、国内での新型コロナ感染が徐々に拡大する中でも、好調なマクロ指標に加え、財政・金融政策に対する信頼から大きな値崩れには至らず、総じて堅調な展開が続きました。また、感染拡大はウィズコロナ関連のハイテク企業にとってはプラスの面もあり、ハイテク企業のウエイトの高いナスダック総合指数は史上最高値を更新しました。主要株価指数は、S&P500種指数が前月比+1.8%、NYダウが同+1.7%、ナスダック総合指数が同+6.0%でした。一方、日本株式市場は、上旬の経済活動の再開や米雇用統計の改善などから上昇しましたが、米国の新型コロナ感染者数の増加などが重石となり、上値が抑えられました。TOPIXが前月比▲0.3%、日経平均株価が同+1.9%でした。
<見通し>
米国は、S&P500種指数採用企業の4-6月期の利益成長率は▲43.2%ですが、7-9月期は同▲25.1%、10-12月期は同▲13.3%、21年1-3月期は同+11.6%と、4-6月期を底に徐々に回復に向かう見通しです(以上、リフィニティブ6月30日発表)。米国株式市場は、政府支出の拡大やFRBによる企業支援継続に対する期待と、経済活動の前向きな変化に自信を深めることで堅調さを維持すると考えられます。一方、日本のTOPIX採用企業の利益成長率は2020年が前年比▲17.9%ですが、21年は+32.2%と大幅な改善が予想されます(以上、Bloomberg集計。6月30日)。日本株式市場は、引き続き海外市場との連動性を維持するとみられますが、経済活動の再開・復活に期待する展開が続く見通しです。
6.為替
<現状>
円は対米ドルで前月に比べわずかに下落しました。初旬は米国の経済活動再開への動きや経済指標が予想を上回ったことを受けてリスク選好姿勢が強まり、円は一時109円台まで下落しました。しかし中旬以降は、米中での新型コロナ感染再拡大への懸念からリスク回避的な動きが強まり円高が進みました。
円は対ユーロでも下落しました。欧州での都市封鎖の段階的な解除が順調に進んでいることに加え、ECBの金融緩和策の強化やドイツ政府、欧州委員会が大規模な財政政策を示したことなどから、経済回復の期待が高まり、ユーロが上昇したことが背景です。
円は対豪ドルで下落しました。豪ドルは、主要先進国の経済活動再開への動きからリスク選好的な動きが強まったことを受けて上昇しました。
<見通し>
円の対米ドルレートは、米国の金利水準が日欧に比べ高いことや、新型コロナ問題を受けて対新興国通貨で米ドル高傾向にあることなどから、当面米ドルが堅調に推移するとみられます。先行き、リスク回避傾向が収まればFRBの大規模金融緩和を反映し米ドルは軟化するとみられます。リスク選好度に左右される展開ですが、大規模な財政刺激策が米景気を支えるため米ドルが大きく崩れる可能性は低いと考えます。
円の対ユーロレートは現行水準での推移が予想されます。ユーロ圏経済の年後半の回復力は緩やかでECBは緩和を強化する見通しです。ユーロはなお安値圏にあるため、復興基金に進展があればユーロは反発するとみられます。
円の対豪ドルレートは、豪ドルに上昇余地があるとみられます。中国経済の回復などを受けた商品市況の持ち直しにより豪ドルの見通しは改善しています。金利差からみれば豪ドルは安値圏にあることや経常収支の改善もあり、新型コロナの収束傾向が続けば回復の余地があります。一方で、豪中関係には注意が必要と考えます。
7.リート
<現状>
グローバルリート市場(米ドルベース)は、主要先進国の経済再開への動きなどからリスク選好的な動きが強まったことを受けて、前月末比1.22%上昇しました。各国の財政支援策や金融緩和策もサポート要因となりました。円ベースの月間変化率では、初旬はリスク選好的な動きから円安となりましたが、その後は米中での新型コロナ感染再拡大への懸念から円高となり、月を通しては円は対米ドルでわずかな下落にとどまったため、同1.22%の上昇となりました。
<見通し>
新型コロナ問題に大きく左右されている投資家心理が落ち着くにつれ、低金利環境が継続する中でインカム商品へのニーズが再着目されることが見込まれます。感染拡大は概ねピークアウトし都市封鎖が解除されつつあるものの、一部で感染者数が増加していることなどから景気見通しは未だ不透明です。このような環境下、セクター、サブセクター間での格差は継続するとみられます。リテールやホテル、オフィスセクター等は都市封鎖による悪影響を受けている一方、データセンターや通信、物流施設セクターなどは安定的な業績を達成しており、サブセクター内においても保有物件の競争力やリートのマネジメント力により二極化が進むとみられます。Jリート市場ではファンダメンタルズと金融市場の動きとのギャップが拡大しています。経済回復期待からホテルリートや商業施設リートも反発しましたが、未だインバウンド回復や消費拡大の見通しは立っていません。今後は、感染第2波への備えと新たな経済活動を両立させながら、拡大してきたギャップが調整される形で過度な楽観、悲観の巻き戻しや循環物色が起こる可能性が高いとみています。
8.まとめ
<債券>
米国では、市場の流動性回復に合わせてオペの規模は調整されますが、クレジット市場の安定維持や財政赤字拡大の下でも長期金利を低位に保つ必要などから、大枠としては大規模な量的緩和が維持されるとみられます。年後半は経済回復に伴い利回りは緩やかに水準を切り上げると見込まれますが、大規模緩和政策の下で長期金利の上昇幅は抑制される見通しです。社債はFRBの信用緩和策もあり国債との利回り格差は低水準で推移するとみられます。欧州では、新型コロナの感染がより抑制されているため経済の再開が進みつつあります。財政赤字拡大も長期金利の上昇要因ですが、景気回復は緩やかで、物価も低水準で推移するとみられることからECBは大規模な金融緩和を続ける見通しです。長期金利の上昇は緩やかなものになると予想されます。日本では、財政赤字急拡大により国債発行は増加しますが、日銀の国債買い入れによって金利上昇は抑制されるとみられます。追加緩和は利下げを見送り資金供給中心に強化するとみられ、物価目標達成が困難な中、国債利回りは低水準での推移が見込まれます。
<株式>
米国は、S&P500種指数採用企業の4-6月期の利益成長率は▲43.2%ですが、7-9月期は同▲25.1%、10-12月期は同▲13.3%、21年1-3月期は同+11.6%と、4-6月期を底に徐々に回復に向かう見通しです(以上、リフィニティブ6月30日発表)。米国株式市場は、政府支出の拡大やFRBによる企業支援継続に対する期待と、経済活動の前向きな変化に自信を深めることで堅調さを維持すると考えられます。一方、日本のTOPIX採用企業の利益成長率は2020年が前年比▲17.9%ですが、21年は+32.2%と大幅な改善が予想されます(以上、Bloomberg集計。6月30日)。日本株式市場は、引き続き海外市場との連動性を維持するとみられますが、経済活動の再開・復活に期待する展開が続く見通しです。
<為替>
円の対米ドルレートは、米国の金利水準が日欧に比べ高いことや、新型コロナ問題を受けて対新興国通貨で米ドル高傾向にあることなどから、当面米ドルが堅調に推移するとみられます。先行き、リスク回避傾向が収まればFRBの大規模金融緩和を反映し米ドルは軟化するとみられます。リスク選好度に左右される展開ですが、大規模な財政刺激策が米景気を支えるため米ドルが大きく崩れる可能性は低いと考えます。円の対ユーロレートは現行水準での推移が予想されます。ユーロ圏経済の年後半の回復力は緩やかでECBは緩和を強化する見通しです。ユーロはなお安値圏にあるため、復興基金に進展があればユーロは反発するとみられます。円の対豪ドルレートは、豪ドルに上昇余地があるとみられます。中国経済の回復などを受けた商品市況の持ち直しにより豪ドルの見通しは改善しています。金利差からみれば豪ドルは安値圏にあることや経常収支の改善もあり、新型コロナの収束傾向が続けば回復の余地があります。一方で、豪中関係には注意が必要と考えます。
<リート>
新型コロナ問題に大きく左右されている投資家心理が落ち着くにつれ、低金利環境が継続する中でインカム商品へのニーズが再着目されることが見込まれます。感染拡大は概ねピークアウトし都市封鎖が解除されつつあるものの、一部で感染者数が増加していることなどから景気見通しは未だ不透明です。このような環境下、セクター、サブセクター間での格差は継続するとみられます。リテールやホテル、オフィスセクターなどは都市封鎖による悪影響を受けている一方、データセンターや通信、物流施設セクターなどは安定的な業績を達成しており、サブセクター内においても保有物件の競争力やリートのマネジメント力により二極化が進むとみられます。Jリート市場ではファンダメンタルズと金融市場の動きとのギャップが拡大しています。経済回復期待からホテルリートや商業施設リートも反発しましたが、未だインバウンド回復や消費拡大の見通しは立っていません。今後は、感染第2波への備えと新たな経済活動を両立させながら、拡大してきたギャップが調整される形で過度な楽観、悲観の巻き戻しや循環物色が起こる可能性が高いとみています。
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2020年6月のマーケットの振り返り』を参照)。
(2020年7月6日)