後を絶たない「ステルスマーケティング」問題。昨年は『アナと雪の女王 2』の感想漫画がTwitterに7本ほぼ同時投稿され、ステマを疑う声がネット上に噴出、大炎上したことも記憶に新しい。広告宣伝やマーケティングに対する世間の印象は悪くなる一方だが、株式会社Macbee Planetの佐野敏哉氏は、書籍『解約新書 マーケッターに捧げる解約の真実と処方箋』(幻冬舎MC)にて、諸般の問題を指摘している。

ビヨンセ、1回インスタに投稿するだけで「70万ドル」

◆マーケティングがステマに汚染されている

 

いわゆる「ステマ」問題が2012年に起きました。芸能人たちがお金をもらって、実際には使ったことがない不正なオークションサイトを勧めていたことが分かり炎上しましたが、この事件は広告宣伝やマーケティングというものに対する世間の印象をかなり悪くしました。

 

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ステマはステルスマーケティングの略語で、ステルスとは「こっそり」といった意味合いの英語です。「宣伝と気づかれないようにする宣伝」と言ってもいいでしょう。感覚的には「やらせ」に近いかもしれません。

 

あのビヨンセがインスタグラムに1回投稿すると、70万ドルの収入があるといいます。モデル兼起業家のカイリー・ジェンナーは1回つぶやくと100万ドル、1億円以上の収入になるそうです。彼女たちはたくさんのフォロワーを持っているインフルエンサーなので、気に入ったものをアップしたり話題にすれば評判になります。

 

取り上げてもらった企業はお礼にお金を出し、もっと言ってくださいとお願いするというインフルエンサー・マーケティングは当たり前のように行われています。日本の「ステマ」事件と違って噓をついているわけではないのですが、この金額を聞くと信じていいものかという気もしてきます。

 

世の中には、知られていないけれども、ステマのようなものがたくさんあるようです。テレビのバラエティ番組が大手通販会社とつながっているとか、報道番組のコメンテーターがお金を受け取って宣伝に近い紹介をしている等々の話が漏れ聞こえてきます。当社にも、ある番組のコーナーに出てピーアールしませんかと声がかかりましたが、よく聞いてみるとタダではないのでお引き取り願ったことがあります。

 

口コミサイトの「食べログ」や「アットコスメ」に対しても、書き込みがやらせではないか、広告料を出している店が有利に扱われているのではないかと疑う声が少なくありません。実際の味や雰囲気、品質と評価点数とが一致しないという声はよく聞きます。感覚には個人差があるのである程度はしかたがないことかもしれませんが。

 

その中にあってアマゾンのカスタマーレビューは、実際に商品を買わないと書き込むことができず、またレビュアーをスコアリングして点数の高い人のレビューから順に出てくるなど、信用できる評価だけを掲載するように配慮しています。が、これもレビュアーを探し出して商品の購入と書き込みを依頼する動きがあり、信用しきってしまうわけにはいかないかもしれません。

 

いかに宣伝を宣伝っぽく見せないかという方向に進み、やらせが世の中に溢れています。そのためマーケティングがステマに汚染されてしまっているのが現状です。

「初回ディスカウント」をしたところで意味がない

◆広告業界もLTV(顧客生涯価値)を意識し始めた

 

通販業界も、初回だけディスカウントしてもリピーターにならないと気づいています。入り口でこんな売り方をしていて続くわけがない、ポイントサイトやステマのような人をつろうとする広告の世界からは抜け出したいというのが本音です。さまざまな広告やメディアでも、そんな意識の変化が見て取れます。

 

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ネット広告では、コンバージョン(獲得成果)という指標が重視されます。その広告を打ったことでどれだけの見返りが得られたかを示す数値で、分かりやすいコンバージョンは広告によってもたらされた販売数や売上額です。展示会の告知広告だと、集客やその場での問い合わせ、商談、成約の数などを広告のコンバージョンとすることもあります。ですから目的によってコンバージョンが変わってきます。

 

アフィリエイト広告では、例えばクレジットカード会社や信販会社のコンバージョンに対する要求水準が高くなっています。以前ならば、アフィリエイトサイトで広告を見た人から申し込みがあってカードを発行しただけでコンバージョンとして評価され、カード会社からは1件につきいくらという報酬がありました。

 

それが、カードを作った人が一定期間のうちにある金額以上利用した場合だけをコンバージョンとみなすという条件が付けられるようになりました。いくら入会者が増えても、カードで買い物やキャッシングをしてもらわなければ意味がないからです。カード会社は入り口での数を増やすよりも、LTV(顧客生涯価値)を高めることを重視することに切り換えたのです。これは合理的な考え方で、自然なことでもあると思います。

企業もユーザーを「使い捨て」にしてきたが…

◆「いかに売るか」のマーケティングだけでは済まなくなった

 

顧客との関係を続けようとしても、入り口で間違えるとすぐ離れていくことに気づいたカード会社は売り方を改めました。とにかくいったん入ってきてもらうという考え方では後が続かないことを理解したからです。つまり、マーケティングは入り口では終わらないということです。

 

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これまでのマーケティングは、新規を獲得することだけ考えてきたのではないでしょうか。消費者がモノを買っては使い捨てを繰り返してきたように、企業もユーザーを使い捨てにしてきたのです。そんな大量生産、大量消費的なマーケティングがずっと続いてきました。

 

しかし本連載ですでに見てきたように、ユーザーは「買う」よりも「使う」ことの方を重視し始めています。「消費者」が「利用者」に変化しているともいえるでしょう。新しい服を買って着なかったら捨てるのではなく、必要なときだけ借りて着る、ジュエリーもいろんなものを送ってもらって着けてみるというサブスクリプションサービスは、そんな変化を反映しています。

 

サブスクリプションではありませんが、ブランドバッグをラインで査定して買い取るビジネスもあります。家で眠っていたものが、リユースされることで価値を取り戻します。

 

サブスクリプションは、ユーザーがモノをリユースするように、カスタマーをリユースするところがビジネスモデルの特徴なのかもしれません。

 

 

 

佐野 敏哉

株式会社Macbee Planet エヴァンジェリスト