牛角のサブスクが「わずか2カ月弱」で終了したワケ
◆サブスクの失敗例から見えてくること
サブスクリプションの新しいビジネスが出てくる一方で、姿を消していくものも少なくありません。サブスクに慣れてきたユーザーは、値ごろ感やサービスの内容に対してシビアになってきます。特に飲食系は、身近なだけに損得がすぐに計算でき、受け入れられる料金設定で収益を確保するのは簡単ではありません。
有名な大手コーヒーチェーン店では、毎月定額でコーヒー飲み放題のサブスクリプションを検討していました。売れ筋の2種類限定で、ヘビーユーザーの囲い込みとライトユーザーに店に来てもらうようにするのが目的でした。さらにユーザーについての分析も考えていましたが、まだ実現していません。適切な収益構造がなかなか見えないのかもしれません。
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焼肉チェーンの牛角はわずか2カ月弱でサブスクリプションサービスを終了し、当初話題となっただけに定額食べ放題の難しさを印象づけました。料金は割安だったのですが、そのため利用客が増え過ぎてしまったのです。月額1万1000円で月3回以上行けば元が取れるというので店は大盛況でしたが、1万1000円を払ったのに店にも入れない人が出てきてしまいました。焼肉好きが月に何回も来ることを見通せなかったのかもしれません。
JR東日本グループは、駅ナカにある特定の種類の自動販売機で買えるドリンクを対象にしたサブスクを始めました。月額2480円、買えるのは1日1本までで、通勤通学で毎日駅に行って買えば元が取れるかもしれないという微妙な月額料金設定です。
実は圧倒的に収益性が高いのが、ファミリーレストランのドリンクバーです。これもメニュー限定のサブスクといえますが、ドリンク類の原価は非常に安いので、何杯お替わりしても店の負担にはなりません。割安感のあるドリンクバーで飲んでもらう機会を増やせば、それだけもうかるのです。
このようにもともと利益率が高くないと、飲食業のサブスクリプションはなかなかうまくいかないでしょう。
月額8600円でラーメンを1日1杯食べ放題、4000円で1カ月飲み放題、月額7980円で対象店舗のランチを毎日1食楽しめるなど、飲食の定額サービスはまだほかにもあります。その中から成功例が目立つようになれば、飲食業でもサブスクが一気に広がる可能性があります。
トヨタ、AOKI…大手企業もサブスクに苦しんでいる
◆ビジネスモデルの難しさに直面するサブスク
トヨタ自動車が大々的に宣伝を打った車のサブスクリプションサービス「KINTO」の1日の申し込みが平均6件と発表されて、あまりの少なさに驚いた人も多かったかもしれません。最も安い車種では月3万円台で借りられて(諸経費含む)、ガソリン代や駐車場代は自分持ちです。
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アメリカでもゼネラルモーターズがキャデラックの月額貸し出しビジネスを休止しており、車のサブスクはなかなか難しいようです。
衣料品ではAOKIがスーツを月7800円で借りられるサブスクリプション型レンタルを始めましたが、半年で撤退しました。シャツやネクタイとセットで貸し出して月1回まで交換が可能で、スーツを買わない若年層に着てもらおうという狙いでした。しかし実際のユーザーは40代が多く、十分な品揃えを用意するのにも苦労したようです。
衣類の場合は、何度か貸し出さないと減価償却ができないことがネックになります。特に女性のファッション衣料は流行があり、一時は借り手が増えて同じアイテムをたくさん用意しなければなりませんが、流行が終わると大量の不良在庫になってしまいます。そこで余った衣類をメルカリに出品して在庫処分している定額貸し出しの会社もあります。
このようにサブスクのビジネスモデルの確立は簡単ではなく、苦労しているところが多いようです。
月額制でアクセサリーを3種類送り、交換可能で気に入れば買うこともできるというサブスクビジネスがあります。モノが小さいので保管や発送が楽で、いいところに目を付けたと思います。
知育玩具のサブスク「トイサブ!」は、「日本サブスクリプションビジネス大賞」を受賞しました。子供が玩具で遊ぶ時期は限られているので、ずっと持ち続ける必要はありません。また知育玩具は流行りすたりがなく、常にユーザーがいるので不良在庫にはなりません。サブスクリプション向きの分野をうまく見つけたといえます。
「解約」を止めないとバケツの底に穴が開いたまま
ただ、どんなサブスクリプションビジネスも、ユーザーの離脱という宿命から逃れることはできません。しかも一般的に解約率は高く、事業を継続していく上で悩ましい問題となっています。
会員数が何十万人から何百万人という動画配信の大手各社では、どこもおしなべて毎月10万人から20万人程度がやめていくそうです。その分新規会員が入るのでなんとか会員数は現状維持か微増を保っていますが、常に十数万人が入ったりやめたりという状態が続いていて、純増数はせいぜい数百人から1000人ほどです。
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解約防止に力を入れなければ、いくら新規ユーザーを増やしても穴の開いたバケツに水を入れるようなものです。1000人の純増のために多額の広告料金を使い続けるのは非常に効率の悪い話です。
新規ユーザーがある程度まで増えれば、それ以上母数を大きくするのは難しくなります。しかもサブスクが世の中に浸透するとライバルも出てきて、そちらに流れていきます。だからこそ、今利用してくれている人たちを大事にしていき、解約希望者には継続してもらうように引き止める手段を講じる必要があるのです。
売上アップやコンバージョン(獲得成果)重視、新規加入増だけでなく、LTV(顧客生涯価値)を重視するという企業が今増えています。サブスクリプションは、ビジネスモデル上このLTVが重要な経営指標になります。
大量消費型社会が終えんを迎えつつあり、消費者行動は「所有」から「利用」へと変化し、大量販売のためのマスマーケティングから転換すべき時期に来ています。サブスクリプションビジネスを行う企業には、一人ひとりのユーザーと向き合うことで解約を防ぎ、もし解約されたとしても理由を真摯(しんし)に受け止め、分析してマーケティングやサービスの改善に活かすことが求められています。
佐野 敏哉
株式会社Macbee Planet エヴァンジェリスト