コロナ感染拡大の影響により外出自粛が続く今、「Amazon Prime Video(アマゾンプライム・ビデオ)」「Netflix(ネットフリックス)」をはじめとしたサブスクリプションを活用し、余りある時間に耐え忍ぶ人は多い。ほんの十数年前、ガラケー時代やスマホ黎明期には到底考えられなかった現象だ。株式会社Macbee Planetの佐野敏哉氏は、書籍『解約新書 マーケッターに捧げる解約の真実と処方箋』(幻冬舎MC)にて、当時の様相を振り返っている。

『全裸監督』シーズン2決定もサブスクならではのこと

サブスクリプションとは、定額料金を支払うことによって、サービスを利用したり、モノを買わずに利用したりすることをいいます。交通機関の通勤通学定期券、携帯電話やインターネットなど、以前から定額料金でサービスを提供するビジネスはありましたが、今ではその種類も増え、成長著しいビジネスモデルとして注目されています。

 

◆動画や音楽を中心に成長する日本のサブスクリプション市場

 

アメリカでは2011年に5700万ドル(約63億円)だったサブスクリプションマーケットが、5年後の2016年には26億ドル(約2860億円)へと急成長しました。

 

一方、日本のサブスクリプションの市場規模は、矢野経済研究所によると、2019年度の時点で6835億2900万円であり、2023年度には1兆円になると予測されています。アメリカの統計数値に対して大き過ぎるようですが、こうした調査は集計の範囲や方法で数字が変わってくるので単純に比較はできません。それはともかく、日本のサブスクリプションは、1兆円を超える超巨大ビジネスへと発展しつつある市場といえるでしょう。

 

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なかでも多くの会員を集めているのがネット経由の動画配信オンデマンドサービスで、映画やドラマなどが見放題のサービスとして「Amazon Prime Video(アマゾンプライム・ビデオ)」「Netflix(ネットフリックス)」「FOD(フジテレビオンデマンド)」「Hulu(フールー)」「U‐NEXT(ユーネクスト)」などが知られています。

 

ほかにもアニメファン向けの「バンダイチャンネル」やスポーツ専門チャンネルの「DAZN(ダゾーン)」、テレビ番組無料配信(広告モデル)の「TVer(ティーバー)」などがあります。

 

ネットフリックスでは『全裸監督』というオリジナルドラマが人気作品となり、配信が始まって2週間目に早くもシーズン2の制作が発表されました。視聴者とサービス提供者が直接つながり、要望や反響がすぐに反映できるサブスクリプションならではの迅速な対応です。

 

定額制の音楽配信では「Apple Music(アップルミュージック」やアマゾンの「Prime Music(プライムミュージック)」「Spotify(スポティファイ)」などが若者を中心に広く利用されています。

サブスクの先駆者「アドビ」なぜ世界的に成功したのか

◆クラウドでサブスクリプションの成功モデルをつくったアドビ

 

アドビの「Adobe Creative Cloud(アドビ クリエイティブ クラウド)」は、B2C(企業による個人顧客向け)のサブスクリプション成功モデルとして高く評価されました。

 

それまでは、ソフトウェアはパッケージ販売されており、ユーザーはバージョンアップするたびに買い換えなければならず、最新のソフトを使用するユーザーと以前のバージョンを使い続けるユーザーが混在していました。しかし、アドビのサブスクリプションサービスを利用することで、ユーザーはクラウド経由でバージョンアップができるため、常に最新版が使えるようになりました。

 

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ユーザーにメリットがある一方で、アドビには世界中のユーザーがどのようにソフトウェアを使っているかというデータが集まります。こうして蓄積したデータを分析し、活用することでAIを構築したアドビは新たなビジネスを展開しています。

 

アドビというと、Photoshop(フォトショップ)やIllustrator(イラストレーター)といったデザインソフト、Acrobat Reader(アクロバット リーダー)などのPDF関連のソフト、Adobe Fonts(アドビ フォント)という書体のライブラリーなどが思い浮かびますが、その強みはデジタル技術を駆使したマーケティング力にあります。

 

「Adobe Creative Cloud」をリリースするにあたっては、パッケージで販売してきた製品をサブスク化したときにどうすれば受け入れられるかを解析ツール「Adobe Marketing Cloud(アドビ マーケティング クラウド)」を使って徹底的に分析しました。

 

例えば、ネット広告のバナー一つにしても、文言の内容、文字の書体や色、背景色やデザインについて、それぞれ複数のパターンを用意し、それらを組み合わせた大量のバナー見本を自動作成します。そのなかからクリックされやすいパターンを、ABテストや多変量テストといった手法で選び出し、それをさらに改善してはまたテストするという作業を繰り返していきました。

 

アドビがサブスクで成功できたのはキラーコンテンツ(特定の分野で影響力のある商品)を持っているという強みがあったからだと説明されることも多いのですが、それだけではなく、大量のデータ分析と数えきれないテストの上に築かれたものだと思います。サブスクにおけるデジタルマーケティングの重要性を証明した事例であることは間違いありません。

 

私もアドビがサブスクリプションビジネスを拡大していった時期に、日本法人のアドビ システムズに在籍し、分析や解析がいかにビジネスを大きく成長させるかを、身をもって学びました。

YouTubeの流行…動画配信の環境は10年間で大進化

ここで少し私の過去の話をします。動画サービスが定額配信に切り替わっていくタイミングに、私は動画配信のプラットフォームを提供するブライトコーブにいました。サブスクリプションに関わる多くの業務を経験し、転換期に内側にいたからこそ見られたエピソードをいくつか紹介したいと思います。

 

ブライトコーブの動画配信プラットフォームは、CDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)という技術に基づくインフラを利用しています。優れたインターフェースやデバイスに依存しない動画プレイヤーを提供できるのが特長で、日本でも多くのテレビ局やインターネットメディア、大手企業などの動画配信サービスなどに幅広く使われています。

 

動画を多くの相手に同時配信すると、コンテンツを収納しているサーバに負担がかかり、再生が途切れたりします。こうした障害をなくすため、地域ごとに置いたエッジサーバに動画コンテンツを置いて配信します。動画を見たいという依頼があると、その人が住んでいるところや今いる場所の近くのエッジサーバに配信するように知らせています。自前でこうしたネットワークを持って配信サービスをしているところもあれば、ブライトコーブのような会社からプラットフォームを借りる業者もあります。

 

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私が入社したのは2008年で、サブスクリプションの先駆けになる動画配信サービスのサポートを担当しました。日本でもYouTube(ユーチューブ)が流行し始め、業界では動画配信はそれまでの文字や画像とは違った形でコンテンツやメッセージを伝えることができ、サイトの滞在時間を上げられるという、最先端のマーケティングツールとして需要がありました。

浜崎あゆみのライブ配信の失敗…懐かしの「パケ死」が

当時はまだジャニーズ事務所が、所属タレントをユーチューブに出すのを禁止していたので、テレビCMなどでSMAPや嵐、V6などが出演すると、その会社を回り、ブライトコーブを利用して配信してもらう営業もしていました。またその一方で放送局に、海外ではすでに始まっていた見逃し配信(海外ではキャッチアップサービス)を導入することも勧めていました。

 

2009年に浜崎あゆみがインターネットでのライブ配信を行うことになり、それに先駆けて大々的に広告を打ちました。ところが、チケットは即時完売だったにもかかわらず、インターネット経由で見た人はかなり少なかったのです。これには当時の通信環境が大きく関わっています。

 

初代iPadが発売されたのが2010年でしたので、浜崎あゆみがライブ配信を行った2009年はパソコン以外の視聴手段としてはiPhoneなどのスマートフォンが挙げられます。

 

しかし、スマートフォンで動画を見ることはできましたが、3Gの電話回線を使うのですぐに通信料金が何千円にもなってしまうのがネックでした。当時も一部の人は自宅でWi‐Fi(無線LAN)を使っていましたが、公衆Wi‐Fiはありませんでした。そのため通信料を使い過ぎてしまう、いわゆる「パケ死」が珍しくありませんでした。

 

通信料金だけでなく、CDNの利用コストもかなりかかりました。視聴者が映画を1本見ると配信会社はブライトコーブのようなCDNのインフラを利用する会社に300円近くを払っていました。今ではそれも1000分の1以下に下がり、サブスクリプションでの動画配信がしやすい環境になっています。

 

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2010年ごろは、動画コンテンツ自体も不足していました。配信会社はとにかく数を集めようと質のよくない昔のドラマや著作権フリーのコンテンツを流していたのです。現在はどこの大手配信サービスもコンテンツは質・量ともに充実し、オリジナルコンテンツの制作にも力を入れています。

 

そのほかにも、台詞で見たい場面を検索できたり、雑誌も読めたりと、さまざまな付加価値で競争しています。こうして振り返ってみると、2010年から2020年までの10年間で動画配信の環境はめざましく発展し、内容も充実してきたと改めて感じます。

 

 

ガラケー、まだ持っていますか
ガラケー時代のあるある「パケ死」はスマホ黎明期にも…

 

 

佐野 敏哉

株式会社Macbee Planet エヴァンジェリスト