コロナ禍、中国当局が舵を切った「復工復産」の進捗と問題

長期にわたり世界経済を牽引してきた中国経済に、新型コロナウイルスはいかなる影響を及ぼすか。成長率減速の程度とそれに対する中国当局の対応が当面の焦点である。新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた1月から、直近5月の全国人民代表大会(全人代)に至る政策の動きをフォローし、4回に分けてリポートする。本稿は2020年5月25日脱稿。なお、筆者の個人的分析・見解である。

指導部の関心は「雇用問題」「成長率」

中国国家統計局(NBS)が4月に発表した2020年第一四半期(Q1)実質成長率(前年同期比)は▼6.8%(内外の事前予測▼6.5%〜▼10%以上のほぼ上限)、文革最終年1976年以来のマイナス成長となった(図表1)。

 

3月はなお生産が完全再開に至っていなかったにもかかわらず、工業生産伸びが1〜2月▼13.5%から3月▼1.1%、都市部調査失業率(注1)が2月6.2%から3月5.9%に改善したのはおかしいなど、統計全体に疑念を呈する向きもある(海外華字各誌)。

 

(注1)従来の登記失業率に加え、サンプル調査に基づく調査失業率を2018年から正式発表。より実態を示す指標として重視されている。Q1の都市部登記失業率は3.66%。

 

国外での感染拡大の影響や中国当局の政策対応から見て、今後の景気がV字型(急回復)、U字型(回復までに一定の時間がかかる)、L字型(停滞が続く)のいずれを辿るか、見方は大きく分かれるが、通年成長率がマイナスに陥るとの予測も出ている。

 

(注)前年同期比。目標は各年政府工作(活動)報告で設定された年目標値。 (出所)中国国家統計局、各年政府工作報告より作成
[図表1]成長率目標と実績 (注)前年同期比。目標は各年政府工作(活動)報告で設定された年目標値。
(出所)中国国家統計局、各年政府工作報告より作成

 

こうした中、識者の間で通年成長率目標について、「2〜3%が現実的」「政策が縛られ、ばらまき(大水漫灌)を余儀なくされることになるので、設定すべきでない」(貨幣政策委員会委員)、「地方政府や投資家に政策シグナルを送る観点から、4%最低目標を提示すべき」(元NBS局長)など意見が交錯した。

20年の実質GDP伸びは「2〜4%程度」を想定か

通常、年度成長率目標は3月初の全人代で決定される。20年は新型コロナの影響で延期されていたが、5月22日から開催された。李克強首相が行った20年政府活動報告(以下、「全人代報告」)では結局、「世界全体の感染状況、経済・貿易面での不確実性が大きく、中国経済は予測し難い影響要因に直面している」として、数値目標は設定されなかった。

 

これについて、習主席は内蒙古自治区代表団との会議で、「通常であれば6%前後の目標が設定できた」「数値を設定しなかったのは実事求是(事実に基づき真理を追究)に基づいたもの。数値目標は過度な刺激策に変わり、成長率重視に偏る。GDP英雄論は一貫して採っていない」と述べている。

 

ただし、全人代報告は「財政赤字額を前年比1兆元増加させる」としていることから、20年財政赤字額は前年実績2.76兆元プラス1兆元で3.76兆元。また、全人代報告は財政赤字率(対名目GDP比)を「3.6%以上」ともしていることから、20年名目GDPとして最大約104.45兆元を見込んでいることになり、これを19年名目GDP実績99.09兆元で除すと、名目GDP伸びは最大5.4%となる。

 

全人代報告では20年消費者物価指数(CPI)伸び率が「3.5%以内」と見込まれているが、工業生産出荷価格(PPI)伸びが現状CPI伸びよりかなり低く推移していることを勘案すると、20年実質GDP伸びは2〜4%程度が想定されていると推測される。

全人代報告、雇用安定を最優先課題に

成長率の大幅減速は雇用問題を招く。中国当局は1990年代後半、朱鎔基国企改革が大量の失業者を出し社会が不安定化した記憶から、雇用問題には神経質だ。Q1に46万社が倒産・閉鎖、うち57%は設立3年未満の企業、他方で新規設立は320万社、前年同期比29%減だった(中国のデータ会社天眼査)。倒産企業の大半は様々な非正規借入に依存している中小零細企業で、そうした借入が困難になったことが大きい。

 

5%近辺の狭いレンジでしか動かなかった調査失業率は2〜4月、5.9〜6.2%にまで上昇したが、①工場閉鎖で一時的に失職した農民工(注2)、②外出禁止で出勤できなくなった者、③賃金は支払われないが、雇用は維持されている者(かつての下岗〈シアガン〉)といった摩擦的失業が十分反映されておらず、実態はもっと悪い可能性が高い(注3)

 

(注2)NBSは2月「農民工就業状況の安定性が低下」、4月のQ1実績発表の際「2月末時点、都市部で就業する農民工は1.225億人」としている(5000万人減、前年比約30%減に相当)。

 

(注3)都市部で失職し農村に戻った農民工(5000万人)を農村で就業していると見なして失業者に含めないと、公表調査失業率6%程度になるが、これを含めると失業率は20.5%(中泰証券推計、4月26日付中国経済誌界面)。

 

2020年の新規雇用創出は例年より600万減少(1〜4月実績は前年同期比105万人減の354万人創出)、既存の雇用機会が1400万喪失し、合わせて雇用機会は2000万減少するとの予測がある一方、900万人に及ぶ過去最高の新規大卒者が労働市場に参入する。ウェイボー(微博)上で「卒業は失業」との声が出回っているように、雇用への追加圧力になる。

 

Q1の都市部新規求人数は229万人、前年同期比29%減だった(人社部)。全人代報告は年間新規雇用創出目標を17〜19年の年間目標1100万人から900万人へと引き下げ、都市部調査失業率目標も19年5.5%から6%前後へと緩める一方、「雇用優先政策を全面的に強化し、財政、金融、投資等に関する政策は雇用安定を支えることに注力する必要がある」と、雇用安定が最優先課題との姿勢を鮮明にした。報告中で最も多く使われた用語は「雇用(就業)」で、39回に及んだ。

中国当局、習主席の武漢視察前から経済に軸足

習主席の3月10日武漢視察は、それまで感染を恐れて武漢訪問を避けていたので、何よりも感染拡大が収束しつつあるとの認識を中国当局が持ったことを示すものとの憶測が流れた(海外華字各誌)。中国当局は経済活動を制限して感染を抑える必要と、経済減速を回避するというジレンマを抱える中、習視察前から、経済に軸足を移し始めた。2月下旬〜4月上旬の党政治局常務委の言いぶりが以下のように変遷した(会議内容は新華社・CCTV報道による、以下同じ)。

 

①総合情勢判断が「積極的感染防止体制構築」→「良好な防止体制が持続」→「防止措置が段階的に重要な成果、経済社会の秩序回復が加速」→「操業・生産再開(復工復産)政策を強化」。

 

②武漢の情勢は「複雑で厳しい(厳峻)」→「任務は困難で重い(艰巨繁重)」→「湖北住民の外出就業と省外の湖北人の帰省を秩序立てて進める」→「武漢封鎖解除は全面復工復産の積極的シグナル」。

 

③国外の感染拡大の逆輸入、世界貿易や産業チェーンへの懸念の強まり。

 

その後、5月中旬までの党政治局会議・常務委では「外防輸入、内防反弾」、つまり海外からの感染逆輸入と国内での再燃防止を強調、「経済は未曾有の挑戦に直面」など、再び引締めを図るトーンを打ち出し、全人代報告でも、世界経済について「深刻な衰退」、中国経済については「直面しているリスク、挑戦は未曾有」と、全人代の報告としては異例の強い表現が用いられた。

復工復産の進捗と問題点

3月以降、当局の復工復産のかけ声に合わせ、地元各誌も関連記事を掲載、「時機を失することなく復工復産の起動キー(启動鍵)、早送りキー(快進鍵)を押せ」と強調し始めた。

 

企業活動を所管する工業情報化部(工信部)等によると、2月末、製造500大企業の97%が復工復産、国企が私企業より回復が速く、農民工への依存度が高く労働集約的な省ほど遅かった。

 

3月末、中小企業復工76.8%、サービス業の営業再開は3月中旬60%からようやく90%を超え、外資企業で7割以上の生産回復になったところが67%(4月中旬72.8%)。工信部は5月下旬、中小企業の復工率が91%となったが、全体平均よりは低いこと、生活関連サービス業の復工率は生産関連サービス業より低く、最も低いのはホテル・レストラン関係で87%と発表している。

 

地方監察局(地方政府の一部局だが、地方政府が企業活動を支援しているか、不当な要求をしていないかをチェックする機能も持つ)幹部が外資を訪れ、生産再開状況などの聞き取りも行う動きもみられている。武漢では4月中旬、ようやく大企業が97%復工、小企業の復工はなお3分の1に止まる。業種や形態、復工と復産、地域でまだら模様だ。

 

工信部は、①人流と物流の断絶(堵点)、②産業チェーンの中で回復に違い(川上は速いが、加工、組立、配送などの労働集約的な川下は遅い)、③零細企業の現金フローが断絶(断点)、④国外での感染拡大で国際的なヒト・モノ・資金の移動、サプライチェーンが不安定化、といった問題を指摘している。「復工復産」を受け、1〜2月▼13.5%、3月▼1.1%と前年同期比マイナスが続いていた工業生産は4月3.9%増へとプラスに転じている。

 

(注)イラストの下部に書かれた内容は左から「工場労働者が戻れない」「資金が続かない」「原料が届かない」「製品を出荷できない」。 (出所)3月26日付人民網「为复工复产打通〝堵点″补上〝断点″(復工復産のため、堵点を開通、断点を補充)」
(注)イラストの下部に書かれた内容は左から「工場労働者が戻れない」「資金が続かない」「原料が届かない」「製品を出荷できない」。
(出所)3月26日付人民網「为复工复产打通〝堵点″补上〝断点″(復工復産のため、堵点を開通、断点を補充)」

 

 

金森俊樹

日本ウェルス独立取締役

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) 独立取締役

1976年、大蔵省入省。1990年、アジア開発銀行理事代理、2000年、香港理工大学中国商業センター客員研究員。2003年、アジア開発銀行研究所総務部長、2006年以降、財務省神戸税関長、財務省財務総合政策研究所次長、財務省大臣官房政策評価審議官、2010年から大和総研常務理事等の要職を歴任。 2015年、NWB(日本ウェルス)の独立取締役に就任。一橋大学卒。香港中文大学普通話課程修了。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

著者紹介

連載新型コロナウイルスと中国経済

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