コロナが今後、M&A市場にも影響する可能性
2020年第1四半期(1~3月期)のM&A(合併・買収)件数は前年同期比10件増の232件となり、2年連続で増加した。2009年(252件)以来、11年ぶりの高い水準に達した。
日本銀行による金融緩和などがM&A市場の活況を後押ししたが、「新型コロナウイルスの感染が拡大する以前に売買する約束ができた案件も多く、M&Aの発表には遅効性がある」(松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリスト)との指摘もある。コロナ問題を受けたマクロ経済や企業業績の悪化などが今後、M&A市場にも影響する可能性もありそうだ。
上場企業に義務づけられた適時開示情報をもとに、経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)をストライク(M&A Online)が集計した。2020年1~3月期のM&A金額上位は以下の通り。
●1位●
三菱商事、中部電力と共同で、オランダの総合エネルギー企業エネコを買収(5,000億円)
●2位●
前田建設工業、前田道路をTOBで子会社化(861億円)
●3位●
総合メディカルホールディングス、投資会社ポラリスと組みMBOで非公開化(763億円)
●4位●
米投資ファンドのベインキャピタル、昭和飛行機工業をTOBで子会社化(694億円)
●5位●
大王製紙と丸紅、ブラジルの衛生用品メーカー大手Santher(サンパウロ)を買収
●6位●
ノーリツ鋼機、DJ・クラブ機器大手のAlphaTheta(旧パイオニアDJ、横浜市)を子会社化(350億円)
●7位●
豆蔵ホールディングス、国内投資ファンドのインテグラルと組みMBOで非公開化(344億円)
●8位●
オーデリック、MBOを受け入れて非公開化(306億円)
●9位●
グローリー、セルフ注文・決済機器大手の仏アクレレック・グループを子会社化(242億円)
●10位●
国内投資ファンドのMETA Capital、澤田ホールディングスをTOBで子会社化(208億円)
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M&A取引金額も前年同期の1.5倍に膨らんだ
1~3月期はM&Aの取引金額も膨らんだ。取引額は1兆1,156億円(公表分のみを集計)で、前年同期の7,279億円を5割強上回った。
5,000億円規模に達する三菱商事・中部電力の大型案件が全体を押し上げた。両社は3月、欧州で電力・ガスなど総合エネルギー事業を展開するオランダのエネコを買収した。欧州で普及する風力発電など小型分散電源の技術・ノウハウを取り込むのが狙いで、三菱商事80%、中部電力20%出資の新会社が全株式を取得した。
今回目立ったのは国内案件だ。上位10件中、7件がライクインした。6件をTOB(株式公開買い付け)関連が占めた。このうち総合メディカルホールディングス、豆蔵ホールディングス、オーデリックの3件はMBOと呼ばれる経営陣が参加する買収だった。前田建設工業が前田道路の子会社化(保有割合51%)を目的に実施したTOB(3月に成立)は、グループ企業の関係にもかかわらず、今年第1号の敵対的買収に発展した。
不況期のM&Aのほうが「利回りはプラス」との見方も
市場関係者の間では、「コロナ問題が世界経済や株式相場を低迷させ、M&A市場にも悪影響を及ぼす」と懸念する向きもある。抗ウイルス薬やワクチンの開発には1年以上はかかるとの見方が多いためだ。
仮に治療に有効な新薬ができても量産に時間がかかるだけに、実体経済への悪影響は避けられない。「日米での感染拡大が加速するようなら、株式相場も二番底をつける」との懸念もくすぶっている。M&A戦略を中核に日本電産を急成長させた永守重信会長が大手紙のインタビューで、「今はキャッシュ・イズ・キング(現金は王様)。先が見えるまで安易な投資はしない方がいい」との見方を示したことも注目を集めた。
もっとも民間コンサルティング会社によると、景気後退期のM&Aは好況期のM&Aに比べ、中期的に大きな株主総利回りをあげているとの調査もある。
松井証券の窪田氏は「不況期は売却額も下がることが多いだけに、買い手にとってはむしろ中期的な収益性を高めるチャンスでもある」と話す。
大和証券の石黒英之シニアストラテジストも「コロナ問題を受けて収益力の弱い企業があぶりだされ、中期的には企業再編や事業承継に関連するM&Aの需要が増えていくのではないか」と分析している。
日高 広太郎
株式会社ストライク 執行役員 広報部長