「人生100年時代」という考え方が一般化してきた昨今。老後2000万円問題も追い風となり、資産形成の方法に不安を抱く人も多い。収入アップのための「起業」や「副業」が注目されてはいるものの、リスクを恐れ、なかなか一歩を踏み出せないのが現状だ。しかし、株式会社GEAR代表取締役・有薗隼人氏は、書籍『働きながら小さく始めて大きく稼ぐ 0円起業』(クロスメディア・パブリッシング)にて、0円からでも起業できること、そして副業を持つ重要性を説いている。本記事のキーワードは「地域格差」。同氏が、ビジネスにおける「格差の利用法」について解説する。

情報化が進んだからこそ「地方」という選択肢を選べる

◆地域の格差が武器になる

 

前回の記事『今でも新聞を読むことで「情報格差」をつけられるワケ』では、ビジネスシーンにおいて、「情報格差」「経済格差」をどのように活用すればいいのかを解説しました。そして本連載第4回目のテーマは、「地域格差」です。

 

基本的に資本主義社会では、大都市に人や資本が集中し、都会と田舎で、平均賃金など、さまざまな格差が生じます。実際、ビジネスにおいても、東京や大阪、福岡といった大都市のほうが有利なことはたくさんあります。ただし、地方、田舎だから有利なことも、同じようにたくさんあります。特に大きいのは地代家賃です。

 

店舗ビジネスなら、大都市は家賃が高いけど、その分、潜在顧客が多い、といった、ある程度トレードオフになっている部分もありますが、どんな場所でもできるビジネスなら、固定費を圧縮できるのは圧倒的に有利です。

 

特にネットビジネスなら、よほど規模が大きくならない限りは自宅でできる場合がほとんどです。得られる収入が同じで、東京や大阪の人よりも支払う家賃が少ない人は、その差額分儲かるわけです。

 

地価が低いという格差も、裏を返せば利点になります。成功して、在庫などが必要な新規事業を始めることになり、オフィスや倉庫を借りることになっても、物件探しも簡単ですし、契約金などの初期費用もかなり抑えられます。

 

特に、広めの物件が必要な場合、大都市だとかなりの出費が想定される上に、そもそも見つけるのに苦労する可能性もあります。そして、大都市にはなく、地方都市や田舎にしかない、ビジネスの目玉にできる武器があることもたくさんあります。

 

私がアフィリエイトサイトをつくったとき、最初に扱った商材はカニでした。足が折れていたりして、味はまったく問題ないのに小売店などには出荷できないカニを、その分割安で通販する業者が色々とあります。当然ながら、カニの水揚げがある漁港や、その近くでないとできないビジネスです。

 

他にも、特色のある地域ビジネスはたくさんあります。

 

徳島県上勝町の「株式会社いろどり」は、日本料理の「つまもの」に使われる葉っぱの販売支援で知られています。また上勝町は、葉っぱビジネスをきっかけに、さまざまな先進的取組に挑戦しており、2020年までにゴミをゼロにする目標を掲げた「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表、2016年時点でリサイクル率81%を達成し、国内外の注目を集める自治体でもあります。

 

徳島県はテレビの地デジ移行の際に、それまでアナログ電波では見られた大阪のテレビ局の番組が視聴困難になったことをきっかけに、普及の遅れていたケーブルテレビ網を県内全域に敷設し、その結果、山奥でも高速ワイファイが飛ぶブロードバンド強国となっています。

 

その条件を活かして、ネットはサクサクで家賃は安く、美しい自然の中で働けるサテライトオフィスの誘致に力を入れており、神山町の事例は特に知られています。

 

ネットビジネスなら田舎でも問題ない?
ネットビジネスなら田舎でも問題ない?

田舎には「田舎にしかない」長所がある

こう書くと、カニの漁港や徳島の上勝町などは、大都市とは違う意味での資源に恵まれている、と感じられる方もいるかもしれませんが、一見特筆すべきものがないように思える地域でも、視点を変えれば必ず武器は見つかると思います。

 

和歌山県で古民家を活用したゲストハウスなどを運営する「古都里」の豊原弘恵さんは、お父様の出身地である和歌山について、このように話されています。

 

父が和歌山出身です。ですから小さい頃から盆・正月には訪れていました。でも当時からすごく寂れていて、子どもながらに「和歌山はもう発展しそうもないな」と思っていたんです。ところが、2008年のリーマンショックで日本経済が一気に落ち込んだとき、見方がガラリと変わりました。そんなときでも、和歌山は何ひとつ変わらなかったからです。

 

(中略)

 

たとえば、和歌山には100年以上も続いている老舗の鰹節屋さんがありますが、本当に鰹節しか売ってないんです。それが100年も続いてきたことのすごさに、日本が不況に包まれたとき、改めて衝撃を覚えて。それまで「発展しない」ということをネガティブにしか捉えていませんでしたが、「長く変わらない」=「長く続く」と捉えれば、ものすごくプラスの価値がある。ずっと発展しないように見えているけれど、災害が起きても大恐慌が起きても生き残る何らかの強さがあるんじゃないかと、思うようになったんです。

 

(「「何もない」こそグローバル!和歌山のゲストハウスが変える集客常識」(ダイヤモンド・オンライン)より引用 https://diamond.jp/articles/-/202670)

 

本質的には、何もない地域なんて存在し得ないのではないでしょうか。何もないように見えるのは、そう見えてしまうだけで、情報をたくさんインプットすることで、真の価値が理解できるようになる。また、視点を変えることで、マイナスの部分は確かにあるものでも、プラスに転化できることがあったり、自分にとってはマイナスの要素でも、プラスに感じられる人がいたりするケースもあると思います。

 

大都会には大都会にしかない長所がたくさんあって、田舎には田舎にしかない長所があります。大都市でもないけど、田舎でもない地方都市もたくさんありますが、不便は嫌いだけど、大都市は騒がしすぎて苦手な人だっている。どんな場所に住んでいても、そこだからこそできるビジネスはあるはずです。

 

それに、仮に日本の平均中の平均、と言える街に住んでいる人でも、視点を世界に転ずれば、自分の住む場所も一気に特殊な場所になります。英語などの外国語を身につければ、今はスカイプなどで在宅日本語教師もできる時代です。

 

また、そもそも長所を無理に探そうとする必要もないのです。この記事の主題はあくまでも「格差」。短所だって、見方を変えればビジネスの勘所になります。

 

都会に住んでいるなら、大都市のショップ限定のグッズなどの購入代行を地方在住者から受け付けることができますし、地元に全国的に人気のある、限定販路のグッズなどがあれば、逆の立場でも成立します。

 

田舎に住んでいるなら、都会の人が手にできない新鮮な農作物など、自分は見飽きていて短所に思えるけど、外の人から見たら価値がつくものが何かしらあるはずです。

 

ちなみに、売れているかは微妙ですが、メルカリでセミの抜け殻を売っている人をたまたま見かけました。宿題代行のサービスは有名ですが、田舎だから提供できる、自由研究用の材料を売る発想のビジネスで、何かできることがあるかもしれません。

 

地域格差を活用するには、それなりの知識が必要です。井の中の蛙でいては、格差そのものに気づかなかったり、ビジネスに結びつける発想が浮かばなかったりします。

 

徳島県の事例のような、地元のストロングポイントを活かすビジネスにおいても同様で、その井戸の中に魅力を感じる人が、外の大海にたくさんいたとしても、自分の目が曇っていてはその存在に気づけません。

 

前回、経済格差が気になる方は、まず自らの成功を目指すべきだと書きましたが、これは地域格差についても言えることかもしれません。純粋に格差と言える部分を利用するにせよ、それをビジネスの武器とする成功例が増えれば、見方を変えるとプラスに転化できるマイナスがあることを周知できれば、それは「格差」ではなく、単なる「違い」と受け取られるかもしれません。

 

徳島県上勝町の「株式会社いろどり」は、自社でつまもの用の葉っぱを栽培・収穫しているわけではなく、全国の市場情報を農家の方々に送る「上勝情報ネットワーク」の運営と情報発信を行っています。

 

実際の栽培・収穫を行うのは地元農家の方々で、葉っぱという軽い商品のため、たくさんの女性や高齢者も、パソコンやタブレットを駆使して「上勝情報ネットワーク」の情報をチェックしながら働いているそうです。

 

きっと、そうやって元気に働く上勝町のお年寄りのみなさんは、上勝町で暮らしていることを嬉しく思い、都会と上勝町の間に違いはあれど、格差はないと考えておられるように思います。

 

【CULUM】モノに、本当の値段はない?

 

数年前の話ですが、起業して営業の商談に行ったときのことです。渋谷のセルリアンタワー東急ホテルで、3人でコーヒーを頼みました。そのときのお会計なんと4500円。普段100円の缶コーヒーをたくさん飲んでいる私には3人でも300円の感覚。これが4500円。1本あたり1500円で、価格にして15倍の値段です。

 

そのときふと、「モノには、本当の値段はないのかな」と思いました。同じコーヒーとしてみると味もそんなに変わらない、量もそんなに変わらない。でも、缶コーヒーだと1本100円のものが、セルリアンタワーのホテルになると1500円になる。これは本当に衝撃で、その後、私は色々な自動販売機を見るたびにコーヒーの値段を見て調査をしたのですが、同じ缶コーヒーでも80円のものもあれば、50円のものもあるということを改めて認識したのです。

 

本当は100円と思っていたものも、50円で売っているところもあれば、1500円ほどの値段になるところもある。そこには場所代や雰囲気代といったものがかかってくるという要素もありますが、「その値段でも大丈夫だよ! OKだよ!」という方がいれば、同じコーヒーでもこんなにも値段が変わってくるのだと知った機会だったわけです(もちろんホテルのコーヒーが、缶コーヒーとまったく同じ原価だとは思いません)。

 

私の本(『働きながら小さく始めて大きく稼ぐ 0円起業』)も、1480円で買いたいと思われれば買っていただけて(お手にとってくださった読者の方、ありがとうございます)、それだけの価値はないと判断されれば購入されないだけの話なので、モノの価値、値段というのは決まっているようで、その人ごとの判断によって違うということを感じた事件でした。この感覚、逆手にとれたら、ビジネスになりますよね。

 

 

株式会社GEAR 代表取締役

有薗 隼人

 

働きながら小さく始めて大きく稼ぐ 0円起業

働きながら小さく始めて大きく稼ぐ 0円起業

有薗 隼人

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