親の介護をした人が、なにも手伝わなかったきょうだいより財産を多く相続したいと思うのは当然です。法律には、その思いに応える「寄与分」という考え方がありますが、これ認めてもらうには、客観的な判断基準が不可欠です。本記事では、相続問題を多く手がける弁護士の北村亮典氏が、実際の事例を取り上げながら「寄与分」を認めさせるポイントを解説します。

親が「どれほど金銭的に助かったか」を明確にする

親と同居し、亡くなるまで介護をしていた長男。親と離れて暮らしていることを理由に、介護にほとんど関与しなかったきょうだい…。

 

親が亡くなったあと、遺産分割の話し合いの場で「自分が親の面倒を見ていたのだから、相続財産も多めにもらえるはずだ」と長男が主張したとします。はたしてこの言い分は認められるのでしょうか?

 

親の相続が発生したとき、親が亡くなる前に親の面倒を見ていた子と、そうでない子との間で対立が生じるケースは多く、上記のような相談事例は枚挙に暇がありません。

 

この長男のような言い分は、法律的には「寄与分」(民法904条の2)と言います。「寄与分」とは、被相続人の生前において「被相続人の財産の維持または増加に貢献した者がいる場合、それを遺産分割において考慮する」というものです。

 

この寄与分というものは、単に同居して親の面倒を見ていたという程度では、なかなか認められません。「特別な寄与」があったことが明確になっている必要があります。

 

特別な寄与とは、「親の財産の維持等に貢献した」という事情、たとえば子の貢献によって親の財産が増えた、または余計な出費が減り親の財産を維持できた、といった事情があることが重要なのです。

 

ちなみに、親の面倒を見ることは、子どもであれば当然のことですから、常識的な援助(例えば、親が入院しているときに世話をしたなど)をしていただけでは「特別の寄与」と認められることはとても難しいのです。

 

では、どのような行為があれば「特別な寄与」があったとして寄与分が認められるのでしょうか。

 

寄与分が認められる行為の類型を整理すると、

 

① 家業従事型(親の家業を助けていた場合)

② 金銭等出資型(親に金銭を贈与した場合)

③ 扶養型(親の生活の世話などをした場合)

④ 療養看護型(親の介護をした場合)

⑤ 財産管理型(親の財産を管理した場合)

 

このように分かれます。

 

親の介護をした者の寄与分の主張は、上記の④に該当します。調停では、親の介護をしていた相続人から寄与分の主張がされるということは非常に多いのですが、この④のパターンの場合、「子の介護によって親が介護費用を免れた」等といった財産的な側面が重要です。

 

具体的には、親が重度の要介護状態で常時付き添いが必要な状態であるような場合で、子が介護サービスなどを利用せずに介護したり、もしくは介護サービスの費用を負担した場合が該当します。

 

ある裁判事例では、約2年間で5回入院し、それ以外も毎日親の入院時の世話をしたり(毎朝お菓子や新聞等を届け、夕方に洗濯物を持ち帰った)、通院の付き添いをしたりしていた、という子が寄与分を主張したのですが、その程度のことは扶養の範囲ということで「特別の寄与」とは認められませんでした(大阪家庭裁判所堺支部平成18年3月22日審判)。

 

寄与分の具体的な金額は、どの程度認められる?

では、子が介護していて、それが「特別の寄与」にあたる場合、寄与分の具体的な金額はどの程度認められるのでしょうか。

 

これについては、いろいろな考え方がありますが、現在最も多く用いられているのは、「介護保険の介護報酬基準に基づく1日の報酬額に、介護した日数をかける」という方法です。子が介護したことにより、介護サービスに係る報酬に相当する金額について親の財産の維持に寄与したから(出費を避けられたから)、というのがその理由です。

 

ただし、この方法については、介護士の介護と親族が行う介護を比較すると、通常は親族の介護の方がサービスの質が劣るはずですから、介護報酬基準をそのままあてはめることは妥当ではない、という指摘があります。

 

そのため、裁判実務では、介護保険の介護報酬基準に基づく1日の報酬額を0.5〜0.7倍した数字をもとに算定することが多いです。

 

このほか、交通事故の裁判で入院等した場合の家族の付添費が一日8000円とされていることから、この8000円を基準として介護した日数を掛けて寄与分を出すという考え方の裁判例もあります(大阪家庭裁判所平成19年2月8日審判)。

 

なお、寄与分というのは「無償」で介護していた場合に認められるのが原則です。したがって、介護している子が介護による対価を得ていた場合(親から財産をもらっていた場合などはその額)や、親の家で同居し住居費を負担していなかった場合にはその賃料相当額が、寄与分の算定において差し引かれる場合もあります。

 

また、寄与分は、遺産総額の概ね10〜20%、というのがひとつの目安とも言われていますので、調停や審判では、上記の目安も意識したうえで金額を算定して当事者に提示してくることもあります。

 

親の生前に、相続の際の「寄与分」の主張を意識して介護する、という方はほとんどいないのが実情でしょう。

 

しかし、後の紛争を少しでも避けるため、もしくは自分の介護の苦労についての言い分を認めてもらうためには、どうしても親の生前の記録が重要となります。とくに介護の期間が長期化するような場合は、親が亡くなったときに、介護施設等の介護記録の保管期間が過ぎてしまい、あとから裁判のために取得しようにも記録がどこにも残っていなかった…ということになりかねません。

 

したがって、介護をしている者としては、

 

●介護日誌をつける

●親の介護度などの状態を正確に把握し記録に残しておく

●介護にかかった費用の領収証をとっておく

●他の兄妹に、親の状態を電話やメール等で逐一報告するなどコミュニケーションを欠かさない

 

ということを心がけておく必要があります。

 

 

北村 亮典 弁護士

こすぎ弁護士事務所

 

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