旅客機よりも高く飛び、空気抵抗を減らす
第1回では、ビジネスジェットを「誰が」「何のために」使うのか、大まかな理由を説明をしました(関連記事『デキる社長たちが「ビジネスジェット」を持つ納得の理由』参照)。第2回以降は、小型ビジネスジェット機のなかでも最高峰の性能を誇る「HondaJet」の魅力を、丸紅エアロスペース株式会社・第三営業本部航空機ビジネスユニットが詳しく解説していきます。
まず最初に、HondaJetの基礎情報を紹介しましょう。
HondaJetの最大巡航速度は782km/h (※高度9,144メートルにおいて)、継続して飛行できる距離は2,661キロメートルです。たとえば東京から九州や北海道、関西から東北といったフライトでは、出発地から直通で、ゆったりとした時間を楽しむことができます。
最大運用高度は13,100メートルですが、一般的な旅客機が高度12,000メートルあたりを飛んでいますから、HondaJetの運用高度は比較的高いといえます。
なぜ高く飛ぶのか。そのメリットは、「空気抵抗が減る」という点にあります。空気抵抗の減少は、速く、そして燃費良く走行することを可能にさせます。また、高度が高いほど天気は安定しているため、ジェット気流などに巻き込まれる心配も軽減されます。
このように快適な旅を実現できるのは、ひとえにHondaJetが「強い機体」であるからです。通常、高度が上がると、気圧は低下しますよね。すると、機体には膨張する力が働きます(ぱんぱんに膨らんだポテトチップスの袋を想像してください)。この圧力に耐えられる性能を、HondaJetは実現したのです。
定員は、乗員1名+乗客7名 (補助席1名と化粧室1名を含む)、もしくは乗員2名+乗客6名 (補助席1名と化粧室1名を含む)と、その数が決まっています。体重でなく機体に搭乗できる人数を航空局が認めているものなので、体重が少なければ多く乗れるというわけではありません。
乗員と搭載物の重さには限界があります。搭載物が重いと、相対して搭載可能な燃料も減るので、航続距離が変動してしまいます。遠くまで飛びたいからといって、無理して燃料をたくさん積むと、離陸できなくなる可能性すらあります。
HondaJetを操縦するパイロットは、米国のフルフライトシミュレーターで、事前にあらゆる状況を想定した訓練を受けます。実はこの訓練を受けるためにも、一定の資格や飛行時間の実績が求められます。さらに帰国後は、HondaJetのための限定免許を、日本で取得する必要があります。
つまり、HondaJetを操縦する運転手は、かなり高いレベルの習熟度が求められています。この徹底した安全性が、空の旅をさらに豊かなものにしているのです。
ほかのビジネスジェットと「HondaJet」は何が違う?
HondaJetは、ほかのビジネスジェットにはない側面を多く含んでいます。本項では、この違いについて解説します。
エアライン用の機体では、たいてい翼の下にエンジンが設置されています。旅行などで飛行機に乗った方は想像に容易いでしょう。一方、多くのビジネスジェットではこのような配置になっておらず、通常、胴体後方にエンジンが設置されています。
大型のビジネスジェットの場合、キャビンや荷物室自体が大きいので、エンジンを胴体に設置することは、何の問題もありません。しかしながら、HondaJetのような小型ジェット機の翼の下には、エンジンを置く十分なスペースがありません。無理にエンジンを胴体に付ければ、機内の広さや音・振動、つまり「快適性」そのものに如実な影響を与えてしまいます。
そのためHondaJetでは、エンジンの設置場所に「翼の下」も「胴体後方」も選択しませんでした。「翼の上」を、選んだのです。
今まで航空機設計の世界では、空力的な干渉や衝撃波を引き起こすことから、主翼の上にエンジンを設置するのは避けられていました。しかし、エンジンを翼に配置することで、胴体後部からエンジン支持構造を排除することが可能になるのです。
Honda Aircraft Companyでは、「翼の上にもエンジンを取り付けられるはずだ」という確固たる目標のもと、技術的なチャレンジが何年も何年も繰り広げられました。そして成熟した技術力をもって達成した設計が、OTWEM(Over-The-Wing Engine Mount)です。翼の上にエンジンを設置する先進設計であり、HondaJetの「誇り」そのものともいえる技術のひとつです。
◆OTWEMがもたらしたHondaJet特有の快適さ
多くの小型ジェット機では、対面座席に座る乗客同士の足が干渉してしまいました。これでは、せっかくプライベートを確保しても、快適さが損なわれてしまいます。
この点をHonda Aircraft Companyは問題として捉え、「最大キャビン」と「最大荷物室」を目標にし、HondaJetの開発が行われました。特に、小型ジェット機はゴルフ場までの飛行に使われることも多いため、荷物室はこだわりを持って設計されました。
その結果は先にも述べたとおりです。OTWEMの技術によって、胴体後部のエンジン支持構造が不要となり、内部スペースを最大限に利用することが可能となりました。つまり、「胴体のサイズを大きくして体積を確保する」といった工夫をする必要がなくなり、胴体内のスペース、住空間となるキャビンと荷物室を、無駄なく拡大することに成功したのです。
HondaJetのキャビン容積は、同等の小型ジェット機と比較して約20%も大きくなっているため、向かいの人の足を踏む心配はありません。これは荷物室においても同様です。HondaJetの荷物室は、ゴルフバッグ6つを搭載できる広さを誇ります。
意図してか、HondaJetの工場がある米国ノースカロライナ州のグリーンズボロには、PGAツアーのレギュラーシーズン最終戦のコースがあります。ゴルフを楽しんだあとは、工場へ赴いて、実際のHondaJetをご覧になってはいかがでしょうか。
丸紅エアロスペース株式会社
第三営業本部 航空機ビジネスユニット