「統合型リゾート施設(IR)」誘致のメリット
横浜のカジノ誘致に関しては、約7割の市民が反対しているとされ、今後2022年前後とされる候補地の正式決定まで、さまざまな議論が巻き起こることは予想されていたこと。今回の「統合型リゾート施設(IR)」の誘致への正式に表明に関しては、政治的な思惑も絡み(綱引き)、大きく取り上げられた経緯もある。
2018年にIR実施法が成立した後、議論がより活発化、具体化している統合型リゾート施設(IR)誘致であるが、そのメリットとして挙げられているのが以下の5つである。
1 外国人観光客増加による経済効果
2 インフラ整備による地域の活性化
3 地域雇用の創出
4 税収アップによる財政健全化
5 自治体サービスの向上
今後、少子高齢化を迎える中で、国内の経済市場の需要縮小を見据え、現在のインバウンド景気のように、この「統合型リゾート施設(IR)」誘致をたくさんの外国人観光客を呼び込むための起爆剤として、経済効果を考えた場合のメリットは多いとされている。特に、2のように、誘致が決まれば、それに伴う交通網等のインフラ整備が必要となり、特に建設関連の需要などが拡がる。さらに、無事施設の稼働(営業)にこぎつけることができれば、今度は飲食店、周辺器機、警備会社等、各納入企業が参入し、当然雇用の新たな創出は期待される。
そもそも統合型リゾート(IR)というのは、議論されているようなカジノ施設はごく一部(IR施設の延床面積の3%以下に制限)で、国際会議場や国際展示場などのMICE(マイス)施設、ショッピングモール、ホテルやレストランやスパ、体育施設、大劇場や映画館、アミューズメントパークなどを一カ所に集めた大規模施設のことを指している。「ギャンブル」という要素はその一部にしか過ぎないというのが、推進派の見解のひとつでもある。
良いことづくめであるように思える一方、想定され得る主なデメリットとして挙げられ、議論されているのが以下の3つである。
A ギャンブル依存症の増加
B 治安の悪化
C マネーロンダリングの可能性
統合型リゾートとされているにも関わらず、やはり議論の的は「カジノ」部分に特化されている。Cに関しては、テロ組織や麻薬組織が違法な手口によって手に入れた金がマネーロンダリング(資金洗浄)に悪用される可能性があるのでは、というのがその懸念。これに関しては、可能性を含めて日本では初体験となる事項、対策に関してはさらなる慎重な論議が必要となる。
しかし、A、Bに関しては、競馬や競輪といった公営ギャンブル、そしてパチンコ・パチスロといった「ギャンブル」では経験済(?)で、反対の立場をとる人々の最重要な懸念材料となっている。
パチンコの遊技人口は1994年をピークに減少している
かつて社会問題ともなった「パチンコ依存症」を例に取り上げてみよう。その射幸性の高さゆえ、サラリーマンから主婦までが取りつかれたようにパチンコ・パチスロを打つ時代があった。1994~2007年位にかけては、町中にあるパチンコ店において、一回で10万~20万円、全盛期(?)には50万円~100万円が勝つ可能性があったからだ。
「今考えると凄い時代でしたよね。町のいたるところに「鉄火場」があったんですから。連チャン機と呼ばれるパチンコから、これまた4号機と呼ばれるパチスロの爆裂機まで。今のパチンコ・パチスロ機とは比較にならない位ギャンブルが高かった。一回でも当たりループに入れば自分の給料分か、それ以上、余裕で勝つ可能性がありましたから。そりゃ朝から仕事さぼってパチンコ屋の前に並ぶのが普通です(笑)。当時は(並んでいる順番を無視して)場所を取った取らないでイザコザが常に起きるほど殺気立っていました。外回りの営業マンとかで道を踏み外した人間を何人も見てきましたよ」(パチンコライターK氏)
この射幸性の高さゆえ、当然いわゆる「依存症」に陥るプレイヤーは後を絶たなかった。消費者金融への多重債務者の問題(自己破産等)やパチンコ店の駐車場の車内で置き去りにされた子どもが死亡した事故などの報道も目立って増えてきたのもこの頃である。
「事態を重く見た上から(警察庁)の指導により、業界では遊技機の規則改正が行われました。さらには総量規制により消費者金融の貸し出しに制限がかかり、これにより、例えば夫に内緒で借金をしてまで打っていた主婦も、お金を借りることができなくなりました。これら違う業界でありながら、一連の動きは同時に起こりました。射幸性を抑えることにより競技人口は一気に減っていった印象です」(同)
パチンコの遊技人口は1994年の2930万人をピークに減少しており、2013年には1000万人台を割り込み970万人、2017年は900万人にまで減少している(「レジャー白書2018」)。当然利用者の減少に伴い、パチンコ業界では不振が続き、2018年1月から10月にかけてのパチンコホールの倒産は23件となっている(帝国データバンク)。ちなみに自己破産の件数も、2003年の約24万2000件から7万件と激減しているのが現状だ。
さらに、この3月に発表されたパチンコに関する調査結果によれば、現在パチンコをしている人は全体(1万436件の回答中)7.7%と減少傾向にあり、やったことがないと答えた人は46.7%と年々増加しているという(マイボスコム)。時代は変わり、「お金」と「時間」を使う先の選択肢が増えた結果であろうか。
ただ、過激なギャンブル性が抑えられ、遊戯人口は減ったとはいえ、例えば「生涯において、ギャンブル等依存症が疑われる者」の割合は国内全体の3.6%(推計320万人)であるとされている。カジノ施設があるアメリカ、イタリア、フランス、ドイツでそれぞれ1.9%、0.4 %、1.2%、0.2%となっており、日本の数値はまだまだ高い(日本医療研究開発機構2017)。
これはどういうことかいえば、パチンコ・パチスロのその気軽さ、ハードルの低さであろう。そのほとんどが駅前や郊外の国道沿いなどの生活エリア内に設置されており、コンビニ感覚で寄ることができる「遊技場」という、きわめて日本独自の感覚である。
一方、先の統合型リゾート施設(IR)でいえば、全国の内「最大3カ所」に誘致、資金は原則的に「外国資本」、主なターゲットは「外国人旅行者」と規定されている。もちろんエリア外の住民はさまざまな交通手段でその施設へ向かう必要がある。また、ギャンブル依存症対策として、日本人は入場料6000円で1週間3回、月10回の回数制限ありという条件を設けている。短パンにサンダルで気軽に行ける場所ではないのだ。
そもそも両者の狙っているターゲットが大きく異なっているゆえ、前述の「過激なギャンブル性」でもない限り、これだけのハードルをかいくぐって「ギャンブル依存症だらけ」になるのかどうかは、もう少し冷静な議論の余地があるのではないだろうか。そもそも「遊戯機」として規定されているパチンコ・パチスロと、カジノを同じ「ギャンブル」として並べて議論するのはナンセンスという意見もある。
前述したように統合型リゾートの魅力はカジノ施設だけでは当然ない。例えばIRの元祖ともいえるアメリカのラスベガスでは、1990年代から家族で楽しめるファミリーリゾートへと変貌している。著名なミュージシャンやマジシャンのショーや、スーパースター同士のボクシングの世界タイトルマッチなども連日行われるようになり、そのイメージを変えた。シンガポールのマリーナベイ・サンズもその豪華な建物で、一躍中心部の象徴となった。もちろんリスクも充分に想定した上で、日本の「新たな名所」実現に向け、より建設的な議論が活発化することを期待したい。