家系図作成業者は「家系図のこと」を知らない⁉
家系図作成を家系図作成業者に頼んだ場合、いくらくらいかかるのでしょうか? 順番に見ていきましょう。まず家系図作成業務にはおおまかに3つの業務が考えられます。
・戸籍による家系調査からの家系図の作成(戸籍調査)
・「戸籍調査」よりさかのぼる調査(戸籍以上の調査)
・家系図の保存のための「巻物や掛軸」への表装
次に家系図作成業者は、大きく2つに分かれます。それは「家系図に関する専門知識(苗字・家紋・歴史等)がある業者」と「ない業者」です。
実は、家系図に関する専門知識がない業者が大半です。なぜかというと家系図作成業務を行う業者の大半が行政書士だからです。なぜ行政書士が大半かというと、戸籍を取って家系図を作る仕事は、近年まで行政書士の独占業務だったからです。
行政書士試験の内容は公務員試験に近く、能力を図る試験内容です。広く浅く民法や一般常識が試験内容で家系図の専門知識とは無縁です。また、行政書士業務のなかでも家系図作成業務は歴史が浅く、ここ10~15年の間にできた業務です。相続完成相関図作成等の業務で戸籍に慣れた行政書士が、家系図を作り始めたのがきっかけです。
つまり現在の家系図業者は行政書士が大半であり、家系図に関する専門知識がない業者が大半なのです。
では、家系図に関する専門知識がある業者とはどのような業者でしょうか?これも大きく下記のような2つに分けられます。
・独学で家系図に関する専門知識を学び身に着けた業者
・専門知識を持つ人(苗字や家紋の学者・郷土研究家・歴史研究家)と手を組んだ業者
割合としては専門知識がある業者が3~5%といったところです。専門知識がない業者が95%以上ですが、ひとくくりにはできません。お客様のニーズをくみ取り、和綴じ製本や額装など素晴らしい家系図を作る業者も少ないながらいます。
あるいは、専門知識がなく付加価値をつけられないことを逆にとり、どこにもまねできない安さで勝負する業者もいます。家系図作成業者を利用するときは、いくつか問い合わせて、目的に応じて上手に利用するといいでしょう。
戸籍を遡る「戸籍調査」の相場
それでは相場の話に移ります。まず、調査範囲によってわけて考えてみましょう。調査範囲とは、下記のようなものです。
・お父さん側(自分の苗字)だけを調べる「一家系(一苗字)の調査」
・お母さん側(母の旧姓)も調べる「二家系の調査」
・あるいはお父さんお母さんの両親からその両親…すなわち祖父母の4人「四家系の調査」
・そのさらに両親の8人、その両親の16人とすべてを調査範囲とする「全家系の調査」
業者によって調査範囲の表現は様々です。たとえば「四家系(祖父母)」あるいは「八家系(曾祖父母)」の調査を「全家系」としている場合もあります。
一家系の調査の場合のコスト感は下記の通りです。
・付加価値をつけている業者:8万~10万円
・平均的相場:5万~6万円前後
・付加価値はないが最安値業者:3万~4万円前後
ここでいう付加価値とは大きく分けて2つ。専門知識がある業者であれば、専門知識を生かした報告書がほとんどです。専門知識がない業者であれば、和綴じ製本等の豪華な系図などを指します。言い換えれば「中身を充実させるか」「見た目を豪華にするか」の違いともいえるでしょう。
二家系の調査の場合のコスト感は下記の通りです。
・付加価値をつけている業者:15万~20万円
・平均的相場:8万~12万円前後
・付加価値はないが最安値業者:5万~6万円前後
すべての家系の調査の場合は下記の通りです。
・付加価値をつけている業者:25万~50万円
・平均的相場:20万円前後
・付加価値はないが最安値業者:12万~15万円前後
明治時代より前を遡る「戸籍以上の調査」の相場
戸籍以上の調査はオーダーメイド要素が強く、また調査能力や調査方針にも大きな差異があるので一概にコスト感はいえません。たとえば成果報酬を設けている場合は、下記あたりが総額の目安です。
・戸籍より1~2代上まで判明で37~40万円前後
・400年前(江戸時代初期)まで判明で80~120万円
・1000年前まで判明で120~200万円
成果報酬とは、1000年前まで判明で120万円だとすると、たとえば先に120万円をいただき、成果が出たらそのままいただく。成果が出なければ60万円を返金するなど、業者によって様々です。
相場より安く受けて、成果報酬もない代わりに、返金もないという必要作業の事務手数料での料金設定している業者もあります。
こだわりによってピンキリ!? 「巻物や掛軸」の相場
家系図を「巻物・掛軸」にする場合の価格も、大きく2つに分けられます。
・一文字ずつ筆書きで書き、職人による伝統的な表具方法で作成
・プリンターで印刷し機械による表具でリーズナブルに作成
前者を「毛筆での筆耕+本表装」とします。後者を「プリンター+機械表装」とします。「戸籍調査」等の調査料金を含めない価格で検証してみましょう。
・「毛筆での筆耕+本表装」の相場
長さや文字数によりますが、最低でも15万円。最高で40万円。平均すると20万~30万円
・「プリンター+機械表装」の相場
プリンターで印刷ではさほど差異は出ませんが、機械表装のランクによって大きく変わります。「上質な機械表装」をした場合で8万~15万円。「簡易の表装(書道用品店等で売っている数千~2万円前後の掛軸・巻物を含む)」を利用した場合3万~10万円程度です
それではさらに細かく「筆耕」と「表装」に関する相場について分けて考えてみましょう。
「筆耕」のみの相場は?
「筆耕」の相場は、家系図の筆耕を専門にやっているという書道家が見当たらないので、本当にわかりにくいです。表彰状や宛名書きなどの実用書道であれば一文字○○円位(30~50円くらいでしょうか)というある程度の相場がありますが、家系図となると系線(家系図の人と人をつなぐ線)を書く技術が必要だったり、全体のバランスを考える芸術書道の心得が必要であったりするので見当がつきません。
特に芸術書道の分野になると書く人によってまったく価格が異なり、たとえば掛軸に20文字程度の字を書いてもらう場合も、書道教室の先生に頼めば数千円~でやってくれる方もいますが、師範クラスの先生に頼むとウン10万円になったりします。
先に検証した「調査」「筆耕」「表装」すべて含めての価格から、「家系調査」「表装」にかかるであろう価格を引いて見当をつけると、3~15万円前後とかなり幅があるのではないかと推測されます。そのなかに、筆書きをする前の家系図の構成料金も含むので、より相場がわかりにくいです。
字数だけで数百字~多い時には千字以上はあり、その上バランスを考慮する手間隙や技術を含めて考えると、やはり最低でも書道家へ謝礼で5万~10万円以上はかかってもおかしくないでしょう。
ところで家系図の筆耕は、必ずしも師範クラスの先生、すなわち書道家としてのランクが高い方に頼めばいいものができるというものではありません。実用書道と芸術書道ではまったく分野が異なり、たとえば素晴らしい芸術作品を書く先生が実用書道ではそれほど字が上手くなかったりもします。かといって、実用書道で綺麗な字を書く方が、バランス感覚を必要とする家系図を全体的に美しく書くのは難しい場合もあります。
綺麗な字を書く実用書道の能力と、バランス感覚に優れた芸術書道の能力、さらには通常の書道には使われない系線を書く技術が必要です。
実用書道と芸術書道はまったく別の能力で、両者を兼ね備えた書家はごく稀です。
「表装」のみの相場は?
「表装」の相場ですが、まず「機械表装」と「本表装(手表装)」で大きく違います。
「機械表装」の最安値は、1~3万円位です。
より高価な表装に比べると、品質の劣る固めの裂地(きれじ)が使われることが多く、また、仕立てもシンプルなものになってしまいます。それほどこだわらないなら、このくらいで十分に思えるのですが、問題は裂地の固さです。裂地が固いと数回開いただけで、弱いところから折れてすぐに痛みます。避けた方がいいかもしれません。
「なるべく安く提供できないかな?」と、1万円代の安い表装でサンプルを作ったのですが、2~3回開いただけで痛みはじめ、1週間もたたずに完全に折れてしまいました。最低でも3万円以上、できれば5万~12万円位でかなり上質な表装ができます。
このくらいの価格帯だと、柔らかで上質な、表装にふさわしい裂地が使われます。仕立ても豪華で見栄えも良くなります。よっぽどこだわる人でなければこれ以上お金をかける必要はないでしょう。
「本表装(手表装)」の場合は基本的に都度見積りとなります。最低でも5万円以上、長さや材質によって天井知らずですが、良いもので8万~20万円程度はかかるというのが目安です。
信頼できる表具師さんに頼めば、巻物・掛軸の本来の用途の沿った、伝統的な作成方法で仕立ててくれます。値は張りますが、品質・見栄え共に文句なしです。