法律的裏付けがなければ「否認」はできないが・・・
昨年末に国税庁は、「行き過ぎたタワーマンション節税」を税務調査で否認する方針を固め、全国の国税局・税務署に指示を出したということが、新聞報道等により既に明らかになっています(タワーマンション節税の仕組みについては、こちらのレポートをご覧ください)。
「タワーマンション節税」のような法令や通達の穴を縫う安易な節税策については、過去においても、ことごとく厳しい税務調査のターゲットとなってきました。もちろん租税法律主義と言って、法律的裏付けがないのに課税処分はできませんから、「こんなに相続税が減るのはけしからん」という理由で、国税庁は「タワーマンション節税」を否認することはできません。
しかし、国税庁通達の中には、このような「行き過ぎた節税策」を否定するための条文がしっかりと設けられています。それが「総則6項」と呼ばれるもので、非常に短い条文なのですが、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と書かれています。
つまり「タワーマンション節税」のように通達を形式的に適用すると、3億円の時価のタワーマンションが、6000万円の相続税評価額になるケースなどは、「著しく不適当」とされ、その場合には時価3億円の評価で相続税や贈与税を計算するように「国税庁長官の指示」が出ることが考えられるわけです。
国税庁は「時価」と「相続税評価額」の乖離が3.04倍を超えた場合、原則として否認の対象とする方向で検討しているという、かなり具体的な情報も出てきています。
「代金返還請求」と「損害賠償請求」の2パターン
「タワーマンション節税」が税務調査で認められなかった場合、一部の弁護士からは、不動産会社や税理士をも巻き込んで、2パターンの法律上のトラブルが起こり得る可能性が指摘されています。
1つがタワーマンションの買主から売主に対して「錯誤無効による代金返還請求権」の主張がなされる可能性です。これは簡単に言うと「自分はタワーマンションを買えば相続税が節税になると大きな勘違いをしたから、あなたからタワーマンションを買ったが、実際は節税にならなかった。もしこの大きな勘違いがなければ、絶対に買わなかった。この取引は最初から無かったことにして、タワーマンションを返すから、お金も全て返してもらいたい」という主張で、買主に重過失が無くかつ節税目的で買うという意図を、取引の際に売主にも伝えていた場合には、法律上認められる余地があります。
もう1つが「説明義務違反による損害賠償請求権」です。こちらはタワーマンションの売買仲介をした不動産会社や税理士に対して、「タワーマンションを買っても節税にならないというリスクについて十分な説明を受けていなかった。このリスクについて十分な説明を受けていれば絶対に買わなかった。タワーマンションを買ったことにより生じた損害を賠償してもらいたい」というような主張と考えておけば良いでしょう。
弁護士の話では、特に税理士が「絶対大丈夫」とか「こうやれば間違いなく相続税が安くなる」などという断定的判断を提供していたような場合は、認められる可能性が十分にあるとのことです。
ただいずれのケースも「タワーマンションが、将来値下がりした場合」にのみ発生しうるトラブルと言うこともポイントです。というのは、値上がりしたならば、そもそも不動産会社や税理士が賠償すべき損害が発生していないですし、仮に代金返還請求権が認められても、売主にしてみれば「値上がり前の金額」で買い戻せるわけです。
一方で、これらのタワーマンションが値下がりした場合、売主や不動産会社、税理士の危険は青天井に膨らむことになります。例えば買主が2億円で買ったタワーマンションが、将来1億円に値下がりしてしまったとします。「錯誤無効による代金返還請求権」が認められた場合、売主は1億円しか価値の無いこのタワーマンションを2億円で買い戻さなくてはならないということになります。
また、「説明義務違反による損害賠償請求権」が認められた場合は、この投資損失の1億円を、不動産会社と税理士に負担してもらうということになります。単純計算で1室1億円の損害賠償責任でも、対象が10室あれば、責任は10億円に膨らむことになります。
このような「錯誤無効による代金返還請求権」や「説明義務違反による損害賠償請求権」の主張は、「(自称)プライベートバンカー」や「(自称)ファイナンシャルプランナー」などが無責任に提案している、海外金融商品等を活用した「行き過ぎた節税策」が否認された場合にも主張する余地があるようです。
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