税務調査を録音することはできるか?
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
立地も財務状況も問題ない、バンコクのホテル
企業オーナー・個人富裕層の方々から日本で行っているビジネスの話を伺うと、「さすがは富裕層、情報収集力が高い。このようにして財産を増やしているのだな」と、勉強になることが多い。ところが、こうした見識の高い富裕層であっても、海外で投資・ビジネスをするときに限っては、その鋭い観察眼が曇り、ミスをしてしまうこともあるようだ。
今回は、弊社で過去に扱った事例をベースに、海外での投資や資産管理の際に起こりうる問題について書いてみたい。
(注:事例は、元の案件を特定できないよう、弊社で修正を加えたものである)
日本でパチンコチェーンを経営する不動産長者・A氏のケース
●A氏のプロフィール
OWLの顧客であり、パチンコチェーンのオーナー経営者をしつつ、日本国内で数多くの不動産(オフィスビル、商業ビル、住居用賃貸物件)を所有。日本でのビジネスは、自身が業務を回す必要がないレベルに達したため、番頭格のスタッフにほぼ委ね、海外でのビジネスチャンスを探るべく、各国を回り始める。そんななか、タイのバンコクを気に入り、コンドミニアムを購入。日本、バンコク、その他の国々を行き来する生活を開始した。
●OWLへの相談内容とOWLの見立て
タイのバンコクでいくつかコンドミニアムに投資していたが、「タイの不動産業者から耳よりのホテル投資案件を仕入れた」とのことで弊社を訪問。
物件の資料を見たところ、ビジネスの中心地にも歓楽街にも便のいい場所にあり、高架電車の駅からも比較的近く、ホテルの立地条件はよさそうに見える。しかも、すでに取得していたホテルの各種データ等を見ると、稼働率や財務状況も悪くない様子。その旨を伝えると、A氏は「ぜひ現場で実際に確認し、よさそうなら購入まで手伝ってほしい」と希望。
●購入を希望するA氏とともに、現地で物件の詳細を確認
ホテルの場合、単なる不動産の購入というよりも企業買収の色が強くなる。企業買収のときには「デュー・ディリジェンス(Due Diligence=DD)」という、売り手から情報を出してもらい、精査する作業を行う。弁護士が中心となって作業する法務デュー・ディリジェンス、会計士が中心となって作業する財務デュー・ディリジェンス等があるが、ホテルビジネスのように規制業種の場合、ライセンスを取得しているか否かは、法務デュー・ディリジェンスのなかで必須の項目である。
当然ながら、A氏と一緒に会った不動産業者を目の前にして、ライセンスの有無について確認を行う。
OWL「ホテルのライセンスはありますよね?」
不動産業者「えっ!? 確認してみます」
-----数時間後-----
不動産業者「ホテルのライセンスはないようですね。でも、ホテルのライセンスがなくても、営業できていますし、バンコクのホテルでライセンスなしで営業しているところは多いので、問題ないですよ!」
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海外の「グレーゾーン」に、外国人が踏み込むのは危険
●「ホテルライセンス」がなくても営業できるのか?
このホテル案件を持ってきた不動産業者は、「ホテルライセンスがなくても実際に営業できているから問題ない」と言うものの、ホテルが売れれば自分にフィーが入ってくるということで、適当な出まかせをいっている可能性も否めない。したがって、きちんとした確証を得なくてはまずい。
本来であれば、こうした確認をするのがDDであり、弁護士が確認していくのが筋なのだが、A氏はまだこの段階では、弁護士報酬をきちんと払ってDDをやろうという気持ちになっていなかった。そのため、元々接点のあるグローバルチェーンの不動産業者や弁護士などに依頼し、調査することになった。
グローバルチェーンの不動産業者いわく、「ライセンスを取得せずに営業しているホテルは実際にあるようです。でも弊社では、そうした案件は取り扱わないようにしています」とのこと。
弁護士は、「ホテル営業にはホテルライセンスが必要ですね。もっとも、ライセンスなしで営業している実例はあるようで、今は取り締まりされていないようですが、将来も取り締まりをされないという保証はないと思いますよ」と言う。
●どの国にも存在する「グレーゾーン」だが…外国人が乗っかることは可能か?
さて、「ホテルライセンスはないが実際に営業しているホテル」という物件を前に、ふたつの考えが揃った。
【考え方1】
ホテルにはライセンスが必要である。ライセンスがないホテルは買収ターゲットとして重大な欠陥があり、買収に値しない。
【考え方2】
ホテル業にはライセンスが必要とはいえ、ライセンスなしに営業しているホテルはいくらでもある。実際にこのホテルもライセンスなしに営業できている。気にする必要はない。
正直、こうしたライセンスなしのホテル営業は「グレーゾーンビジネス」と言えそうだ。
アドバイザーとして顧客の手伝いをしている弊社としては、「考え方1」「考え方2」を並べて終わりでいいのかもしれないが、ここでは何らかの助言をしたいところである。そこで、A氏に不快な思いをさせてしまう可能性を承知のうえ、以下のように伝えた。
「A様が仕事をされているパチンコ業界も、失礼ながら、グレーゾーンのビジネスと言われることがあると思います。ですがA様は、長年このビジネスで成功を収めていらっしゃいます。ですから、グレーゾーンのこのホテルビジネスも、できないとは思いません。しかし、グレーゾーンのビジネスでは、〈黒のゾーン〉に落ちないため、規制当局の方々との折衝、阿吽の呼吸での対応もいろいろ必要なのだろうと思います。日本語で話し合えるビジネスであれば阿吽の呼吸での対応もできると思いますが、言葉も文化も異なる異国で、できるでしょうか?」
A氏はしばらく悩んだあと、「このホテル買収は止める」と決断した。
外国で投資をするとき、少々胡散臭い案件のほうが、「表には出回っていない凄い案件が来た!」と思ってしまうケースが多い。今回は、少し慎重すぎるぐらいに熟考を重ねて判断した結果、大失敗を未然に防いだケースと言えそうだ。
小峰 孝史
OWL Investments
マネージング・ディレクター・ 弁護士
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