印紙税の税務調査の進め方とは?
6 印紙税調査の進め方
(1)印紙税単独調査
印紙税に特化した調査となるものであり、調査先企業が作成している文書や取引の相手先から受け取った文書を中心に、網羅的に掘り下げた調査が進められます。
この印紙税単独調査により、課税文書となる文書に印紙が貼られていないことが把握された場合には、その文書の通数や交付先などの調査が行われ、最終的に過怠税の賦課決定が行われることとなります。
印紙税単独調査の進め方は担当する調査官によって様々な手法で行われますが、おおむね次のような調査が行われています。
①決算書類や稟議書などの帳簿書類から土地や建物、設備などの資産の売買状況や工事の実施状況などを把握し、それに関する契約書類や関連文書の作成状況、印紙の貼付状況を確認
②社内規則、文書規程、様式集、事務マニュアル、印鑑捺印簿などから、契約書類や文書の作成状況を把握し、印紙の貼付状況を確認
③本店の総務、財務、経理などの管理部門や営業部門に加え、支店、営業所、工場などの現場での文書の作成状況を把握し、印紙の貼付状況を確認
④得意先などから交付を受けている文書を、各部署の重要書類綴り、証拠書類綴りなどから把握し、印紙の貼付状況を確認
⑤収入印紙の購入状況と使用状況を把握し、作成している文書数(課税文書数)に見合う使用状況かなどの大数観察などによる確認
(2)印紙税同時処理
印紙税同時処理は、法人税や所得税などの税務調査の際に、併せて、印紙税についても同時に調査を実施するもので、契約書原本などへの印紙の貼付状況の確認調査が行われます。
上記(1)の印紙税単独調査に比べると、ピンポイントでの調査となり、網羅的に掘り下げた調査までには至らない場合が多いですが、不納付文書が把握された場合には、単独調査の場合と同様に過怠税の賦課徴収が行われます。
なお、同時処理調査の過程で、多数の不納付文書が把握された場合や対応が悪質な事例の場合などにおいては、印紙税の単独調査に切り替えて、掘り下げた調査を継続実施する場合もあります。
悪質と判断されると、3倍の過怠税が課されるケースも
7 調査があった場合の事後是正の方法
印紙税は文書の作成の時までに収入印紙を貼り付けることとされており、法的に事後貼付は認められていません。
このため、印紙税の不納付事実(印紙の貼り漏れ)が発覚した場合は、所得税、法人税等のような修正申告といった是正手段はなく、納付しなかった印紙税の3倍又は1.1倍の過怠税が賦課決定されます。
(注)申告納税方式(印法11条又は12条適用)の場合は、修正申告(又は更正の請求等)による是正となります。
(1)3倍の過怠税の賦課徴収
印紙税の不納付文書には原則として3倍の過怠税が賦課徴収されますが、国税当局の税務運営においては、特に悪質な場合(例えば故意が介在する場合や収入印紙を再使用した場合など)に、3倍の過怠税が賦課徴収されているようです。
この場合、調査官が「印紙税不納付事実調査書」を作成する際に、これと複写で作成される「印紙税不納付事実確認証」について、その記載内容の事実の確認と署名・捺印を求められますので、納税者は内容を確認の上、間違いなければ署名・捺印することとなります。
その後、税務署から「印紙税不納付事実確認証」に基づいて、「過怠税の賦課決定通知書及び納税告知書」が送付されてくるので、納付書により納税します。なお、共同作成文書の不納付の場合には、連帯納税義務となる契約の相手先にも同じ通知が行われることとなるので、留意する必要があります。
その1 契約書に押された消印の印影から見抜く!
提示された契約書のコピーを眺めていた調査官は何となく違和感を覚えました。
それは、契約書に貼り付けられている10万円の印紙と契約書の紙面とに押されている消印をじっくり眺めると、一般的に見られるような独特のズレの箇所がなく、印影がクッキリと鮮明になっていたからです。
このため、調査官は契約書作成日前における収入印紙の購入記録についてチェックしましたが、10万円の印紙の購入記録は確認できませんでした。
また、工事台帳や部長印捺印簿などから、10万円の印紙を貼り付ける必要があると思われる同時期の契約が6件ほど確認できたのですが、これに見合う10万円の印紙の購入記録もやはり認められませんでした。
そこで、この点について代表者に対して質問し、契約書の原本の提示を粘り強く求めたところ、一瞬黙り込んだ代表者は観念したように大きなため息をつくと、次のような説明をしました。
「契約書原本をコピー(1回目)して、そのコピーに印紙を置いた状態でコピー(2回目)し、そのコピーの印紙部分に消印をして、これをさらにコピー(3回目)したものを保管して、調査官には、『契約の相手方が原本を保管しており、当方は契約書の写しのみ保管管理している』と嘘を申し上げました。申し訳ありません」
調査官は、代表者から原本の提示を受けて、収入印紙の未貼付を確認したのでした。
その2 使用済み収入印紙の再使用を見抜く!
調査官が、契約書に貼り付けられている収入印紙を見ていると、消印が二重になっているもの、あるいは契約書の紙面との間に通常見られるズレとは違ったズレが認められるなど、いくつかの不審な点が認められ、何となくピンとくるものを感じました。
そこで、印紙の購入記録や契約書の作成記録などの確認をしつつ、調査に対応してもらっている経理部門の担当者に「収入印紙を管理し実際に契約書への貼付を担当している者は誰ですか」と尋ねたところ、すべて専務(代表者の娘)が対応しているとのことでした。
そこで、専務が帰社した際に、専務に対して、「印紙貼付の実際のところを教えてほしい」と尋ねたところ、「普通に貼っている」との回答の一点張りで、かたくなな態度に終始したため、粘り強く聞き役に徹しました。
そして、調査3日目となって、会社に臨場したところ、専務が調査場所に現れて、「社長からの指示で、ずいぶん前から、契約期間が終了した契約書などに貼ってあった使用済みの印紙を剥がして、新規の契約書原本に貼付して再使用していました」との供述を得ました。
そこで、調査官が、専務に机の引き出しを開けて見せてもらえるようお願いしたところ、引き出しの中から剥がされた使用済みの印紙が多量に出てきたのでした。
(2)1.1倍の過怠税の賦課徴収
1.1倍の過怠税は基本的には調査を受ける前の自主点検等で発覚し、不納付事実の申出を行う場合に賦課徴収されるものです。
ただ、調査で不納付が発覚した場合であっても、国税当局から自主的な不納付事実の申出の慫慂(しょうよう)があり、これに応じて自主点検により「印紙税不納付事実申出書」を作成し、国税当局に提出を行った場合には、1.1倍の過怠税の賦課徴収がなされているようです(この場合も税務署から「過怠税の賦課決定通知書及び納税告知書」が送付されてきます。)。
なお、「工事注文請書」や「領収証(レシート)」など、相手方に交付している文書については、文書の現物が手元にないことから、自主点検に当たっては、これらの控え綴りなどを用いて、作成数を確認していきます。
この場合、過去の作成分でこれらの控え綴りの保管がないなどの理由で実数把握が難しい場合には、国税当局とも協議の上、サンプル調査などにより作成枚数を合理的に推計した上で、「印紙税不納付事実申出書」を作成することとなります。
[参考]過怠税の額は、本税相当部分を含めてその全額(3倍の過怠税の場合は「本税相当部分+本税相当額×2倍」の額、1.1倍の過怠税の場合は「本税相当額+本税相当額×0.1倍」の額)が法人税又は所得税の損金又は経費にはなりません。