小学校の英語教育が変わります。2020年度より全国的に小学3年生から必修(外国語活動)となり、5年生からは「教科」として扱われる予定です。既に2018年度より移行期間は始まっており、子どもから「英語」に関する質問をされて困った…という人もいるのではないでしょうか。本連載では、高校の英語教諭・大竹保幹氏の著書、『子どもに聞かれて困らない英文法のキソ』(アルク)から一部を抜粋し、もう一度おさらいしたい英文法の基礎と、子どもに教える際のポイントを解説します。今回のテーマは、「冠詞」です。

英単語の中で「the」の使用頻度が実は1位である

「名詞」や「動詞」と比べると、「冠詞」という言葉はあまり耳なじみがないかもしれません。中には「そんなの聞いたことがない」と言い出す人もいるかもしれませんが、英語を勉強したことのある人なら誰でも知っている「ある2語」がこのグループの仲間です。皆さんはどんな語が「冠詞」なのか挙げることができますか?

 

正解は、a(またはan)とtheです。冠詞という言葉自体は知名度が低いかもしれませんが、この2語は英語の中では特によく使われます。英単語は数え切れないくらいありますが、その中でもtheはなんと使用頻度が1位、aも5位といわれていますから、その重要性がよく分かりますね。

 

冠詞は、単独で使われることはなく、a man(男)やthe sun(太陽)のように必ず名詞の前に置かれ、名詞の意味を補ってくれます。一見すると、aはoneと同じ意味を持っているようですが、一体何が違うのでしょうか。よく使う語だからこそ、こういった基本的な使い方をしっかりと理解しておくことが、英語を使う上で大切になってきます。今回は、冠詞について考えていきましょう。

aとanは文字ではなく「音」で使い分けるのが基本

aについては、第2回でもすでに出てきていますが、名詞が「1つ」であることを表す語です。ネコが1匹ならa cat、もし2匹以上いるならcatsという複数形を使うのでしたね。

 

同じように数字のoneを使っても「1つ」を表すことはできますが、どうしても数が強調されることになるので、まったく同じというわけではありません。I am one student.(私は1人の学生です)という言い方は、日本語でもその違和感を十分感じ取れます。

 

aは名詞が1つであることを表してはいますが、どちらかというと、「これから初めて話題に出すもの」を伝えていると考えてください。そのため、aを使うときは、I am a student.(私は学生です)のように、あえて日本語に訳さないほうがその雰囲気をうまく伝えられるかもしれません。Do you have a ball? は「ボールありますか?」、Do you have one ball? なら「ボール1ありますか?」くらいに区別しておくと良いでしょう。

 

aは「1つ」を表すわけですから、基本的には数えられる名詞にしか使いません。ただし、少し特殊な使い方ですが、数えられないものにも付けることがあります。waterなど数えられない名詞は、a glass of water(グラス1杯の水)のように「入れ物」などを利用して数えることになっていますが、a coffee(コーヒー1)、a tea(お茶1)のような慣用表現もあることを知っておくと旅行などで使い勝手が良さそうですね。もちろん、こういったものはあくまでも例外ですので、慣用表現以外では使わないほうがいいでしょう。

 

冠詞のaは、日本語の「ア」に近い発音をしていますが、そのすぐ後ろに同じように「ア」の音で始まるapple(リンゴ)[ポウ]のような語が来るとどうなるでしょうか。ここでは発音をカタカナで表していますが、a apple[ ポウ]という発音では、そこにaがあるのかどうかが聞き取りにくくなってしまいそうです。だからこそ、そういった聞き間違いを避けるために、aはanという形に変わらなくてはならないのです。

 

aは後ろの名詞が「母音(アイウエオ)」の音で始まるときに、anになります。日本語と英語の母音は同じ音ではないので、こればかりは音声教材を聴いてもらわなくてはならないのですが、今は「『アイウエオ』のような音」くらいのイメージで十分でしょう。

 

まだanの使用例を特に示していませんが、「音」をイメージしながら、次のクイズを考えてみてください。

 

Q:次の①~④の単語の中で、anを付けられるのはどれでしょうか。

 

①orange ②UFO ③hour ④X-ray

 

文字にだまされずに、音を大切にしてくださいね。

 

aとanの使い分けは、「文字」ではなく「音」によって決まります。文字を見ただけであれば、①orange(オレンジ)と②UFO(未確認飛行物体)は「a、e、i、o、u」を使っているので、anを使いたくなってしまいますが、発音をしてみると②UFO[ユーエフオウ]は、ヤ行の音に近いので母音ではないことが分かります。また、③hour(時間)[ウア]と④X-ray(X線)[クスレイ]には、hとXという文字が使われていますが、発音は母音で始まっていますね。というわけで、anを付けられるのは、①an orange、③an hour、④an X-rayの3つでした。

 

一度話題に出てきた人物や物は「the」で指し示す

theは「候補を絞れること」を表します。例えば、world(世界)やsun(太陽)は世の中に1つしかないので、みんなが同じ対象を思い描くことができます。そこで、これらの語を実際に使うときはI want to travel around the world.(世界中を旅したいな)とかThe sun is shining.(太陽がまぶしい)のようにtheと一緒に使うのが約束となります。同じような例は、the sea(海)、the sky(空)など挙げれば切りがありません。

 

pen(ペン)やman(男性)など世の中にたくさんあるものでも、一度話題に出てきた人物や、誰もがすぐにそれと分かるものなら、候補を絞れるのでtheを付けます

 

Close the window, please.(窓、閉めてください)という表現でwindowにtheが使われているのは、閉めてほしい窓が相手のすぐ近くにあるなど、閉める対象がすぐに分かるからです。もしここで、Close a window, please.と言ってしまうと、「窓をどれか1枚閉めてください」という意味に変わってしまいます。部屋中の窓が開いていて、そのうちの1枚だけ閉めるという状況が実際にあるかどうかは分かりませんが、冠詞の違いが英文全体の意味合いを大きく変えるのだということは知らなくてはいけないことなのです。

 

子どもに冠詞を教える際の2つの重要ポイント

【冠詞の基本】

冠詞とは「aとtheの2種類があり、名詞の意味を補足する語のこと」。

 

種類と使い方

a:人や物が「1つ」であることを表すが、数を伝えるというよりも、主にそれが相手にとって「初めて話題にすること」であることを示す。oneとの違いに注意が必要。

 例  a computer(コンピューター)、a train(電車)、a ship(船)

    I am a student.(私は学生です)

※I am one student.(私は1人の学生です)は文として怪しいですね。

 

後ろに「母音(アイウエオの音)」があるときは、anを使う。

 例  an egg(卵)[アン エグ]、an SOS(SOSのサイン)[アン エスオウエス]

 

the:世の中に1つしかないもの、すでに話題に出ているものなど、対象の「候補が絞れるもの」を表す。

 例  the world(世界)、the west(西)、the moon(月)

    Close the window, please.(窓を閉めてください)

※「近くにある窓」は誰にとっても対象がすぐに分かるのでtheを使います。

 

後ろに「母音(アイウエオの音)」があるときは、the[ズィ]という発音になる。

 例  the earth(地球)[ズィ アース]、the east(東)[ズィ イースト]

 

(ポイント1) 文字ではなく、音で使い分ける

 

aとanの使い分けや、theの発音の違いは「母音」に関係しています。このルール自体はとても単純なので分かりやすいのですが、英語は語のつづりと発音が異なることが多いので、文字の見た目につられないようにする必要があります。母音から始まるかどうかをとっさに判断することになりますので、日頃から発音しながら単語を覚えることが大切だと教えてあげましょう。

 

a university(大学)、a European city(ヨーロッパの町)など

見た目とは違い、「ヤ行の音」なのでaを使います。

 

A wolf(狼)、a wool(羊毛)など

「ウルフ」「ウール」という発音だと思い込んでいると、anを付けたくなりますが、実はワ行の音なのでaを使うことになります。

 

(ポイント2) 話題に出るのが初めてかどうか

 

theは誰もが同じことを思い描けるような「候補が1つに絞れるもの」を表します。そのため、初めて話をする人や物に対してtheを使ってしまうと、一体何のことだったろうかと相手を困らせてしまうことになります。初めて話題に出すものにはa(またはan)を、相手も分かっているものにはtheを使うのだと教えてあげましょう。

 

Once upon a time, there lived an old man and an old woman. The old man went into…

(むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは・・・)

 

皆さんご存じの、日本の昔話『桃太郎』の冒頭部分です。初めておじいさんが紹介されるときにはanが使われていますが、次からはtheになっています。ここで再びAn old man went into・・・と言ってしまうと、おじいさんが何人も出てくるお話になってしまうというわけです。

 

『桃太郎』の日本語訳を見ると分かりますが、aやtheは特に訳す必要はありません。「冠詞」は日本語にはない仕組みですので、「おじいさん」や「おじいさん」など他の部分を工夫することで、初めて出てくる人物かどうかを表すことができることに気付けるといいですね。

 

 

 

大竹 保幹

神奈川県立厚木高等学校 教諭

文部科学省委託事業英語教育推進リーダー

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