“I”や“you”などの「代名詞」を使いこなそう!
「私、好きな俳優がいてね。彼って素敵なのよ」
皆さんなら、セリフ中の「彼」が誰のことを言っているのかすぐに分かるでしょう。ここでは、「彼」とは「好きな俳優」のことですね。「彼」という語のおかげで、「俳優」という語が繰り返し使われるのを避けているだけでなく、俳優さんの性別まで伝えることができています。
ところで、上の文中にある「私」とは一体誰のことを指しているでしょうか? 答えは、もちろん「このセリフを言った人」です。このセリフからだけでは、その人のことを詳しく知ることはできませんが、「私」という語はセリフを言う人によって指し示す人物が変わっていきますよね。田中さんが言っているなら、「私」の正体は田中さんですし、Kateが言っているなら、それは間違いなくKateのことです。
このように、「俳優」という語や「個人の名前」を使わなくても、「代名詞」を使うことでその人物の代わりをすることができます。その名のとおり、名詞の代わりをしてくれる語です。相手の名前を知らなくても会話をすることができるのは、you(あなた)という便利な語が代わりをしてくれているからなのです。
“he”と“she”…性別で分かれる代名詞
今回は代名詞について考えていきましょう。
代名詞の中でもI(私)とyou(あなた)は、非常に重要ですが、これらの語に説明は不要でしょう。自分のことを話すときはIを使い、相手のことを言うときにはyouを使います。Iだけは文の途中でもいつも大文字になるのでしたね。
気を付けてほしいのは、「Iとyou以外の人物」を表すときです。3番目の登場人物になるからか、「3人称」という呼び名が付けられていますが、それが男性ならhe(彼)、女性ならshe(彼女)、性別を特に意識しない物にはit(それ)を使います。
日本語では「彼」や「彼女」といった代名詞を無理に使わなくてもいいことがありますが、英語は主語を省略しないのが普通なので、慣れるまでは必要以上に「彼」や「彼女」を言っているように思ってしまうかもしれません。日本語だったら「トムって優しいよね。いつもニコニコしてるし」となるところを、英語ではTom is kind. He always smiles. のように、主語が誰なのかを必ず示すことになります。なくても分かるのでしょうけれども、これが英語の表現方法なのです。
名詞に複数かどうかの区別があるように、代名詞にも複数形があります。Iの複数形はwe(私たち)、youの複数形はyou(あなたたち)と、この2つを見るだけでも単純にsを付けるものではないのだと分かります。それでは、「彼ら」「彼女ら」「それら」の分を3つも覚えることになるのかとドキドキしてしまいますが、なぜかすべてtheyという1語で済ませることになります。不思議なことに、複数になると性別の意識はなくなってしまうのですが、これは学習者としてはありがたいですね。人だかりの中に男性が何人いるのかを数えるのは大変ですから、theyという語は理にかなっています。
「人ではない」ものは“it”だが、「船」は“she”?
代名詞は、代わりとなる名詞の「性別」をどこまで意識しているかが大切なのですが、たとえ性別がはっきりしていても「人ではない」と思うものには、基本的にはitを使います。動物がその代表的な例です。動物園に行くと、elephant(ゾウ)やtiger(トラ)のおりの前に「オス」や「メス」などの表示がされていますが、こういう動物にはitを使うのが普通です。beetle(カブトムシ)やcockroach(ゴキブリ)などの虫にも性別がありますが、やはりitです。ゴキブリに関しては、theyを使うことがないことを祈るばかりです。
もしかすると、「動物にitを使う」ことについて、なんだか少し残念に思う人もいるかもしれません。ペットを飼っている人なら、なおさらそうでしょう。わが子のように愛する動物が、「物」のように扱われるのは抵抗があります。実はこの感覚は英語でも同じで、代名詞は「気持ち」によって変化することもあるのです。
Q:あなたは友人にペットの小鳥の写真を見せようとしています。( )にはどんな代名詞を入れるのが良いでしょうか。
Look at the pictures of my bird.( )is beautiful, right?
かわいがっている動物は、まるで「人」のように扱われます。気持ちの上で「人」のように感じているものであれば、動物であってもheやsheを使います。クイズでは、小鳥の性別までは分からないので想像するしかありませんが、仮に飼っている鳥が「オス」なら、He is beautiful, right? となります。動物以外でも、例えばmotorcycle(バイク)やship(船)などは、sheを使うことでまるで自分の彼女であるかのように話すこともあります。
代名詞の使い分けで意外なのは、babyやchildでしょう。この2語は、歴史的な背景もあるのでしょうが、代名詞はitを使うとされていました。しかし、生まれる前など性別が分からないときを除いて、自分の家族でなくても子どもを大切に思う気持ちから、今ではheやsheを使うことが多くなっています。文法が「気持ち」で変わることもあるなんて素敵ですよね。
代名詞は「日本語訳」で考えると、失敗する!
自己紹介で自分の名前を伝えるときの表現に、My name is~.(私の名前は~です)というのがあります。あまりにも有名なこの表現ですが、「私」のことを言っているのに、Iという語がありません。「『私の』はmyなんだからそんなの当たり前だよ」と考えるのは、すでに英語を勉強したことのある人の意見ですよね。
日本語では「の」や「を」などを付けることで、「私の」や「私を」のように文の中における役割を変えることができますが、英語では違います。代名詞は意味によって形を変えるのが約束だからです。
代名詞の変化は「I、my、me、mine・・・」と何かの呪文のように覚えることが多いのではないでしょうか。暗記の方法は人それぞれですが、大切なのは「その形をいつ使うか」を理解することです。特に、1番目の形(I、you、he、sheなど)と3番目の形(me、you、him、herなど)は、日本語訳に頼ってはいけません。
「彼が好き」という告白は、英語ではI like him.やI love him.であって、絶対にI like he.になることはありません。いくら「彼が」という日本語が使われていても、それがいつもheになるとは限らないのです。そもそも「私は」という主語は、日本語では言う必要すらないことだってありますよね。「heは『彼は、彼が』、himは『彼を、彼に』」と覚えるのも大切ですが、代名詞は「使う場所」で区別する必要があります。
1番目の形は、文の主語になるときに使います。そのため、I like tennis.(私はテニスが好き)、He is kind.(彼は優しい)のように、動詞の「前」で使うのが基本です。一方、3番目の形は「後ろ」で使います。I like him.(彼が好き)、I know her.(彼女を知ってるよ)、I got the letter from him.(彼から手紙をもらったよ)のように、動詞や前置詞の対象となっているときはすべてこの形です。
my nameの例に限らず、他の代名詞もきちんと使い分けられないと違和感のある英語に聞こえてしまいます。そのくらい、代名詞の形を使い分けるのは大切なことなのです。
子どもに「代名詞」について教えてあげる際のポイント
【代名詞の基本】
代名詞とは「名詞の代わりになる語」。
これのおかげで、同じ語の繰り返しを避けることができる。
代名詞の一覧
~複数形~
※複数になると「性別」は関係なくなります。
「主格」:主語になるときの形
例 I play the piano.(私はピアノを弾きます)
「所有格」:誰のものであるかを表す形
例 my book(ぼくの本)、his shoes(彼の靴)
「目的格」:動詞や前置詞の後ろにあるときの形
例 I know them.(彼らのことなら知ってるよ), How about it?(それどう?)
「所有代名詞」:「~のもの」という意味を持つ形
例 This is mine.(これは私のものよ)
(ポイント1) 日本語訳ではなく、使う位置で形が変わる
日本語訳を頼りに「『彼は』と『彼が』ならheを使う」と覚えていると、「私、彼が好きなの」という文の英訳が、なんでI like him.になるのかが分からなくなってしまうことがあります。意味を覚えることは大切ですが、それぞれの形をどうやって使い分けるのかを知ることが大切なのだと伝えてあげましょう。
His hair is brown.
日本語だと「彼は髪が茶色い」や「彼の髪は茶色い」になります。hisは必ず「彼の」と訳さなくてはいけないということはありません。代名詞に限らず、日本語訳はあくまでも参考程度に考えましょう。
(ポイント2) 日本語に訳さないほうが自然な場合も多い
ポイント1では日本語訳に頼らないことを言いましたが、そもそも日本語では主語を省略して話をすることが多いですし、「彼」や「それら」といった言い方はしないほうが自然です。日本語訳をするときには、代名詞は無理に訳さないほうがかっこよくなるのです。
My brother and I went to my grandmother’s house.
「私の弟と私は、私のおばあちゃんの家に行きました」という訳は、非常に丁寧に英文を見ていることは評価できますが、日本語としてはとても不自然です。代名詞を極力訳さないようにするだけで、「弟と私は、おばあちゃんの家に行きました」という自然な文に変わりますね。
大竹 保幹
神奈川県立厚木高等学校 教諭
文部科学省委託事業英語教育推進リーダー