家族が集まる年末年始に改めて考えたい相続の問題。ここでは、相続税の一種である「贈与税」はどのようなものに課税されるのか、具体例を挙げながら見ていきます。※本記事は梅田公認会計士事務所、税理士法人キャッスルロック・パートナーズの梅田泰宏公認会計士・税理士の書き下ろしによるものです。

贈与は「贈る側・もらう側」の契約の上に成立する

多くの方は「贈与」という言葉について「お金やモノを贈ったり、贈られたりすること」という理解をされているのではないかと思います。もちろん、それで間違いはありません。ただ、ここで言う「お金」「モノ」について、多額の現金や、財産価値の高いものを赤の他人に無償で渡すというのは現実的には稀なことです。そのようなケースは、社会福祉や社会貢献という観点から「寄付」行為になる場合が多いでしょう。つまり「贈与」は、一定の近しい人間関係の中で行われるのが一般的です。その最たる例が、親から子への財産移転です。

 

法律的に言うと、贈与は互いに権利と義務を負うことになる契約の一種で、財産を贈与しようとする人が「財産をあげましょう」と言い、もらう側の人(受贈者)が「はい、頂戴します」と承諾することによって成立します。つまり、あげる側の一方的な意思表示だけではなく、もらう側の意思表示もあって、初めて成立する法律行為ということになります。

 

もうおわかりですね。奥さんや子どもさん名義の預金口座を勝手に作り、そこに預金しても、それは贈与ではなく、単に名義を借りただけの「本人の預金」ということになってしまいます。

 

本人は、多少なりとも財産を分散させたつもりであっても、実際にはその目的は果たせていません。「財産を移転する」ということは、名義はもちろんのこと、その財産の管理も贈られた人の下で行われなくてはならないということなのです。

 

ただしこれに対して、人の死亡を原因として贈与が成立する「死因贈与」、いわゆる遺言書によって財産が移転する遺贈は、財産を遺す人の「遺言書を通した一方的な意思表示」で成立することになります。

 

ちなみに贈与契約は、口頭でも成立するといわれています。しかし、できる限り書面で残すほうが安全です。万が一、酒の席で酔った勢いで口にするようなことがあれば、あとから言った、言わないで揉めることにもなりかねません。そのような事態を防ぐためにも、書面にして残しておくことが大切なのです。書面なら、そう簡単に取り消すわけにもいきませんし、通常は押印までするので、贈与の認識も強まるでしょう。また、書面は実際に贈与があったことの証明になりますから、相続発生時や、税務署への説明の際にも非常に役立つことになります。

借金の肩代わりや生命保険金の支払も贈与税の対象に

贈与税は「モノやお金をもらった場合にかかる」ということをご理解いただけたと思います。しかし、贈った側やもらった側の本人同士が意識せずにやったことでも、贈与税の対象となる取引があります。これを理解していないと、万一該当していた場合、あとから多額の税金がのしかかってくるリスクがあるため、気をつけなければなりません。

 

以下に、贈与税が課税されるケースをまとめました。

 

①モノやお金といった「目に見える財産」を貰った場合

最もポピュラーでわかりやすいパターンがこれです。親からお金をもらったり、株や不動産をもらった場合などです。気をつけてほしいのは、親が子ども名義で不動産を購入した場合です。親のお金、もしくは親が借入をして得たお金で子ども名義で不動産などのモノを購入するということは、結局のところ、子どもがお金を贈与してもらって不動産を買ったのと同じことになるからです。

 

②借金の返済免除や肩代わりをしてもらった場合

たとえば、車を購入する際に父親から借金をしたものの、残高を「もう返さなくていい」と免除された場合や、自分の借金を返済できなくなり、親に肩代わりしてもらった場合などです。これは、本来返済すべき金額を得したことになります。

 

③生命保険の支払をしてもらっている場合

自分が受け取ることになっている満期のある生命保険の保険料を父親が支払っているような場合は、満期保険金が贈与に該当します。

 

④財産を著しく低い価格で売却してもらった場合

第三者間ではあまり起こらないことですが、親子間で土地や株などの売買をする場合、親しい間柄ということで金額も低額になりがちです。しかし、時価との差額分は得したことになりますので、これも贈与に該当します。

 

上記からもわかるように、金銭や目に見えるモノばかりではなく、「お金をもらったのと同等の経済的利益」も贈与ということになります。この経済的利益が贈与の対象となることは、案外忘れがち・見落としがちになってしまいますので、ぜひ気をつけたいところです。当事者間では、「あげた」「もらった」という意識がないケースが多いので、あとから税務署の指摘を受け、あわてることがないようにしたいものです。

 

 

梅田 泰宏
梅田公認会計士事務所 所長
税理士法人キャッスルロック・パートナーズ
公認会計士・税理士

 

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