子供への事業承継…事前に解決しておきたい「自社株」の問題

家族が集まる年末年始に改めて考えたい相続の問題。ここでは、子供への「事業承継」に関する注意点を取上げます。※本記事は日本橋中央法律事務所の山口明弁護士の書き下ろしによるものです。

事業承継の際、真っ先に行うべきは「株主の確認」

1 子供への事業承継にあたり、第一に留意すべきこと

 

中小企業において、社長が子供に事業の承継をする場合には、株式を子供に取得させることが一般的です。ただ、子供に株式を取得させるといっても、誰が株主かが分からないこともあるため、事業承継を予定している場合には、前もって株主の確認をしておくことが必要です。

 

2 「名義株主がいる」「株券を発行していない」場合に生じる問題

 

 (1) 名義株主がいる場合

 

平成2年改正前の商法において、発起設立により株式会社を設立する場合には、最低7名の発起人が必要とされていたため、創業者だけでは足りず、親族、従業員、知人などの名義借用されていた可能性があります(いわゆる名義株)。名義株については、株主は、形式的な名義貸人(上記の親族、従業員、知人など)ではなく、実質的に払込みをなし、対価の提供をしたものが真の所有者であるとされています(最判昭和42年11月17日)。ただし、真の株主(創業者等)が、会社に対する関係で株主権を行使するためには、名義書換の手続が必要になります。

 

この名義書換を行うには、名義株主との間で合意をすることや、改めて株式を買い取るといった方法が考えられます。いずれも名義株主との間でスムーズに話し合いが進めばよいのですが、これがスムーズに進まないとすると事態は深刻な状況になる可能性があります。

 

 (2) 株券を発行していない場合

 

また、現在の会社法では、株券を発行する旨の定款の定めがある場合には株券発行会社となり、反対に、株券を発行する旨の定款の定めがない場合には株券不発行会社になります。株券不発行会社の株主は、株券がなくとも、当事者間の合意があれば、株式譲渡をすることができます。

 

しかし、平成18年5月の会社法施行前から存立する株式会社の場合には、原則として株券発行会社であり、例外として定款において株券を発行しない旨を定めたときに、株券不発行会社となることとされていました。したがって、平成18年5月以前に設立された会社の場合には、定款で手当がされていないと、株券発行会社となり、株式を譲渡するためには、当事者間の合意では足りず、原則として、株券を交付しなければなりません。この株券の交付というのが問題で、中小企業においては、株券発行会社であってもそもそも株券を発行していない会社が多く見受けられるのです。この場合には、旧株主から株式を買い取ったと主張する者がいたとしても、株券の交付を受けていないため、正当な株主かどうかを確認することができません。

株券の発行がない、株主と連絡が取れない場合は…

3 子供に株式を取得させる方策は?

 

 (1) 株券発行会社であるにもかかわらず、株券を発行していない会社の場合

 

株券発行会社であるにもかかわらず、株券を発行していない会社において、株主を確定させるためには、改めて株券を発行し直した上で、株式譲渡をやり直すということが考えられます。ただ、当然のことながら、この手続を行うためには、関係当事者の協力が必要となります。それでは、この手続が取れない場合はどうするのでしょうか。その際は、次善の策を講ずるほかないと思われます。例えば、連絡が取れない旧株主等は措いておくとして、協力してもらえる旧株主らから念書を取得すること等が考えられますが、どのような方策を講ずるかについては、関係当事者と協議が必要になるでしょう。

 

 (2) 株主と連絡が取れない場合

 

また、会社が株主として把握している者に連絡が取れない場合もあろうかと思います。この場合には、所在不明株主の株式の売却制度を利用することが考えられます。この制度は、株主に対する通知・催告をすることを要しない株式(通知・催告が5年以上継続して到達しない株主の株式)であって、かつ、当該株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかった場合には、当該株式を競売又は売却して、その代金を株主に交付することができる制度です(会社法197条1項、2項)。ただ、上記のとおり、5年間剰余金の配当を受領しなかった場合等の期間要件がありますので、この制度を利用しようとするのであれば、相当程度前もって準備をしておく必要があることになります。

 

 (3) スクイーズアウト(少数株主の締め出し)による対応を検討すべき場合も

 

(1)(2)の他には、いわゆるスクイーズアウト(少数株主の締め出し)による対応も検討すべき場合があるかもしれません。このスクイーズアウトの方法としては、①特別支配株主の株式等売渡請求(会社法179条)、②株式併合(会社法180条以下)といった方法が考えられます。①特別支配株主の株式等売渡請求については、総株主の議決権の90%以上を有する株主(特別支配株主)が、他の株主の全員に対して、その有する株式の全部を売り渡すことを請求することができる制度です。この制度を利用する場合には、会社の承認、売渡株主等に対する通知・公告、事前情報開示等の手続を踏む必要があります。また、②株式併合は、数個の株式(例えば10株)を合わせてそれより少数の株式(例えば1株)とする会社の行為をいいます。この制度を利用する場合にも、株主総会の特別決議、株主に対する通知・公告、事前情報開示等の手続を踏む必要があります。

事業承継を考えるなら、早めに株主の確定を!

以上のように、名義株主がいる場合、株券が発行されていない場合、株主と連絡が取れない場合等においては、その対応に迫られることになり、株主に連絡が取れるかどうか、協力的かどうか等によって、手間も時間も異なることになります。子供に事業承継をしようと思ったとしても、すぐには対応できない可能性があり、場合によってはタイミングを失する可能性もあります。

 

創業者が築き上げた会社を、せっかくその子供が承継しようという気持ちになっているに、それが実行できないというのは避けなければいけません。そのような事態にならないよう、事業承継を考えているのであれば、早めに株主の確定をし、問題があるようであれば、法律の専門家に相談することをお勧めします。

 

 

山口 明
日本橋中央法律事務所 弁護士

 

日本橋中央法律事務所 弁護士

2005年弁護士登録、東京弁護士会所属。2005年から2011年に片岡総合法律事務所、2011年から2016年に野田総合法律事務所(パートナー弁護士)を経て、2016年に日本橋中央法律事務所を開設して現在に至る。特に、金融に関わる法務、不動産に関わる法務及び信託に関わる法務を得意にしている。

著者紹介

連載家族が集まる年末年始だから本気で考えたい!「相続」特集 ~弁護士・山口明氏

 

 

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧