「110万円の基礎控除」を考慮した実効税率に着目
暦年贈与には110万円の基礎控除があり、1月1日から12月31日までの1年間に110万円以内の贈与なら税金がかからず、これは毎年使える制度です。税金がかからない贈与枠があるわけですから、例えば、年間110万円ずつ、10年間続ければ1100万円を非課税で贈与できるなど、年数を重ねれば重ねるほど効果は期待できます。
しかしそれ以上に、相続税の実効税率と贈与税の実効税率との差に着目することで、税金を低く抑えることもできそうです。
その分岐点になるのが、「贈与の損益分岐点」といわれるものです。
何年かけて贈与ができるのか?
贈与の損益分岐点は、相続税の節税を目的にして生前贈与する場合は、
①「何年かけて」生前贈与すればいいか
②「いくらまで」生前贈与すればいいか
③「いくらずつ」生前贈与すればいいか
の3つの観点から、生前贈与が相続よりも有利になる分岐点がどこにあるかをシミュレーションで探していく方法です。
なお、生前贈与の対象者は無制限が基本で、法定相続人以外にも贈与することができますが、 株式承継は集中が原則なので、ここでは贈与を法定相続人に限っています。
贈与の損益分岐点は、まず現状分析を行いながら、相続税と贈与税のそれぞれの「実効税率」を求めることから始めます。「実効税率」は、実際に払うことになる税額が、承継する財産の総額にどれだけの割合を占めるかで決まります。
実効税率から毎年の贈与額を算定
相続税額は後継者である長男が自社と事業用の不動産を引き継いで相続割合が1/2、税額が1億6650万円、妻と次男はそれぞれ相続割合が1/4、税額が8325万円ですが、妻は配偶者控除があるので、実際には相続税はかからず、納税額の合計は2億4975万円となります。
この納税額を遺産総額の10億円で割ると、実効税率は24.98%と算定できます。
次に贈与税の実効税率を、速見表を使って見ていきます。すると、先に算定した24.98%の実効税率は、贈与税率50%の区分に合致します。
これらの数値を基にして、逆算する方法で毎年生前贈与する金額を割り出していきます。 以下の計算式による算定の結果、この年に1人に生前贈与する金額の損益分岐点は、理論上、1119万円ということになります。
24.98%={(A-110万円)×50%-225万円}/A A≒1119万円